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はじめに
スマートフォンやインターネットサービスの普及により、亡くなった方の財産や契約が、通帳や紙の書類からは分からないケースが増えています。
例えば、次のようなものです。
- インターネット銀行の預金
- ネット証券の株式や投資信託
- 暗号資産
- 電子マネーや各種ポイント
- ネットショップ等の売上金
- クラウド上の写真や文書
- SNS、メール、動画配信サービスのアカウント
- 月額課金のサブスクリプション
- オンラインゲーム内の有償アイテム
これらは一般に「デジタル遺産」や「デジタル遺品」と呼ばれていますが、法律上統一された定義があるわけではありません。
また、預金や暗号資産のように経済的価値を持つものと、SNSアカウントや写真データのように利用規約・プライバシーが問題になるものとでは、取扱いが異なります。
本記事では、デジタル遺産の調査方法、相続手続、相続税申告との関係、相続人が注意すべき点について解説します。
1 デジタル遺産とは
国民生活センターは、デジタル遺品について、故人がインターネット上に保有していた資産のデータや、契約していたサブスクリプションのアカウントなどが含まれるものとして紹介しています。kokusen.go.jp
デジタル遺産は、大きく次の3種類に分けて考えると分かりやすいでしょう。
(1)経済的価値があるもの
- インターネット銀行の預金
- ネット証券の株式、投資信託、債券
- FX取引口座
- 暗号資産
- 電子マネーの残高
- ネットショップやフリマサービスの売上金
- アフィリエイト報酬
- 有償ポイント
- オンライン上の著作物から生じる収益
これらは、原則として相続財産に含まれる可能性があります。
ただし、ポイントやゲーム内アイテムなどは、利用規約上、相続や第三者への移転が認められていないこともあります。
(2)契約上の地位や継続課金
- 動画・音楽配信サービス
- 電子書籍サービス
- オンラインストレージ
- セキュリティソフト
- 有料メールサービス
- レンタルサーバー、ドメイン
- 各種アプリの月額課金
これらは、相続財産としての価値があるとは限りませんが、解約しなければ料金の請求が続く可能性があります。
(3)写真、メール、SNSなどのデータ
- スマートフォン内の写真や動画
- クラウド上の写真・文書
- 電子メール
- SNSの投稿やメッセージ
- ブログ
- 動画投稿サイトのアカウント
- パソコン内のデータ
これらについては、データの内容、著作権、プライバシー、サービスの利用規約などを個別に確認する必要があります。
2 デジタル遺産は相続できるのか
デジタル形式で管理されているというだけで、相続財産から除外されるわけではありません。
例えば、インターネット銀行の預金は、紙の通帳が発行されていなくても預金債権です。ネット証券で保有する株式や投資信託も、通常の金融資産と同様、相続手続の対象になります。
一方、SNSや動画配信サービスなどのアカウントは、利用者本人だけに認められた契約上の地位であり、利用規約によって譲渡や承継が制限されていることがあります。
したがって、「IDとパスワードが分かれば相続人がそのまま利用できる」とは限りません。
デジタル遺産については、次の点を分けて確認する必要があります。
- 財産的価値があるか
- 相続の対象となる権利か
- サービスの利用規約上、承継が認められるか
- データの閲覧や取得が認められるか
- 解約や返金が可能か
3 デジタル遺産を調査する方法
デジタル遺産は、現物が見えにくいことが大きな特徴です。相続人が存在に気付かなければ、遺産分割や相続税申告から漏れるおそれがあります。
(1)郵便物やメールを確認する
金融機関やサービス事業者から、取引報告書、残高のお知らせ、契約更新、請求などの通知が届いていないか確認します。
もっとも、故人のメールに無断でログインする行為は、利用規約やプライバシーとの関係で問題になる可能性があります。まずは端末の状況や事業者の相続手続を確認することが安全です。
(2)預金口座やクレジットカードの明細を確認する
通帳、銀行口座、クレジットカードの利用明細には、次の手掛かりが残っていることがあります。
- 証券会社や暗号資産交換業者への入出金
- サブスクリプション料金
- クラウドサービスの利用料
- アプリストアへの継続的な支払い
- サーバーやドメインの利用料
少額の定期的な支払いであっても、放置すると請求が継続する可能性があります。
(3)スマートフォンやパソコンを確認する
端末に入っているアプリ、ブックマーク、デスクトップ上のショートカットなどから、利用していたサービスが分かる場合があります。
ただし、端末を初期化したり、パスワードを何度も誤入力したりすると、データが消去・ロックされる可能性があります。重要なデータがあると考えられる場合は、むやみに操作しないことが大切です。
(4)確定申告書などを確認する
故人が確定申告をしていた場合、申告書やその添付資料から、株式取引、暗号資産取引、ネット上の事業収入などが判明することがあります。
個人事業主の場合には、ウェブサイト、ネットショップ、クラウド会計、オンライン広告など、事業継続に必要なアカウントも確認する必要があります。
(5)取引事業者へ照会する
利用していた事業者が判明した場合は、死亡の事実と相続人であることを示す書類を準備し、相続手続を問い合わせます。
一般的には、次のような書類を求められることがあります。
- 被相続人の死亡が分かる戸籍
- 相続人であることが分かる戸籍
- 遺言書または遺産分割協議書
- 相続人の本人確認書類
- 印鑑証明書
必要書類や手続は事業者によって異なります。
4 暗号資産の相続で特に注意すべき点
暗号資産は財産的価値を持つため、相続財産となり、相続税の課税対象にもなります。
国税庁は、相続や贈与によって取得した暗号資産について、財産評価基本通達に評価方法の直接の定めがないため、評価方法の定めのない財産として、同通達に定める評価方法に準じて評価するとしています。活発な市場がある暗号資産については、原則として、利用する暗号資産交換業者が公表する相続開始時の取引価格などを基に評価します。nta.go.jp
取引所で管理されている場合
国内の暗号資産交換業者を利用している場合は、その事業者へ相続手続を問い合わせます。
故人のIDやパスワードを使って相続人が売却・送金するのではなく、事業者所定の手続によることが原則です。
個人のウォレットで管理されている場合
個人のウォレットで暗号資産を管理している場合、秘密鍵や復元用フレーズが分からなければ、資産を技術的に移転できない可能性があります。
暗号資産の存在を把握して相続税を申告しなければならない一方、秘密鍵が分からず実際には処分できないという問題も生じ得ます。
秘密鍵や復元用フレーズは、他人に知られると資産を移転される危険があるため、電子メールなどで安易に送信せず、厳重に管理する必要があります。
5 デジタル遺産が遺産分割から漏れた場合
遺産分割協議が成立した後に、新たなネット銀行口座や暗号資産が見つかることがあります。
この場合、既に成立した遺産分割協議が当然にすべて無効になるわけではありません。新たに見つかった財産について、相続人間で追加の遺産分割協議を行う方法が一般的です。
もっとも、新たに見つかった財産が非常に高額であり、その存在を知っていれば当初の分割内容に同意しなかったと考えられる場合や、相続人の一人が意図的に財産を隠していた場合には、当初の協議の効力や損害賠償責任が問題になる可能性があります。
遺産分割協議書には、後から判明した財産の取得者を定める条項を入れることもありますが、財産の価値や相続税への影響によっては、改めて相続人間で調整する必要があります。
6 相続税申告から漏れないように注意する
デジタル遺産であっても、経済的価値があり、相続税法上の財産に当たれば、相続税の課税対象となります。
相続税における財産の価額は、原則として相続開始時の時価によって評価されます。nta.go.jp
特に暗号資産は価格変動が大きいため、現在の価格ではなく、相続開始時点の価額を確認しなければなりません。
デジタル遺産が申告後に判明し、課税遺産総額や税額が増加する場合には、修正申告や追加納税が必要になる可能性があります。
相続税の申告期限は、原則として、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。デジタル遺産の調査に時間がかかることもあるため、早めに着手することが重要です。
7 故人のID・パスワードを使ってもよいのか
相続人であっても、故人のIDやパスワードを使って自由にアカウントへログインできるとは限りません。
利用規約で本人以外の利用を禁止している場合もあり、アクセスの方法や目的によっては法的問題が生じる可能性があります。
特に、次の行為は慎重に判断する必要があります。
- 故人の名義で取引する
- 暗号資産や売上金を自分の口座へ移す
- 故人としてメッセージを送信する
- メールや非公開メッセージを広範囲に閲覧する
- 他の相続人に知らせずアカウントを解約する
- 写真や文書を削除する
まず、サービス事業者へ死亡後の手続を問い合わせ、必要に応じて相続人間で協議することが適切です。
8 有料サービスを放置しない
デジタル遺産の問題は、財産を受け取る場面だけではありません。
故人が利用していたサブスクリプションを把握できず、死亡後も料金が引き落とされ続けることがあります。国民生活センターも、故人が契約していたサブスクリプションの解約にID・パスワードを求められ、遺族が困った事例を紹介しています。kokusen.go.jp
預金口座やクレジットカードを解約しただけでは、契約そのものが終了せず、未払料金が発生する可能性もあります。
利用していたサービスを特定し、各事業者の規定に従って解約手続を行う必要があります。
9 デジタル遺産を残す側ができる対策
家族が困らないようにするためには、生前から「デジタル終活」を行うことが有効です。
利用サービスの一覧を作る
次の項目を整理しておきます。
- 金融機関・証券会社・暗号資産交換業者の名称
- 有料サービスの名称
- スマートフォンやパソコンの種類
- 重要なデータの保存場所
- 事業用アカウント
- 解約してほしいサービス
- 写真やSNSを残すか削除するか
パスワードを安全に管理する
一覧表にパスワードを直接記載し、誰でも見られる場所に置くことは危険です。
パスワード管理アプリ、施錠できる場所、信頼できる専門家への情報保管などを検討し、家族には「必要な情報がどこにあるか」が分かるようにしておくとよいでしょう。
遺言書との役割を分ける
遺言書には、誰にどの財産を取得させるかを記載できます。
しかし、遺言書に変更の多いパスワードを直接記載することは、更新や情報管理の面で適切とは限りません。
財産の承継は遺言書、アカウント一覧や取扱いの希望は別の文書として管理する方法が考えられます。
10 よくある質問
Q1 スマートフォンのロックを解除できなければ、相続手続はできませんか
必ずしもスマートフォンのロック解除が必要とは限りません。
利用していた銀行、証券会社、暗号資産交換業者などが分かれば、相続関係書類を提出して、各事業者の相続手続を進められることがあります。
まず、郵便物、預金通帳、クレジットカード明細、確定申告書などから利用事業者を調査します。
Q2 ネット銀行の預金も遺産分割の対象ですか
ネット銀行の預金も、通常の銀行預金と同様に相続財産となります。
紙の通帳がなくても、口座がなくなるわけではありません。銀行所定の相続手続を行います。
Q3 電子マネーやポイントも相続できますか
サービスの利用規約によって異なります。
残高の払戻しや承継が認められるものもあれば、利用者の死亡によって資格やポイントが失効するものもあります。各事業者の規約や手続を確認する必要があります。
Q4 暗号資産を相続したことを申告しなければなりませんか
暗号資産は相続税の課税対象となる財産です。
暗号資産を売却していない場合や、相続人がまだ換金できていない場合でも、原則として相続開始時の価額を相続財産に含めて検討する必要があります。
Q5 故人のSNSは家族が引き継げますか
サービスによって異なります。
追悼アカウントへ移行できる場合、遺族から削除を申請できる場合、原則として第三者への承継を認めない場合などがあります。利用規約と事業者所定の手続を確認してください。
Q6 他の相続人に知らせずデジタル資産を移してもよいですか
遺産分割前に、相続人の一人が暗号資産や売上金を自分の口座へ移すことは、他の相続人との紛争につながります。
財産を発見した場合は、その内容と評価額を相続人間で共有し、遺産分割協議の対象とすることが重要です。
まとめ
デジタル遺産には、ネット銀行、ネット証券、暗号資産などの財産だけでなく、サブスクリプション、写真、メール、SNSなども含まれます。
対応のポイントは次のとおりです。
- 郵便物、カード明細、確定申告書などから利用サービスを調査する
- ID・パスワードで安易にログインせず、事業者の相続手続を確認する
- 暗号資産など経済的価値のあるものは遺産分割に含める
- サブスクリプションの解約漏れを確認する
- 相続税申告からデジタル資産を漏らさない
- 生前からアカウント一覧や取扱いの希望を整理する
デジタル遺産は発見しにくく、サービスごとに手続も異なります。調査に時間がかかる間に相続税の申告期限が迫ることもあります。
弁護士法人結の杜総合法律事務所では、仙台・宮城を中心に、遺産調査、遺産分割、遺言書作成、相続人間の紛争など、相続に関するご相談をお受けしています。
当事務所は税理士事務所を併設し、代表弁護士が税理士でもあるため、遺産分割と相続税申告の双方を踏まえた対応が可能です。
「ネット上の財産があるようだが内容が分からない」「暗号資産が見つかった」「遺産分割後にデジタル資産が判明した」といった場合には、早めに当事務所へご相談ください。
※本記事は2026年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な説明です。サービスごとの手続や利用規約は変更されることがあります。
宮城県仙台市に拠点を置く弁護士法人結の杜総合法律事務所は、2012年の開設以来、地域の皆様の法的ニーズに応えてまいりました。代表の髙橋和聖は、地元宮城で生まれ育ち、弁護士・税理士としての資格を持ち、法律と税務の両面からサポートを提供しています。当事務所は、青葉区五橋に本店、泉区泉中央に支店を構え、2022年10月には東京支店も開設しました。これからも、仙台・宮城の皆様に寄り添い、親しみやすい法律事務所として、質の高いサービスを提供してまいります。
