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コラム「2026年10月からカスハラ対策が義務化―企業が今すぐ準備すべきことを弁護士が解説」

2026-08-28

1 はじめに

2026年(令和8年)10月1日から、改正労働施策総合推進法により、すべての事業主にカスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」を防止するための措置が義務付けられます。

これまでも、従業員の安全や健康に配慮する観点から、企業にはカスハラへの適切な対応が求められていました。今回の改正により、企業の方針の明確化、相談窓口の設置、被害発生後の対応、悪質な顧客への対処などが、法律上の義務として明確に求められることになります。

対象となるのは、飲食店や小売店などの接客業だけではありません。医療機関、介護・福祉施設、学校、不動産会社、建設会社、運送会社、コールセンター、士業、自治体関連業務など、顧客、取引先、施設利用者等と接点のある、ほぼすべての業種に関係します。

しかも、中小企業や個人事業主であっても、労働者を一人でも雇用していれば対象となります。

本稿では、どのような言動がカスハラに当たるのか、正当なクレームとどう区別するのか、企業が2026年10月1日までに何を準備すべきかについて解説します。

2 カスタマーハラスメントとは

改正法におけるカスタマーハラスメントとは、次の3つの要件をすべて満たすものをいいます。

  1. 顧客等による言動であること
  2. その言動が、業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えていること
  3. その言動によって労働者の就業環境が害されること

電話、メール、口コミサイトへの投稿、SNS上の言動、オンライン会議なども対象になります。厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます」

(1)「顧客等」の範囲

「顧客等」には、商品を購入した顧客だけでなく、次のような者も含まれます。

  • 取引先や取引の相手方
  • 病院、学校、介護施設、公共施設などの利用者
  • 商品やサービスを利用しようとする者
  • 問い合わせや見積りをした者
  • 今後、商品を購入し、またはサービスを利用する可能性がある者
  • 事業に関係するその他の利害関係者

したがって、契約締結前の問い合わせや、取引先担当者からの言動であっても、カスハラに該当する可能性があります。

(2)「就業環境が害される」とは

単に従業員が不快に感じたというだけで、直ちにカスハラになるわけではありません。

言動によって従業員が強い恐怖や苦痛を感じ、業務に集中できない、出勤できない、心身に不調を来すなど、その能力を十分に発揮できない程度の支障が生じたかが問題となります。

もっとも、暴行、脅迫、人格を否定するような暴言など、言動の内容が重大な場合には、一度の言動でもカスハラに該当し得ます。

3 どのような言動がカスハラに当たるのか

カスハラに該当し得る言動には、大きく分けて「要求の内容が不当な場合」と「要求を伝える方法・態様が不当な場合」があります。

(1)要求内容が不当なケース

例えば、次のような要求です。

  • 商品やサービスに問題がないのに金銭を要求する
  • 商品やサービスと全く関係のない要求をする
  • 契約内容を著しく超えるサービスを要求する
  • 対応することが不可能、または著しく困難な要求を繰り返す
  • 根拠のない返金や損害賠償を要求する
  • 従業員の解雇や異動を執拗に要求する
  • 正当な理由なく特別扱いや優先対応を求める
  • 土下座や謝罪文の提出を要求する

(2)言動の手段・態様が不当なケース

要求自体に一定の理由があっても、その伝え方が社会通念上許容される範囲を超えていれば、カスハラに該当する可能性があります。

例えば、次のような言動です。

  • 暴行、物を投げる、胸ぐらをつかむ
  • 「殺す」「店を潰す」などと脅迫する
  • 大声で怒鳴る、机をたたく
  • 人格を否定するような暴言や侮辱を繰り返す
  • 性別、年齢、出身地、障害などに関する差別的発言をする
  • 長時間にわたって電話や対面で従業員を拘束する
  • 何度断っても同じ要求を繰り返す
  • 店舗や事務所から退去しない
  • 従業員の氏名、顔写真、音声などをSNSで公開する
  • 「ネットでさらす」「悪い口コミを書き続ける」と脅す
  • 従業員個人への連絡や面会を要求する
  • 従業員を無断で撮影・録音し、インターネット上で公開する
  • 従業員につきまとう、自宅や家族を調べる

4 正当なクレームとの違い

顧客からの苦情や要望のすべてがカスハラになるわけではありません。

商品に不具合があった、説明内容が事実と異なっていた、従業員の接客態度に問題があったなどの場合、顧客が説明、修理、交換、返金などを求めることには正当な理由があります。

企業には、顧客の意見を適切に受け止め、商品やサービスの改善につなげる姿勢も必要です。

カスハラか正当なクレームかを判断する際には、主に次の点を検討します。

  • 顧客の要求に根拠があるか
  • 商品やサービスの問題と要求内容が釣り合っているか
  • 企業がすでに合理的な対応を提示しているか
  • 暴言、脅迫、侮辱、差別的発言がないか
  • 対応時間や連絡回数が著しく過剰ではないか
  • 従業員個人への攻撃になっていないか
  • 顧客の言動によって従業員の就業環境が害されているか

カスハラ対策を口実として、正当な苦情まで一律に排除することは適切ではありません。

また、障害のある顧客への対応では、障害者差別解消法に基づく合理的配慮の提供義務にも留意する必要があります。

5 企業に義務付けられる10の措置

2026年10月1日以降、企業には、次のような措置を講じることが義務付けられます。

(1)カスハラに対する会社の方針を明確にする

会社として、カスハラには毅然と対応し、従業員を守るという方針を明確にします。

方針は、就業規則、カスハラ対応規程、社内通知、研修資料などに記載し、従業員に周知する必要があります。

経営者が方針を決めているだけでは足りず、従業員が内容を理解していることが重要です。

(2)カスハラの内容と対応方法を従業員に周知する

どのような言動がカスハラに当たるのかを具体的に示し、発生した場合の対応方法もあらかじめ決めておきます。

例えば、次のようなルールです。

  • 一人で対応せず、上司や責任者に引き継ぐ
  • 電話対応を打ち切る条件を定める
  • 面談は複数名で対応する
  • 来訪者を別室に案内する場合のルールを定める
  • 暴力や脅迫があれば警察へ通報する
  • 本社や経営者へ報告する
  • 弁護士に対応を引き継ぐ

(3)相談窓口を設置する

従業員が被害を受けた場合に相談できる窓口をあらかじめ設け、その存在を周知します。

相談窓口は、社内の人事・総務担当者だけでなく、外部の弁護士などに委託することも考えられます。

(4)相談担当者が適切に対応できるようにする

相談窓口を形式的に設けるだけでは十分ではありません。

相談担当者に対し、相談の聴き取り方、緊急性の判断、プライバシーへの配慮、社内での報告方法などを教育しておく必要があります。

(5)事実関係を迅速かつ正確に確認する

カスハラの申告があった場合には、従業員、顧客、同席者などから事情を聴き、録音、メール、防犯カメラ、SNSの投稿などの客観的資料を確認します。

顧客の言動だけでなく、商品やサービスに問題がなかったか、従業員側の対応に改善すべき点がなかったかも確認します。

(6)被害を受けた従業員に配慮する

被害を受けた従業員については、状況に応じて次のような措置を検討します。

  • 顧客対応から外す
  • 対応担当者を交代する
  • 一時的に休ませる
  • 医師や産業医等への相談を案内する
  • 勤務場所や勤務時間を調整する
  • メンタルヘルス相談につなげる
  • 顧客から従業員への直接連絡を遮断する

被害を訴えた従業員に、その後も一人で対応させ続けることは避けるべきです。

(7)再発防止措置を講じる

事実確認の結果、カスハラが認められた場合には、同様の被害が起きないよう、事例の共有、マニュアルの改訂、従業員研修、顧客対応記録の整備などを行います。

カスハラに該当するか明確に判断できなかった場合でも、再発防止の観点から必要な対策を検討することが重要です。

(8)悪質なカスハラへの対処方針と体制を整備する

特に悪質なカスハラについて、どの段階で通常対応を終了し、誰が判断し、どのような措置を取るかを決めておきます。

具体的には、次のような対応が考えられます。

  • 電話、面談、メール対応を終了する
  • 今後の連絡方法を書面に限定する
  • 警告書を送付する
  • 店舗や施設への立入りを断る
  • 商品販売やサービス提供を拒否する
  • 弁護士を窓口とする
  • 警察へ相談・通報する
  • 仮処分や損害賠償請求などの法的手続きを検討する

ただし、契約関係や業種によっては、直ちにサービス提供を拒否できない場合もあります。対応拒否や契約解除を行うときは、法的根拠や手続を慎重に検討する必要があります。

(9)相談者等のプライバシーを保護する

相談した従業員、行為者、目撃者などの個人情報は、事実確認や対応に必要な範囲で取り扱い、社内で不必要に共有しないようにします。

プライバシーを保護するためのルールを定め、従業員に周知することも必要です。

(10)相談したことを理由とする不利益な取扱いを禁止する

従業員がカスハラ被害を相談したことや、事実確認に協力したことを理由として、解雇、雇止め、降格、不利益な配置転換などを行ってはなりません。

会社として、不利益な取扱いをしないことを明確に定め、従業員に周知する必要があります。

6 企業はどこまで顧客対応を拒否できるのか

カスハラが発生した場合でも、企業が直ちにすべての対応を拒否できるとは限りません。

一方で、従業員が暴言や脅迫を受け続けているにもかかわらず、「お客様だから」という理由で対応を続けさせることも適切ではありません。

対応を終了または制限できるかは、次の事情を総合的に検討して判断します。

  • 顧客の要求に正当な理由があるか
  • 会社が必要な説明や代替案を提示したか
  • 暴言、脅迫、侮辱などの有無・程度
  • 対応の時間や回数
  • 過去にも同様の言動があったか
  • 従業員や他の利用者への危険性
  • 契約上、継続してサービスを提供する義務があるか
  • 医療、介護、公共交通など、サービスの性質
  • 警告後も問題行為が続いているか

いきなり対応を拒否するのではなく、原則として、注意、警告、対応方法の限定、責任者への引継ぎ、弁護士対応など、段階的な対応を定めておくとよいでしょう。

ただし、暴行、傷害、脅迫、不退去、器物損壊など、犯罪に当たり得る行為がある場合には、安全確保を優先し、直ちに警察へ通報することも必要です。

7 録音や防犯カメラによる記録はできるのか

カスハラへの対応では、客観的な証拠を確保することが重要です。

電話の録音、メールやSNS投稿の保存、防犯カメラ映像、対応記録、目撃者のメモなどは、事実確認や警察・弁護士への相談に役立ちます。

もっとも、録音データや映像には個人情報が含まれるため、次の点に注意が必要です。

  • 利用目的を定める
  • 社内で閲覧できる者を限定する
  • 安全に保管する
  • 保存期間を定める
  • 目的外利用や不必要な共有を避ける
  • ウェブサイトや店頭表示などによる周知を検討する

現場の従業員が個人のスマートフォンで録音・撮影し、そのデータを私的に保管する運用は、情報管理上の問題が生じやすいため、会社が使用機器や保存方法を定めることが望ましいでしょう。

8 会社が対策をしなかった場合のリスク

会社が必要なカスハラ対策を講じなかった場合、行政から助言、指導、勧告等を受ける可能性があります。

また、カスハラ被害を把握しながら従業員を保護せず、被害を拡大させた場合には、安全配慮義務違反などを理由として、従業員から損害賠償を請求される可能性もあります。

そのほか、次のようなリスクが考えられます。

  • 従業員の休職・退職
  • 採用難や人材の定着率低下
  • 職場の士気や生産性の低下
  • 労災申請
  • 企業の評判や信用の低下
  • 対応の属人化によるトラブル拡大
  • 顧客との紛争や訴訟

特に、現場担当者に判断を任せ、管理職や経営者が対応しない状態は避けなければなりません。

9 2026年10月1日までの企業向けチェックリスト

企業は、施行日までに少なくとも次の事項を確認しておく必要があります。

  • カスハラに対する会社の基本方針を作成したか
  • カスハラの定義と具体例を整理したか
  • 正当なクレームとの判断基準を定めたか
  • 対応マニュアルを作成したか
  • 現場から管理職へ引き継ぐ基準を定めたか
  • 電話や面談を終了する基準を定めたか
  • 悪質な顧客への警告・対応拒否の手順を定めたか
  • 警察や弁護士へ相談する基準を定めたか
  • 従業員の相談窓口を設置したか
  • 相談担当者への研修を行ったか
  • 被害を受けた従業員を保護する方法を定めたか
  • 相談者のプライバシー保護を定めたか
  • 相談を理由とする不利益取扱いを禁止したか
  • 録音・防犯カメラ・対応記録の管理方法を定めたか
  • 就業規則や社内規程との整合性を確認したか
  • 経営者、管理職、現場従業員への研修を実施したか

厚生労働省は、改正法、指針、パンフレットなどを公表していますが、実際の対応内容は、業種、顧客との契約関係、従業員数、店舗・事業所の体制などに応じて具体化する必要があります。厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」

10 よくある質問

Q1 小規模な会社や個人事業主も対象になりますか

はい。企業規模や業種を問わず、労働者を雇用するすべての事業主が対象となります。

正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員などを一人でも雇用していれば、対応が必要です。

Q2 相談窓口は社内に設置しなければなりませんか

必ずしも社内だけに設置する必要はありません。

企業の規模によっては、社内に独立した相談担当者を置くことが難しい場合もあります。外部の弁護士などを相談窓口とする方法も考えられます。

Q3 顧客との会話を無断で録音できますか

当事者として会話を録音することが直ちに違法になるわけではありません。ただし、録音データには個人情報や機密情報が含まれる可能性があるため、録音の目的、管理方法、閲覧権限、保存期間などをあらかじめ定めておくことが重要です。

Q4 「SNSに書く」と言われたらカスハラになりますか

単に顧客が意見や事実をSNSに投稿すると述べただけで、直ちにカスハラになるわけではありません。

もっとも、「要求を受け入れなければ虚偽の投稿をする」「従業員の氏名や写真をさらす」などと告げ、企業や従業員を威迫する場合には、カスハラに該当する可能性があります。

Q5 カスハラをした顧客との契約を解除できますか

契約条項、問題行為の内容・回数、事前の警告、サービスの性質などによって異なります。

契約解除や利用停止を行ったことが、逆に債務不履行などとして争われる場合もあるため、重大な対応を取る前に法的な検討を行うことをお勧めします。

11 まとめ

2026年10月1日から、すべての事業主にカスタマーハラスメント防止措置が義務付けられます。

企業には、単に「カスハラは禁止です」と掲示するだけでなく、次のような実効性のある体制整備が求められます。

  • 会社の基本方針を明確にする
  • カスハラの判断基準を定める
  • 相談窓口を設ける
  • 現場の対応手順を定める
  • 被害を受けた従業員を保護する
  • 悪質な顧客への警告・対応拒否の基準を定める
  • 録音や対応記録を適切に管理する
  • 管理職や従業員への研修を行う

カスハラは、発生してから対応を考えると、従業員の安全確保と顧客対応の判断が難しくなります。問題が起きる前に、誰が、どの段階で、どのように対応するのかを決めておくことが重要です。

カスハラ対応規程・マニュアルの作成は当事務所にご相談ください

弁護士法人結の杜総合法律事務所では、仙台・宮城の企業を中心に、次のようなカスタマーハラスメント対策のご相談をお受けしています。

  • カスハラ対応方針・社内規程の作成
  • 業種に応じた対応マニュアルの作成
  • 相談窓口や社内報告体制の整備
  • 従業員・管理職向け研修
  • 警告書や回答書の作成
  • 悪質な顧客との交渉窓口
  • 警察への相談や法的手続き
  • 顧問契約による継続的な企業法務対応

当事務所は、仙台の本店に加えて東京支店を設けており、宮城県内の企業はもちろん、東京に拠点を置く企業や、宮城・首都圏の双方に事業所を展開する企業からのご相談にも対応しています。

また、税理士事務所を併設しているため、カスハラ対策に伴う人員配置、社内制度、各種手当などの見直しが必要となる場合には、必要に応じて法務と税務の両面を踏まえた総合的な検討が可能です。

「どこまでが正当なクレームなのか判断できない」「顧客対応を断ってよいか分からない」「施行日までに規程やマニュアルを整備したい」といった場合には、問題が深刻化する前に、お早めにご相談ください。

コラム「カスタマーハラスメントとは?企業・事業主が取るべき具体的な対応策と予防法を徹底解説」
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コラム「2026年10月からパート・契約社員のルールが変わります―企業が見直すべき労働条件通知書と待遇差」

2026-08-21

1 はじめに

2026年(令和8年)10月1日から、パートタイム・有期雇用労働者の待遇に関するルールが改正されます。

今回の改正では、主に次の3点が変更されます。

  1. 労働条件通知書の明示事項の追加
  2. 「同一労働同一賃金ガイドライン」の改正
  3. 企業に求められる雇用管理上の措置の見直し

パート従業員や契約社員を雇用している企業は、労働条件通知書のひな形を変更するだけでなく、正社員との間に設けている賞与、退職金、各種手当、休暇、福利厚生などの違いについても、あらためて点検する必要があります。

本稿では、2026年10月から何が変わり、企業がどのような準備を進めるべきかを解説します。

2 「同一労働同一賃金」とは

「同一労働同一賃金」とは、同じ企業で働く正社員と、パートタイム・有期雇用労働者との間に、不合理な待遇差を設けることを禁止する考え方です。

ここでいう待遇には、基本給だけでなく、次のようなものも含まれます。

  • 賞与
  • 退職手当
  • 役職手当
  • 通勤手当
  • 家族手当
  • 住宅手当
  • 食事手当
  • 休暇
  • 休職制度
  • 福利厚生施設の利用
  • 教育訓練

もっとも、「正社員とパート・契約社員の待遇をすべて同一にしなければならない」という意味ではありません。

職務の内容や責任の程度、人事異動・配置転換の範囲などに違いがあれば、その違いに応じた待遇差が認められる場合があります。

重要なのは、単に「正社員ではないから」「契約期間が決まっているから」という理由だけで待遇を低くするのではなく、個々の待遇の性質や目的に照らし、その違いを合理的に説明できるかという点です。

3 改正点① 労働条件通知書の明示事項が追加される

(1)新たに明示が必要となる内容

現在、企業がパートタイム・有期雇用労働者を雇い入れる際には、一般的な労働条件に加えて、次の事項を明示しなければなりません。

  • 昇給の有無
  • 賞与の有無
  • 退職手当の有無
  • 雇用管理の改善等に関する相談窓口

2026年10月1日からは、これに加えて、

正社員との待遇の相違の内容・理由等について、会社に説明を求めることができる旨

を明示しなければならなくなります。

この明示義務は、新たに雇い入れる場合だけでなく、労働契約を更新する場合にも適用されます。

(2)記載例

労働条件通知書には、例えば次のような記載を設けることが考えられます。

正社員との間の待遇の相違の内容および理由、待遇の決定に当たって考慮した事項について、下記の窓口に説明を求めることができます。
相談窓口:総務部人事課 担当〇〇
電話番号:〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇

厚生労働省も改正に対応したモデル労働条件通知書を公表しています。厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」

(3)違反した場合

この明示義務に違反した場合、10万円以下の過料に処される可能性があります。

したがって、企業は2026年10月1日までに、パート従業員・契約社員向けの労働条件通知書や雇用契約書のひな形を見直しておく必要があります。

4 改正点② 賞与・退職金・各種手当などの考え方が明確になる

今回の改正では、これまでの裁判例などを踏まえ、「同一労働同一賃金ガイドライン」の内容も見直されます。

特に注意が必要なのは、次のような待遇です。

(1)賞与・退職手当

賞与や退職手当には、賃金の後払い、功労報償、長期勤務への動機付けなど、さまざまな目的があります。

その目的がパートタイム・有期雇用労働者にも当てはまるにもかかわらず、正社員との職務内容などの違いに応じた支給を一切行わない場合、不合理な待遇差と判断される可能性があります。

「パートだから賞与は一律ゼロ」「契約社員だから退職金は一切支給しない」という制度については、その理由を説明できるか検討する必要があります。

(2)無事故手当

無事故手当が、安全な運行や事故防止を目的とするものであり、正社員とパート・有期雇用労働者が同じ内容の業務を担当している場合には、同一の手当を支給する必要があるとされています。

雇用形態だけを理由に支給対象から除外することは問題となり得ます。

(3)家族手当

労働契約の更新を繰り返しているなど、相応に継続的な勤務が見込まれるパートタイム・有期雇用労働者については、正社員と同一の家族手当を支給しなければならない場合があります。

「有期契約だから長期雇用を予定していない」という形式的な説明だけでは、十分でないことがあります。

(4)住宅手当

住宅手当が「転居を伴う配置変更の有無」に応じて支給されている場合、正社員と同様に転居を伴う配置変更が予定されているパート・有期雇用労働者には、同一の住宅手当を支給する必要があります。

反対に、正社員にだけ全国転勤が予定され、パート従業員には勤務地の変更がない場合には、その違いが待遇差の合理的な理由になり得ます。

(5)夏季・冬季休暇

正社員に夏季休暇や冬季休暇を与えている場合、パートタイム・有期雇用労働者にも同一の休暇を付与することが求められます。

所定労働日数や契約期間などに違いがある場合は、その違いに応じた取扱いが許される可能性がありますが、雇用形態だけを理由として一律に対象外とすることには注意が必要です。

(6)病気休職中の賃金保障

正社員に病気休職中の賃金保障を行っている場合、契約更新を繰り返し、相応に継続的な勤務が見込まれる有期雇用労働者にも、同様の保障が必要となる場合があります。

(7)福利厚生施設

社員食堂、休憩室、更衣室などの施設だけでなく、施設の利用料金や割引率などについても、不合理な待遇差を設けることはできません。

5 「正社員の人材確保のため」という説明だけでは足りない

企業からは、

正社員には長く働いてもらう必要があるため、パートや契約社員より待遇を手厚くしている

という説明がされることがあります。

しかし、今回の改正では、「正社員の人材を確保・定着させるため」という目的だけで、直ちに待遇差が合理的になるわけではないことが明確にされています。

例えば、通勤費、無事故手当、食事手当、休暇などは、その待遇の具体的な目的に照らして判断されます。

「正社員用の制度だから」というだけではなく、次の点を具体的に説明できるようにしておく必要があります。

  • その手当や制度は何を目的としているのか
  • 正社員とパート・契約社員で職務や責任がどのように違うのか
  • 配置転換や転勤の範囲にどのような違いがあるのか
  • その違いが待遇差にどのように反映されているのか

6 定年後再雇用者の待遇差にも注意が必要

定年後に有期契約で再雇用された労働者についても、「定年後の再雇用者だから」という理由だけで待遇差が当然に許されるわけではありません。

待遇差が不合理かどうかは、基本給、賞与、各種手当など、それぞれの性質や目的に照らして個別に判断されます。

定年前と同じ仕事を担当し、責任の程度もほとんど変わらないにもかかわらず、賃金や手当が大幅に減額されている場合には、トラブルになる可能性があります。

7 改正点③ 会社は具体的な資料を用いて説明する必要がある

パートタイム・有期雇用労働者は、正社員との待遇差の内容や理由について、会社に説明を求めることができます。

今回の改正後、会社が説明する場合には、原則として次のいずれかの方法によることが求められます。

  • 資料を示したうえで、口頭で説明する
  • 説明すべき事項をすべて記載した、分かりやすい資料を交付する

「会社の規程で決まっている」「正社員と契約社員では雇用区分が違う」といった抽象的な回答だけでは、十分な説明とはいえません。

企業としては、賃金表、職務記述書、人事評価基準、手当の支給基準などを整理し、待遇差の根拠を具体的に説明できる状態にしておく必要があります。

なお、労働者が待遇差について説明を求めたことを理由として、解雇、雇止め、降格などの不利益な取扱いをすることは禁止されています。

8 企業が2026年10月までに準備すべきこと

パート従業員や契約社員を雇用している企業は、少なくとも次の事項を確認しておくことをお勧めします。

チェックリスト

  • パート・有期雇用労働者向けの労働条件通知書を改定する
  • 契約更新時にも改定後の書式を使用する
  • 待遇差に関する説明窓口を決める
  • 正社員とパート・契約社員の待遇を一覧にする
  • 基本給、賞与、退職金の決定基準を確認する
  • 家族手当、住宅手当、通勤手当などの支給基準を確認する
  • 夏季休暇、病気休職、福利厚生の利用条件を確認する
  • 職務内容、責任、転勤・配置転換の範囲を整理する
  • 待遇差について説明するための資料を作成する
  • 就業規則、賃金規程、雇用契約書の内容を整合させる
  • 管理職や人事担当者に改正内容を周知する

待遇差を解消するために正社員の待遇を引き下げる場合には、労働条件の不利益変更という別の問題が生じます。単に正社員の手当を廃止すればよいわけではないため、慎重な検討が必要です。

9 労働者が確認すべきポイント

パートタイム・有期雇用労働者の方は、正社員との間に待遇差があるからといって、直ちに違法になるわけではないことに注意が必要です。

まずは、次の点を確認しましょう。

  • 正社員と実際に同じ仕事をしているか
  • 業務上の責任の重さは同じか
  • 転勤や配置転換の範囲は同じか
  • 問題となっている手当や制度の目的は何か
  • 会社から待遇差について具体的な説明を受けたか

会社の説明に納得できない場合や、待遇差に合理的な理由がないと思われる場合には、資料を整理したうえで弁護士などに相談することが考えられます。

10 よくある質問

Q1 パート従業員の賃金を正社員と同じにしなければなりませんか

必ずしも、すべて同じにする必要はありません。

職務内容、責任の程度、配置変更の範囲などに違いがあれば、その違いに応じた待遇差が認められる場合があります。ただし、それぞれの待遇について、差を設ける理由を合理的に説明できなければなりません。

Q2 既存のパート従業員にも新しい労働条件通知書を渡す必要がありますか

2026年10月1日以降に新たに雇い入れる場合だけでなく、労働契約を更新する場合にも、新しい明示ルールが適用されます。

既存の従業員についても、次回の契約更新までに書式を改定しておく必要があります。

Q3 賞与をパート従業員に支給していない場合、直ちに違法になりますか

直ちに違法になるわけではありません。

ただし、賞与の目的や正社員との職務内容等の違いを検討し、その目的がパート従業員にも当てはまる場合には、職務内容等の違いに応じた支給を検討する必要があります。

Q4 労働条件通知書だけ変更すれば対応は終わりますか

通知書の変更だけでは十分ではありません。

実際の待遇差が不合理でないかを確認し、労働者から説明を求められた際に、客観的な資料を用いて説明できる体制を整える必要があります。

11 まとめ

2026年10月1日から、パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れ、または労働契約を更新する際には、正社員との待遇差について説明を求めることができる旨を、新たに明示しなければなりません。

また、賞与、退職手当、家族手当、住宅手当、休暇、福利厚生などについても、正社員との違いに合理的な理由があるかを点検する必要があります。

対応を後回しにすると、改正後に労働条件通知書の不備を指摘されたり、従業員から待遇差の説明や是正を求められたりする可能性があります。

パート従業員や契約社員を雇用している企業は、施行前に、労働条件通知書、雇用契約書、就業規則、賃金規程などを一体的に見直すことが重要です。

労働条件通知書・賃金制度の見直しは当事務所にご相談ください

弁護士法人結の杜総合法律事務所では、仙台・宮城の企業を中心に、労働条件通知書や雇用契約書の改定、就業規則・賃金規程の見直し、同一労働同一賃金への対応など、企業の労務問題に関するご相談をお受けしています。

同一労働同一賃金への対応では、法律上の問題だけでなく、賞与、退職金、各種手当などを含む賃金制度全体への影響を検討することが重要です。当事務所には税理士事務所が併設されているため、必要に応じて、法務と税務の双方を踏まえた総合的な対応をご提案することができます。

また、仙台の本店に加えて東京支店を設けており、宮城県内の企業はもちろん、東京に拠点を置く企業や、宮城と首都圏の双方に事業所を展開する企業からのご相談にも対応しています。

「現在の手当や賞与の違いに問題がないか確認したい」「労働条件通知書を改正に対応させたい」「従業員から待遇差について説明を求められた」といった場合には、問題が表面化する前に、お早めにご相談ください。

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コラム「【保存版】AI時代だからこそ顧問弁護士が企業に必要な理由とは?生成AIでは代替できない弁護士の役割を解説(第5回・最終回)」

2026-08-14

はじめに

ここまで4回にわたり、生成AIを活用した契約書作成や、そのメリット・リスク、企業が整備すべきAI利用ルールについて解説してきました。

AIは、契約書の作成や文章の要約、情報整理など、多くの業務を効率化できる非常に優れたツールです。

その一方で、

「AIがここまで進化したのだから、顧問弁護士は必要なくなるのではないか。」

と考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、私たちが日々企業からご相談を受ける中で感じるのは、AIが普及した現在だからこそ、弁護士に求められる役割はむしろ大きくなっているということです。

本コラムでは、AIにはできないこと、そしてAI時代における顧問弁護士の役割について解説します。


AIは「答え」を示せても、「経営判断」はできない

生成AIは、大量の情報をもとに回答を作成できます。

例えば、

  • 契約書のひな型を作る
  • 法律の概要を説明する
  • メール文を作成する
  • 会議の議事録を要約する

といった作業は非常に得意です。

しかし、企業経営では、

  • この契約を締結すべきか
  • 相手方の要求を受け入れるべきか
  • どこまで譲歩できるか
  • 今回は裁判より交渉を優先すべきか

といった「経営判断」が日々求められます。

これらは、法律だけでは答えが出ません。

会社の規模、資金繰り、取引先との関係、将来の事業戦略など、多くの事情を総合的に考慮して判断する必要があります。

このような判断は、現在のAIでは代替できません。


顧問弁護士は「問題が起きてから相談する相手」ではない

「弁護士はトラブルになってから相談するもの」と思われがちです。

しかし、企業法務において最も重要なのは、トラブルが起こる前にリスクを減らすことです。

例えば、

  • 契約締結前の確認
  • 新しいサービスの法的チェック
  • 社内規程の整備
  • 労務トラブルの予防
  • クレーム対応のアドバイス

など、日常的な相談を通じて、紛争そのものを防ぐことができます。

これは「予防法務」と呼ばれ、企業経営において非常に重要な役割を果たします。


AIが普及すると、法的リスクも増える

AIは便利ですが、利用が広がるほど、新しいリスクも生まれます。

例えば、

  • 社員が顧客情報をAIへ入力した
  • AIが誤った内容を顧客へ回答した
  • AIで作成した広告が他社の権利を侵害した
  • AIが作成した契約書をそのまま利用してトラブルになった

これらは、今後ますます増えていくことが予想されます。

つまり、AIを導入する企業ほど、法的なリスク管理が重要になるのです。


AIと顧問弁護士は「競争相手」ではなく「最良のパートナー」

「AIか、弁護士か」という二者択一ではありません。

実際には、それぞれ得意分野が異なります。

AIが得意なこと顧問弁護士が得意なこと
契約書のたたき台作成自社に合わせた契約内容への修正
法律情報の整理最新の法令・裁判例を踏まえた助言
文書の要約紛争を見据えたリスク分析
定型業務の効率化交渉・紛争対応・経営判断のサポート
アイデア出し会社の実情に応じた最適な解決策の提案

AIが得意な業務はAIに任せ、人でなければできない判断を弁護士が担う。

この役割分担こそが、AI時代の企業法務の理想的な姿です。


顧問弁護士がいる企業のメリット

顧問契約というと、「大企業だけのもの」と考えられることがあります。

しかし、近年では中小企業やスタートアップでも、継続的に法務相談ができる体制を整える企業が増えています。

顧問弁護士がいることで、

  • 小さな疑問を早めに相談できる
  • トラブルが大きくなる前に対応できる
  • 契約書を安心して締結できる
  • 労務や取引先対応について継続的な助言を受けられる
  • 経営判断の法的な裏付けを得られる

といったメリットがあります。

「問題が起きたら相談する」のではなく、「問題を起こさないために相談する」という考え方が重要です。


AI時代だからこそ求められる「相談しやすい顧問弁護士」

AIは、気軽に質問できる便利なツールです。

だからこそ、顧問弁護士にも「相談しやすさ」がより求められる時代になっています。

「こんなことを聞いてもよいのだろうか。」

「まだトラブルではないけれど相談したい。」

そのような段階で相談できることが、結果として大きなトラブルの予防につながります。

顧問弁護士は、法律だけでなく、企業の事業内容や経営方針を理解したうえで、継続的なパートナーとして助言を行います。


結の杜総合法律事務所が目指す企業法務

結の杜総合法律事務所では、契約書の作成・レビューや労務問題への対応はもちろん、AI時代に対応した企業法務にも力を入れています。

生成AIの活用が進む中で、

  • AIを利用した契約書のレビュー
  • AI利用ガイドラインの整備
  • 情報管理体制の構築
  • 新しいサービスの法的チェック
  • 日常的な企業法務相談

など、企業の実情に応じたサポートを行っています。

また、代表弁護士は税理士資格を有し、税理士事務所を併設しているため、契約内容だけでなく、税務や事業全体を見据えた総合的なアドバイスが可能です。

法律だけでなく、経営全体を見据えた支援を行えることが、当事務所の強みの一つです。


まとめ

生成AIは、企業活動を大きく変える可能性を持つ非常に優れたツールです。

しかし、AIはあくまで「業務を支援するツール」であり、企業ごとの事情を踏まえた経営判断や、紛争を予防するための法的判断まで代替することはできません。

AIを上手に活用しながら、重要な契約や経営判断については顧問弁護士と連携することが、これからの企業経営においてますます重要になるでしょう。

シリーズをお読みいただいた皆さまへ

本シリーズでは、AIと契約書、AI利用ルール、企業法務について5回にわたり解説してきました。

AIは、企業にとって非常に有用なツールですが、その力を最大限に活かすためには、法的リスクを正しく理解し、適切に管理することが欠かせません。

結の杜総合法律事務所では、AIを積極的に活用する企業を、法務・税務の両面から支援しています。

「AIを安心して業務に取り入れたい」「契約書や社内ルールを見直したい」「日常的に相談できる顧問弁護士を探している」という企業の皆さまは、ぜひお気軽にご相談ください。

AI時代だからこそ、人にしかできない判断と経験を活かし、企業の持続的な成長をサポートいたします。

【全シリーズ】

コラム「【保存版】AIで作成した契約書はそのまま使って大丈夫?弁護士が徹底解説|企業が知るべきリスク・チェックポイント・安全な活用方法(第1回)」

コラム「【保存版】AIで作成した契約書に潜む落とし穴とは?実際に起こり得るトラブル事例と企業が整備すべきAI利用ルール(第2回)」

コラム「【保存版】AIが作成した契約書を弁護士はどこまでチェックする?企業を守る「契約書レビュー」のポイントを解説(第3回)」

コラム「【保存版】中小企業もAI利用ルールは必要?ChatGPT時代に企業が整備しておきたいAI利用規程とは(第4回)」

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コラム「【2026年開始】亡くなった親の不動産を調べる方法|所有不動産記録証明制度を弁護士が解説」

2026-08-07

親が亡くなって相続手続を始めようとしても、「親がどこに、どのような不動産を所有していたのか分からない」ということがあります。

自宅の土地・建物だけでなく、遠方の山林や農地、先代から相続した土地、わずかな共有持分などが残されていることも珍しくありません。

これまでは、固定資産税の納税通知書や市区町村の名寄帳などを手掛かりに、一つずつ不動産を調査する必要がありました。しかし、名寄帳は原則として市区町村ごとに取得しなければならず、相続人が把握していない地域にある不動産を発見することは容易ではありませんでした。

そこで、2026年(令和8年)2月2日から、新たに「所有不動産記録証明制度」が始まりました。

この制度を利用すると、亡くなった方が登記簿上の所有者として記録されている不動産を、全国の登記情報から一覧的に調べることができます。

本記事では、所有不動産記録証明制度の内容、請求できる人、手続方法、利用する際の注意点について、弁護士が解説します。

1 所有不動産記録証明制度とは

所有不動産記録証明制度とは、特定の人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を、登記情報から検索し、一覧にした「所有不動産記録証明書」の交付を受けられる制度です。

例えば、父親が亡くなった場合、相続人が父親の氏名や住所などを検索条件として請求することで、父親名義で登記されている土地や建物を一覧的に確認できます。

所有不動産記録証明書には、主に次のような情報が記載されます。

  • 不動産番号
  • 土地の所在・地番
  • 建物の所在・家屋番号
  • 登記名義人の氏名・住所
  • 所有権の持分
  • 検索に使用した氏名・住所などの条件

これまでのように、不動産がありそうな市区町村を一つずつ推測して調査する必要がなくなるため、相続財産調査の負担を大きく軽減できる可能性があります。

2 なぜこの制度が作られたのか

所有不動産記録証明制度が設けられた背景には、相続した不動産が把握されないまま放置され、所有者不明土地が増加してきたという問題があります。

被相続人が複数の地域に不動産を所有している場合、相続人がそのすべてを把握できるとは限りません。

特に、次のような不動産は見落とされやすい傾向があります。

  • 遠方にある山林や農地
  • 固定資産税が課税されていない土地
  • 評価額が低い土地
  • 私道や墓地などの共有持分
  • 祖父母やさらに前の世代から引き継いだ土地
  • 被相続人が若い頃に取得した土地
  • 所有権の一部の持分だけを有する不動産

相続人が存在を知らなければ、遺産分割協議の対象にもならず、相続登記も行われません。

そこで、登記名義人の氏名・住所などを手掛かりに、全国の不動産を一覧的に検索できる仕組みが導入されました。

3 誰が請求できるのか

所有不動産記録証明書を請求できるのは、主に次の人です。

(1)不動産の登記名義人本人

自分が所有権の登記名義人として記録されている不動産について、証明書を請求できます。

例えば、「自分が昔取得した土地を含め、どのような不動産を所有しているのか確認したい」という場合にも利用できます。

(2)登記名義人の相続人

登記名義人が亡くなっている場合、その相続人は、亡くなった方の所有不動産について証明書を請求できます。

配偶者や子だけでなく、相続関係によっては、親、兄弟姉妹、甥・姪などが請求できる場合もあります。

もっとも、相続人として請求する場合は、戸籍謄本などによって、被相続人が死亡したことや、請求者が相続人であることを証明する必要があります。

(3)代理人

本人や相続人から委任を受けた代理人も請求できます。

その場合には、原則として委任状などが必要です。

なお、所有不動産記録証明書は、通常の登記事項証明書とは異なり、誰でも自由に請求できるものではありません。個人の財産に関する情報であるため、請求できる人が限定されています。

4 どのように不動産を検索するのか

所有不動産記録証明制度では、登記簿に記録されている所有者の氏名・住所などを検索条件として不動産を調べます。

ここで重要なのは、検索条件として入力した氏名・住所と、登記簿に記録されている氏名・住所が一致しなければ、不動産が検索結果に表示されない可能性があるという点です。

例えば、被相続人が生前に何度も転居しているにもかかわらず、不動産登記上の住所変更をしていなかった場合には、現在の住所だけで検索しても、古い住所で登記された不動産が見つからないことがあります。

そのため、被相続人について、次の情報をできる限り確認しておく必要があります。

  • 死亡時の氏名・住所
  • 旧姓
  • 過去の住所
  • 氏名の旧字体・異体字
  • 住居表示実施前の住所
  • 海外居住歴がある場合の住所や氏名表記

過去の住所は、戸籍の附票や住民票の除票などから確認できる場合があります。

複数の氏名・住所を検索条件とする場合には、その氏名や住所を証明する戸籍、戸籍の附票、住民票の除票などが必要になることがあります。

5 請求に必要な書類

相続人が、亡くなった方の所有不動産記録証明書を請求する場合、一般的には次のような書類が必要になります。

  • 所有不動産記録証明書交付請求書
  • 被相続人の死亡が分かる戸籍・除籍謄本
  • 請求者が相続人であることを証明する戸籍謄本
  • 被相続人の住所を確認できる住民票の除票または戸籍の附票
  • 請求者の本人確認書類
  • 過去の氏名・住所を検索する場合、それを証明する書類
  • 代理人が請求する場合は委任状
  • 郵送請求の場合は返信用封筒・切手

ただし、相続関係や検索条件によって必要書類は異なります。

法定相続情報一覧図の写しを取得している場合には、戸籍一式に代えて利用できることがあります。

6 請求方法と手数料

所有不動産記録証明書は、次の方法で請求できます。

(1)法務局の窓口で書面請求する方法

所定の交付請求書と必要書類を法務局に提出します。

書面請求の手数料は、検索条件1件につき、証明書1通当たり1,600円です。手数料は収入印紙で納付します。

(2)法務局へ郵送で請求する方法

請求書、必要書類、収入印紙、返信用封筒・切手などを郵送して請求することもできます。

窓口に出向く必要がないため、遠方に住んでいる相続人でも利用できます。

(3)オンラインで請求する方法

登記・供託オンライン申請システムの申請用総合ソフトを利用して、オンラインで請求する方法もあります。

オンライン請求の手数料は、交付方法によって次のとおりです。

  • 郵送で受け取る場合:1,500円
  • 法務局の窓口で受け取る場合:1,470円

オンライン請求の手数料は、インターネットバンキングやペイジー対応ATMなどによる電子納付となります。

なお、手数料は証明書全体で一律ではなく、原則として「検索条件ごと」にかかります。

例えば、被相続人について4種類の氏名・住所を検索条件として書面請求する場合、1,600円×4件で6,400円となる場合があります。

7 所有不動産記録証明書を取得すれば、すべての不動産が判明するのか

所有不動産記録証明制度は非常に便利ですが、証明書を取得すれば、被相続人に関係するすべての不動産が必ず判明するとは限りません。

特に、次のような場合には注意が必要です。

(1)登記簿上の住所と検索条件が一致しない場合

被相続人が住所変更登記をしていなかった場合、死亡時の住所だけで検索しても、古い住所で登記されている不動産が表示されない可能性があります。

過去の住所が複数ある場合には、それぞれを検索条件とすることを検討する必要があります。

(2)氏名の表記が異なる場合

旧姓、旧字体、異体字などにより、検索条件と登記簿上の氏名が一致しないことがあります。

例えば、「髙」と「高」、「﨑」と「崎」など、文字の違いにも注意が必要です。

(3)登記されていない建物など

所有不動産記録証明制度は、登記情報を検索する制度です。

そのため、そもそも登記されていない建物などは、原則として検索結果に表示されません。

(4)被相続人以外の名義になっている場合

実際には被相続人が代金を支払った不動産でも、登記名義が別人であれば、被相続人の氏名・住所による検索結果には表示されません。

反対に、登記名義は被相続人であるものの、実質的な所有者について争いがある場合には、別途法的な検討が必要です。

(5)証明書だけでは権利関係の詳細が分からない場合

所有不動産記録証明書は、不動産を一覧的に把握するための資料です。

抵当権の有無、差押えの有無、共有者の詳細など、すべての登記事項が記載されるわけではありません。

不動産が判明した後は、各不動産の登記事項証明書を取得し、詳しい権利関係を確認する必要があります。

8 名寄帳との違い

不動産調査の方法としては、市区町村が発行する「名寄帳」もあります。

両者の主な違いは、次のとおりです。

項目所有不動産記録証明書名寄帳
情報の基礎法務局の登記情報市区町村の固定資産課税情報
調査範囲全国の登記情報原則として各市区町村内
主な目的登記名義人の不動産を一覧的に確認する固定資産税の課税対象を確認する
未登記建物原則として把握できない課税されていれば掲載される可能性がある
住所・氏名の不一致検索されない可能性がある課税情報の内容による

両方の制度にはそれぞれ長所と限界があります。

そのため、相続財産をできる限り漏れなく調査するには、所有不動産記録証明書だけに頼らず、次の資料も併せて確認することが重要です。

  • 固定資産税の納税通知書
  • 市区町村の名寄帳
  • 登記事項証明書
  • 権利証・登記識別情報通知
  • 売買契約書
  • 預金通帳の固定資産税引落履歴
  • 被相続人宛ての郵便物
  • 自治体や土地改良区からの通知
  • 火災保険・地震保険の契約書類

9 不動産が見つかった後に必要な手続

所有不動産記録証明書を取得しただけでは、相続手続が完了するわけではありません。

不動産が判明した後は、通常、次のような手続が必要になります。

  1. 各不動産の登記事項証明書を取得する
  2. 固定資産評価証明書などを取得して評価額を確認する
  3. 遺言書の有無を確認する
  4. 相続人と相続財産を確定する
  5. 相続人間で遺産分割協議を行う
  6. 遺産分割協議書を作成する
  7. 相続登記を申請する
  8. 必要に応じて相続税を申告する

相続人間で話合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることも検討します。

また、不動産を誰が取得するかによって、相続税だけでなく、将来売却した場合の譲渡所得税や、他の相続人に支払う代償金などにも違いが生じます。

遺産分割の方法を決める際には、法律面と税務面の両方から検討することが重要です。

10 相続登記には期限がある

2024年(令和6年)4月1日から、相続登記の申請が義務化されています。

相続によって不動産を取得した相続人は、原則として、相続によって所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。

正当な理由なく期限内に申請しなかった場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。

また、相続登記の義務化前に発生した相続も対象です。過去の相続について相続登記をしていない場合には、原則として2027年(令和9年)3月31日までに対応する必要があります。

遺産分割がまとまらず、期限内に通常の相続登記ができない場合には、「相続人申告登記」を利用して、ひとまず申請義務を履行する方法もあります。

ただし、相続人申告登記をしただけでは、遺産分割や最終的な相続登記が完了するわけではありません。遺産分割成立後には、改めてその内容に沿った登記が必要です。

11 よくある質問

Q1 父が不動産を持っていなかった場合も証明書は発行されますか

請求した検索条件に該当する不動産がない場合には、その旨を示す証明書が交付されます。

ただし、「該当する不動産がない」という結果であっても、別の住所や旧姓で登記された不動産、未登記建物などが存在しないことまで証明するものではありません。

Q2 兄弟の一人だけで請求できますか

共同相続人全員で請求する必要はなく、相続人の一人から請求できます。

ただし、被相続人との相続関係を戸籍などで証明する必要があります。

Q3 遺産分割協議の前でも請求できますか

請求できます。

むしろ、遺産分割協議を始める前に取得し、対象となる不動産をできる限り把握しておくことが重要です。

遺産の一部を見落としたまま協議すると、後から不動産が判明し、追加の遺産分割協議が必要になることがあります。

Q4 所有不動産記録証明書があれば、そのまま相続登記できますか

所有不動産記録証明書だけで相続登記ができるわけではありません。

相続登記には、戸籍関係書類、住民票、遺言書または遺産分割協議書、固定資産評価証明書などが必要になります。

Q5 相続人同士で不動産の分け方が決まらない場合はどうすればよいですか

まずは、不動産の評価額や利用状況、売却可能性などを確認したうえで協議します。

話合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停を利用します。

不動産の分け方には、一人が取得して他の相続人に代償金を支払う「代償分割」、不動産を売却して代金を分ける「換価分割」などがあります。安易に共有名義にすると、将来の売却や管理をめぐって新たな紛争が生じることがあるため、慎重な検討が必要です。

12 まとめ

2026年2月2日に始まった所有不動産記録証明制度により、亡くなった方が登記名義人となっている不動産を、全国の登記情報から一覧的に調べられるようになりました。

これまで把握が難しかった遠方の山林、農地、共有持分などを発見できる可能性があり、相続財産調査において非常に有用な制度です。

もっとも、検索条件となる氏名・住所と登記簿上の記録が一致しなければ、不動産が検索結果に表示されない可能性があります。また、未登記建物などは対象になりません。

相続財産を漏れなく調査するには、所有不動産記録証明書だけでなく、戸籍の附票、名寄帳、固定資産税の納税通知書、登記事項証明書なども併せて確認することが重要です。

不動産が判明した後には、遺産分割協議、相続登記、相続税申告などの手続が必要になります。

弁護士法人結の杜総合法律事務所では、相続財産の調査、遺産分割協議、遺産分割調停、相続登記に向けた手続などについてご相談をお受けしています。

当事務所には税理士事務所も併設しているため、不動産の分け方だけでなく、相続税や不動産売却時の税金なども含め、法律・税務の両面から検討することが可能です。

「亡くなった親の不動産がどこにあるか分からない」「不動産の分け方について相続人同士で話がまとまらない」といった場合には、お早めにご相談ください。

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コラム「【保存版】中小企業もAI利用ルールは必要?ChatGPT時代に企業が整備しておきたいAI利用規程とは(第4回)」

2026-07-31

はじめに

ChatGPTをはじめとする生成AIは、今や特別なツールではありません。

契約書の作成や議事録の要約、メールの作成、資料作成など、さまざまな業務で活用されるようになり、多くの企業で「業務の効率化」を支える存在となっています。

一方で、

「社員が顧客情報をAIへ入力してしまった。」

「契約書をそのままAIへ読み込ませていた。」

「会社としてAIの利用ルールを決めていない。」

このようなケースも少なくありません。

便利だからこそ、使い方を誤ると、

  • 情報漏えい
  • 著作権侵害
  • 個人情報保護法上の問題
  • 取引先との信用低下

などにつながる可能性があります。

そのため、企業規模を問わず、AIを業務で利用するのであれば、一定のルールを整備しておくことが重要です。

本コラムでは、中小企業でも実践しやすいAI利用ルール(AI利用規程)の考え方について解説します。


AI利用規程とは?

AI利用規程とは、社員が業務で生成AIを利用する際のルールを定めた社内規程やガイドラインです。

難しい内容である必要はありません。

大切なのは、

「どのようなAIを、どのような目的で、どのようなルールの下で利用するか」

を社内で共通認識にすることです。

AIを導入している企業だけでなく、社員が個人のアカウントでAIを利用している場合にも、一定のルールを設けておくことをおすすめします。


AI利用規程が必要な5つの理由

① 情報漏えいを防ぐため

最も重要なのは、情報管理です。

例えば、社員が

  • 契約書
  • 顧客名簿
  • 見積書
  • 未公開の商品情報
  • 社内会議資料

などをそのままAIへ入力してしまうと、会社の重要な情報が外部サービスに送信される可能性があります。

利用するAIサービスによってデータの取扱いは異なるため、「どの情報なら入力できるのか」を明確にしておく必要があります。


② 個人情報を適切に保護するため

顧客や従業員の氏名、住所、電話番号、メールアドレスなどの個人情報をAIへ入力すると、個人情報保護の観点から問題となる場合があります。

特に、

  • 顧客相談
  • 人事労務
  • 医療
  • 福祉
  • 士業

などの分野では、慎重な取扱いが求められます。


③ AIの回答を過信しないため

生成AIは非常に自然な文章を作成できます。

しかし、

  • 法律
  • 税務
  • 会計
  • 労務

などでは、誤った内容や不正確な情報が含まれることがあります。

そのため、

「AIが作成した内容は、人が必ず確認する」

というルールを設けることが重要です。


④ 著作権・知的財産権のリスクに対応するため

AIが作成した文章や画像については、利用方法によって著作権などの問題が生じる可能性があります。

例えば、

  • ホームページの記事
  • チラシ
  • 広告
  • プレゼン資料

などをAIで作成する場合には、第三者の権利を侵害しないよう注意が必要です。


⑤ 社員による利用方法を統一するため

部署や担当者ごとにAIの使い方が異なると、情報管理や品質管理が難しくなります。

利用できるAIサービスや利用目的を一定程度統一することで、業務の効率化とリスク管理を両立しやすくなります。


AI利用規程で定めておきたい項目

会社の規模や業種によって内容は異なりますが、一般的には次のような項目を定めるとよいでしょう。

項目内容の例
利用目的業務効率化、文章作成、情報整理など
利用できるAI会社が承認したAIサービス
入力禁止情報個人情報、営業秘密、契約書原本など
利用時の確認AIの回答は必ず人が確認する
著作権第三者の権利侵害がないか確認する
情報管理利用履歴やアクセス権限の管理
教育定期的な社内研修の実施

「細かなルールを作る」ことよりも、「社員が理解し、実践できるルール」にすることが重要です。


中小企業がまず取り組みたい5つのポイント

AI利用規程を一度に完璧なものへする必要はありません。

まずは、次の5つを決めるだけでも大きな前進です。

  • 利用できるAIサービスを決める
  • 入力してはいけない情報を明確にする
  • AIの回答は必ず人が確認する
  • 重要な契約や対外文書は責任者が確認する
  • 定期的にルールを見直す

AI利用規程は「禁止するため」ではなく「安心して活用するため」

「AI利用規程を作ると、社員がAIを使いにくくなるのではないか」と心配されることがあります。

しかし、本来の目的は逆です。

ルールを整備することで、

  • 社員が安心してAIを利用できる
  • 情報漏えいを防げる
  • 品質を保ちながら業務を効率化できる

というメリットがあります。

AIを禁止するのではなく、「安全に活用するためのルール」を作ることが重要です。


よくある質問(Q&A)

Q 従業員が数名しかいない会社でもAI利用規程は必要ですか?

はい。会社の規模にかかわらず、顧客情報や営業秘密を取り扱う場合には、簡易なガイドラインでも整備しておくことをおすすめします。

Q 就業規則に追加する必要がありますか?

会社の運用によって異なります。就業規則の一部として定める方法もあれば、AI利用ガイドラインとして別に整備する方法もあります。

Q AI利用規程は一度作れば十分ですか?

いいえ。生成AIは急速に進化しており、利用方法やサービス内容も変化しています。定期的に見直しを行うことが重要です。


まとめ

生成AIは、企業の業務効率化に大きく貢献する一方で、情報管理や法的リスクにも十分な注意が必要です。

AI利用規程は、社員を縛るためのものではなく、企業が安心してAIを活用するためのルールです。

会社の実情に合ったルールを整備し、AIのメリットを最大限に活かしながらリスクを抑えることが、これからの企業経営には欠かせません。

結の杜総合法律事務所へご相談ください

結の杜総合法律事務所では、契約書の作成・レビューだけでなく、企業のAI利用ガイドラインや社内規程の整備、情報管理体制の構築に関するご相談にも対応しています。

また、代表弁護士は税理士資格を有し、税理士事務所を併設しているため、法務と税務の両面から企業のAI活用をサポートしています。

「AIを導入したいが、どのようなルールを作ればよいか分からない」「自社の実情に合ったAI利用規程を整備したい」とお考えの際は、ぜひお気軽にご相談ください。


次回予告

第5回では、「AI時代だからこそ顧問弁護士が企業に必要とされる理由」をテーマに、AIでは代替できない弁護士の役割や、顧問契約が企業経営にもたらすメリットについて解説します。

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顧問弁護士についてはこちら

コラム「【保存版】AIが作成した契約書を弁護士はどこまでチェックする?企業を守る「契約書レビュー」のポイントを解説(第3回)」

2026-07-24

はじめに

これまでのコラムでは、生成AIを利用した契約書作成のメリットとリスク、そしてAIを安全に活用するためのポイントについて解説しました。

ここまでお読みいただいた方の中には、

「AIで契約書を作った後、弁護士は何をチェックしているのだろう?」

という疑問をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。

「契約書をチェックする」と聞くと、誤字脱字や法律用語の誤りを修正する作業をイメージされる方も少なくありません。

しかし、実際の契約書レビューはそれだけではありません。

弁護士は、「この契約によって将来どのようなトラブルが起こり得るか」を予測し、そのリスクを契約書によってできる限り防ぐという視点で内容を確認します。

本コラムでは、AIが作成した契約書を弁護士がレビューする際に、特に重視しているポイントをご紹介します。


契約書レビューとは「会社を守る設計図」を作ること

契約書レビューの目的は、「法律的に正しい契約書」を作ることではありません。

本当の目的は、

  • 将来の紛争を予防すること
  • 自社が過大な責任を負わないようにすること
  • トラブルが起きても不利にならないよう備えること

です。

AIは一般的な契約書を作成できますが、「どこまでリスクを負うべきか」「どの条件なら契約を締結すべきか」といった経営判断までは行えません。

そのため、契約書レビューでは、会社の立場や業種、取引内容を踏まえた調整が重要になります。


チェックポイント① 契約の目的と実際の取引内容が一致しているか

AIは入力された内容をもとに契約書を作成します。

しかし、現実の取引では、

  • 口頭で合意している内容
  • 長年の取引慣行
  • メールで追加合意した事項

などが存在することがあります。

契約書にこれらが反映されていなければ、トラブル時に「契約書に書いていない」と主張されるおそれがあります。

弁護士は、契約書と実際の取引内容にズレがないかを確認します。


チェックポイント② 責任の範囲は適切か

契約書の中でも特に重要なのが損害賠償条項です。

例えば、

  • 契約金額100万円の取引なのに、責任は無制限
  • 間接損害や逸失利益まで賠償対象
  • 故意・重過失以外でも重い責任を負う

といった内容になっていれば、企業にとって大きなリスクとなります。

弁護士は、契約の性質や金額、業界慣行を踏まえ、責任の範囲が適切かを確認します。


チェックポイント③ 契約解除の条件は明確か

契約解除条項は、紛争時に最も問題となりやすい条項の一つです。

例えば、

  • 相手方が代金を支払わない
  • 納期を守らない
  • 情報漏えいがあった

このような場合に、どのような手続で契約を解除できるのかが曖昧だと、契約関係を終了させること自体が難しくなることがあります。

解除事由や催告の要否などは、実際の運用を想定して定める必要があります。


チェックポイント④ 知的財産権は守られているか

IT開発、ホームページ制作、デザイン、動画制作などでは、成果物の権利関係が重要です。

AIが作成した契約書では、

  • 著作権の帰属
  • 利用範囲
  • 改変の可否

などが十分に整理されていないことがあります。

成果物を自由に利用できない、あるいは将来の事業展開に支障を来すことがないよう、契約目的に応じた条項が必要です。


チェックポイント⑤ 代金を確実に回収できるか

契約書には「いくら支払うか」だけではなく、

  • 支払期限
  • 請求方法
  • 遅延損害金
  • 分割払いの条件
  • 契約解除後の精算方法

なども重要です。

代金回収の場面を想定した条項になっているかどうかで、実際の回収可能性は大きく変わります。


チェックポイント⑥ 秘密情報や個人情報は十分に保護されているか

営業秘密や顧客情報を扱う企業では、秘密保持条項の内容が非常に重要です。

弁護士は、

  • 秘密情報の定義
  • 開示できる場合
  • 契約終了後の義務
  • 個人情報保護法との整合性

などを確認し、企業の情報資産を守るための内容になっているかを検討します。


AIでは判断が難しい「経営判断」の視点

AIは「一般的な契約書」を作ることは得意です。

しかし、例えば次のような判断は、企業ごとに異なります。

  • 新規取引先だから慎重な条件にする
  • 長年の取引先なので柔軟な条件にする
  • 将来の取引拡大を見据えて譲歩する
  • 相手方との交渉力を踏まえて条件を調整する

こうした判断には、法律だけでなく経営や取引実務の視点も欠かせません。


AIと弁護士を組み合わせることが最も効率的

生成AIは、契約書作成の時間を大幅に短縮できます。

一方で、重要な契約については、人による最終確認が不可欠です。

おすすめしたいのは、

  1. AIで契約書のたたき台を作成する
  2. 社内で内容を確認する
  3. 重要な契約は弁護士がレビューする

という流れです。

これにより、効率性と安全性の両立が期待できます。


よくある質問(Q&A)

Q すべての契約書を弁護士に見てもらう必要がありますか?

必ずしもすべてではありません。しかし、新規取引、大型案件、継続的な取引、知的財産権が関係する契約などは、弁護士による確認をおすすめします。

Q AIで作成した契約書でもレビューしてもらえますか?

もちろん可能です。AIで作成した契約書を前提に、企業の実情や取引内容に合わせて修正・補足し、実務で使える契約書へと整えます。

Q 契約書レビューはトラブル防止につながりますか?

はい。契約書レビューは、紛争が起きてから対応するのではなく、「紛争を起こさないため」の予防法務です。将来のリスクを見据えて契約内容を整えることは、企業経営にとって大きな意味があります。


まとめ

契約書レビューとは、単に文章を修正する作業ではありません。

将来起こり得る紛争を予測し、会社の利益を守るために契約内容を設計することが、その本質です。

AIは契約書作成を効率化する非常に便利なツールですが、会社ごとの事情や経営判断まで反映することはできません。

だからこそ、AIを上手に活用しながら、重要な契約については弁護士が最終確認を行うことで、企業の法的リスクを大きく減らすことができます。

結の杜総合法律事務所へご相談ください

結の杜総合法律事務所では、AIを利用して作成した契約書のレビュー、契約書の新規作成・修正、継続的な企業法務支援(顧問契約)まで幅広く対応しています。

また、代表弁護士は税理士資格を有し、税理士事務所を併設しているため、契約内容だけでなく税務上の影響も踏まえた総合的なアドバイスが可能です。

「AIを活用しながらも、会社をしっかり守りたい」とお考えの企業の皆さまは、ぜひお気軽にご相談ください。


次回予告

第4回では、「中小企業が整備しておきたいAI利用規程とは?」をテーマに、AI時代に求められる社内ルールや情報管理体制、実務で押さえておきたいポイントを分かりやすく解説します。

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コラム「【保存版】AIで作成した契約書に潜む落とし穴とは?実際に起こり得るトラブル事例と企業が整備すべきAI利用ルール(第2回)」

2026-07-17

はじめに

前回のコラムでは、ChatGPTなどの生成AIを利用した契約書作成のメリットと、AIだけに頼ることのリスクについて解説しました。

AIは契約書作成を効率化する非常に便利なツールですが、「AIが作ったから安心」というわけではありません。

実際には、契約書はトラブルが起きたときにはじめて、その内容の重要性が明らかになります。

本コラムでは、AIで作成した契約書で実際に起こり得るトラブル事例を紹介するとともに、企業がAIを安全に活用するためのルール作りや、弁護士が契約書をチェックする際にどのような点を確認しているのかを解説します。


ケース1 損害賠償責任が無制限だった

ある会社では、AIを利用して業務委託契約書を作成し、そのまま取引先と契約を締結しました。

契約締結当初は問題なく取引が進んでいましたが、納品後にトラブルが発生し、多額の損害賠償を請求されることになりました。

契約書を確認すると、損害賠償責任の上限を定める条項がありませんでした。

結果として、会社は本来想定していなかった範囲まで責任を負う可能性が生じました。

弁護士ならどう確認するか

契約金額や業務内容、取引関係などを踏まえ、

  • 賠償責任の上限
  • 特別損害・逸失利益の取扱い
  • 間接損害の除外

などを検討し、企業に過大なリスクが生じないよう条項を調整します。


ケース2 成果物の権利が相手方に帰属してしまった

システム開発契約やホームページ制作契約では、成果物の著作権や利用権が重要になります。

AIが作成した契約書では、知的財産権の条項が一般的な表現にとどまることがあります。

その結果、

「制作費を支払ったのに自由に利用・改変できない」

という事態が起こる可能性があります。

弁護士ならどう確認するか

  • 著作権の帰属
  • 利用許諾の範囲
  • 二次利用の可否
  • ソースコードやデータの引渡し

など、契約の目的に応じて具体的に条項を整備します。


ケース3 秘密保持契約(NDA)が会社を守れていなかった

AIで作成した秘密保持契約書は、一見すると十分な内容に見えることがあります。

しかし、

  • 秘密情報の定義が曖昧
  • 契約終了後の義務が定められていない
  • 例外規定が不十分

など、実際の紛争時には十分な保護を受けられない内容になっていることもあります。

営業秘密や顧客情報を取り扱う企業では、特に慎重な確認が必要です。


AIに契約書を読み込ませる前に確認したいチェックポイント

AIへ契約書を入力する前に、次の点を確認しましょう。

  • 顧客名や担当者名などの個人情報が含まれていないか
  • 営業秘密や技術情報が記載されていないか
  • 未公表の価格や取引条件が記載されていないか
  • AIサービスの利用規約や情報の取扱いを確認したか
  • 社内ルールに従った利用となっているか

「契約書の内容」だけでなく、「AIへ入力する情報」についてもリスク管理が必要です。


企業が整備しておきたいAI利用ルール

生成AIを業務で利用する企業では、AI利用ルールを定めることをおすすめします。

例えば、次のような事項を定めておくとよいでしょう。

① AIへ入力してはいけない情報

  • 顧客情報
  • マイナンバーなどの個人情報
  • 営業秘密
  • 技術情報
  • 未公開の契約条件

② AIで作成した契約書の確認体制

  • 作成者だけで完結させない
  • 上長による確認
  • 重要な契約は弁護士がレビュー

③ 利用できるAIサービス

利用するAIサービスを限定し、利用規約やセキュリティを確認した上で運用することも重要です。

④ 社員教育

AIのメリットだけでなく、情報漏えいリスクや著作権、個人情報保護などについて、継続的な教育を行うことも欠かせません。


弁護士はAI契約書のどこをチェックしているのか

「AIで作った契約書をチェックしてください」とご相談をいただいた場合、弁護士は単に誤字脱字や法律用語を確認するわけではありません。

例えば、次のような点を重点的に確認します。

  • 自社に不利な条項はないか
  • 想定される紛争に対応できる内容か
  • 責任の範囲が適切か
  • 契約解除の条件は明確か
  • 代金回収に支障はないか
  • 知的財産権は適切に整理されているか
  • 個人情報保護や法令に適合しているか
  • 業界特有のリスクに対応しているか

契約書は「法的に間違っていない」だけでは十分ではありません。

会社を守る契約書になっているかどうかが最も重要です。


AIと弁護士は「競合」ではなく「補完関係」

「AIがあるから弁護士はいらない」という考え方もあります。

しかし、実際にはAIと弁護士は役割が異なります。

AIは契約書作成の効率化を得意とし、弁護士は契約書を通じたリスク管理や紛争予防を担います。

AIを活用して作業時間を短縮し、そのうえで重要な契約は弁護士が最終確認するという組み合わせが、企業にとって最も合理的な方法といえるでしょう。


まとめ

生成AIは、契約書作成を効率化する強力なツールです。

しかし、契約書は会社の利益や将来の紛争リスクを左右する重要な文書です。

AIが作成した契約書をそのまま利用するのではなく、AIを「たたき台」として活用し、重要な契約については弁護士が内容を確認することで、企業の法的リスクを大きく減らすことができます。

結の杜総合法律事務所へご相談ください

結の杜総合法律事務所では、AIを利用して作成した契約書のレビューや契約書作成、企業法務全般に関するご相談を承っています。

また、代表弁護士は税理士資格を有し、税理士事務所を併設しているため、契約内容だけでなく税務面も踏まえた総合的なアドバイスが可能です。

AIを安心して業務に活用したい企業の皆さまを、法務・税務の両面からサポートいたしますので、お気軽にご相談ください。


次回予告

第3回では、「弁護士はAIが作成した契約書のどこをチェックしているのか?」をテーマに、契約書レビューの具体的なポイントや、AIが見落としやすい契約条項を詳しく解説します。

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コラム「【保存版】AIで作成した契約書はそのまま使って大丈夫?弁護士が徹底解説|企業が知るべきリスク・チェックポイント・安全な活用方法(第1回)」

2026-07-10

はじめに

近年、ChatGPTをはじめとする生成AIの急速な普及により、契約書の作成やチェックにAIを活用する企業が急増しています。

「AIなら数分で契約書を作ってくれる。」
「顧問弁護士に依頼する前にAIで確認すれば十分では?」

そのように考える経営者や担当者の方も少なくありません。

確かに、AIは契約書作成を効率化する非常に優れたツールです。実際、契約書のたたき台を短時間で作成したり、文章表現を改善したりする場面では、大きな力を発揮します。

しかし、その一方で、AIが作成した契約書を十分な確認をしないまま利用した結果、企業が予想外の法的リスクを負ってしまう可能性もあります。

契約書は、単に「法律的に間違っていない文章」を作るものではありません。

契約書の本来の役割は、

  • 将来起こり得る紛争を予防すること
  • 自社の利益を守ること
  • 万一トラブルになった際のルールを明確にすること

にあります。

AIは一般的な契約書を作成することは得意ですが、「あなたの会社にとって最も適切な契約内容」を判断することまではできません。

本コラムでは、企業法務を数多く取り扱う弁護士の視点から、

  • AIで契約書を作るメリット
  • AI契約書に潜むリスク
  • AIが特に間違えやすい契約条項
  • 安全にAIを活用するためのポイント

について、実務に沿って詳しく解説します。


このコラムで分かること

本コラムをお読みいただくと、次のような点をご理解いただけます。

✓ AIで契約書を作成するメリット

✓ AIだけに頼ることの危険性

✓ AIが見落としやすい契約条項

✓ 契約書レビューを弁護士へ依頼するメリット

✓ AIを安全に業務へ活用する方法


AIで契約書を作成するメリット

まずは、AIのメリットを正しく理解しましょう。

AIは決して「危険なもの」ではありません。

むしろ、適切に利用すれば、企業活動を大きく効率化できる優れたツールです。

① 契約書を短時間で作成できる

例えば、

  • 売買契約書
  • 業務委託契約書
  • 秘密保持契約書(NDA)
  • 雇用契約書
  • フリーランスとの契約書
  • 金銭消費貸借契約書
  • 利用規約

など、多くの契約書について、AIは数分程度でひな型を作成できます。

ゼロから作る場合と比較すると、大幅な時間短縮につながります。

② 契約書の「たたき台」として非常に優秀

実務では、契約書は何度も修正を重ねながら完成させます。

AIは、

  • 条項の追加
  • 条項の整理
  • 表現の修正
  • 難しい文章を分かりやすくする

といった作業を得意としており、「たたき台」を作るツールとしては非常に有効です。

③ 契約書の比較・要約ができる

AIは、

「この契約書のポイントを教えてください。」

「前の契約書との違いを説明してください。」

といった依頼にも対応できます。

契約内容を素早く理解するための補助ツールとして活用できるでしょう。

④ 社内教育にも活用できる

新人社員に契約書の基本を学んでもらう際にも、AIは有効です。

例えば、

  • 契約条項の意味
  • 専門用語の説明
  • 契約書の読み方

などを分かりやすく説明してくれるため、法務教育の補助ツールとしても利用できます。


AI契約書の5つのリスク

AIは便利なツールですが、契約書をそのまま信用することには大きなリスクがあります。

ここでは代表的な5つのリスクをご紹介します。


リスク① 法律的には正しくても、自社に不利な契約になることがある

これは最も多いケースです。

AIは「一般的な契約書」を作ることはできます。

しかし、

  • 売主なのか買主なのか
  • 発注者なのか受注者なのか
  • 元請なのか下請なのか

によって、望ましい契約内容は大きく変わります。

例えば、損害賠償条項一つをとっても、

「損害賠償責任に上限を設けるべきか」

「逸失利益を除外すべきか」

といった判断は、会社の立場や取引内容によって異なります。

AIは一般論を提示することはできますが、自社にとって有利な条件を設計することまではできません。


リスク② 最新の法改正や裁判例が反映されていないことがある

AIの回答は、利用するサービスや設定によって異なります。

そのため、

  • 最新の法改正
  • 新しい裁判例
  • 実務の運用変更

が十分に反映されていない可能性があります。

例えば、

  • 個人情報保護法
  • フリーランス・事業者間取引適正化等法
  • 労働関係法令

などは改正や実務の変化が比較的多い分野です。

最新の法令や実務を前提としているかどうかは、必ず確認する必要があります。


リスク③ 業界特有の事情を理解していない

建設業には建設業の、

IT業界にはIT業界の、

医療には医療の、

それぞれ特有の商慣習があります。

例えば、

  • システム開発
  • 建築工事
  • 医療機器
  • フランチャイズ契約

などは一般的な契約書では対応できないケースも少なくありません。

業界特有のリスクを踏まえた契約書であるかどうかは、人による確認が欠かせません。


リスク④ 情報漏えいにつながるおそれがある

AIへ契約書を入力する際には、

  • 顧客名
  • 価格
  • 技術情報
  • 営業秘密
  • 個人情報

などが含まれていないか十分注意する必要があります。

AIサービスによっては入力データの取扱いが異なるため、利用規約や社内ルールを確認せずに重要情報を入力することは避けるべきです。


リスク⑤ AIの回答を過信してしまう

AIの文章は非常に自然で説得力があります。

しかし、もっとも危険なのは、

「AIが言っているから大丈夫だろう」

という思い込みです。

AIは法律上の責任を負いません。

契約を締結した結果について責任を負うのは、あくまでも契約当事者です。

だからこそ、AIを便利な「補助ツール」として活用しつつ、重要な契約では専門家による確認を受けることが重要になります。


AIが特に間違えやすい契約条項10選

AIは契約書全体の構成を整えることは得意ですが、企業にとって重要な条項ほど一般的な内容にとどまりがちです。

次の表は、実務上、特に注意が必要な契約条項をまとめたものです。

契約条項AIが見落としやすいポイント起こり得るリスク
損害賠償責任の範囲や上限額の設定が不十分高額な損害賠償請求を受けるおそれ
契約解除解除事由や解除手続が曖昧一方的に契約を解除されるリスク
支払条件支払期限や遅延損害金の定めが不十分売掛金の回収が困難になる
知的財産権著作権・成果物の帰属が曖昧成果物を自由に利用できなくなる
秘密保持秘密情報の範囲や例外が不明確営業秘密が十分に保護されない
再委託再委託の条件が定められていない品質低下や情報漏えいにつながる
反社会的勢力条項条項が簡略化されている問題が発覚しても契約解除が難しい
個人情報保護法令や実務に即した内容になっていない法令違反や信用失墜につながる
不可抗力想定する事由が限定されていない災害やシステム障害時の責任が不明確
合意管轄自社から遠方の裁判所が指定されている訴訟対応の負担・費用が増大する

これらは一見すると細かな条項に思えるかもしれません。しかし、実際に紛争が発生した際には、企業の損失や対応コストを大きく左右する重要なポイントです。

そのため、AIが作成した契約書を利用する場合でも、「条文があるかどうか」だけでなく、「自社の実情に合った内容になっているか」という視点で確認することが不可欠です。


第1回のまとめ

AIは、契約書作成を効率化する非常に優れたツールです。

一方で、AIはあくまでも一般的な契約書を作成するものであり、自社の立場や業界特有の事情、将来起こり得る紛争まで考慮して契約内容を設計することはできません。

そのため、AIは「契約書を作るための補助ツール」として活用し、重要な契約については、弁護士による確認を受けることが、企業のリスクを最小限に抑える近道といえるでしょう。

次回(第2回)では、AIで作成した契約書が原因で起こり得る具体的なトラブル事例や、企業が整備しておきたいAI利用ルール、弁護士が契約書をチェックする際のポイントについて詳しく解説します。

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コラム「相続手続きは何から始めればいい?死亡後に必要な手続きを弁護士がチェックリストで解説」

2026-07-03

【この記事で分かること】

  • 相続開始後に何をすべきか時系列で分かる
  • 期限のある重要な手続き(3か月・4か月・10か月など)
  • 弁護士へ相談した方がよいケース
  • 相続税まで見据えた進め方

はじめに

ご家族が亡くなると、葬儀や各種届出と並行して相続手続きを進める必要があります。しかし、相続には期限のある手続きも多く、「何から始めればよいのか分からない」というご相談を数多くいただきます。本コラムでは、相続手続きを時系列で分かりやすく解説するとともに、弁護士へ相談すべき場面や相続税との関係についても説明します。

相続手続きの流れ

ご逝去
 ↓
遺言書の確認
 ↓
相続人調査
 ↓
相続財産調査
 ↓
相続放棄の検討(3か月)
 ↓
遺産分割協議
 ↓
相続税申告(10か月)
 ↓
相続登記・名義変更

チェックリスト

時期主な手続き
死亡直後死亡届、葬儀、遺言書の確認
できるだけ早く相続人・相続財産の調査
3か月以内相続放棄・限定承認の検討
4か月以内準確定申告(必要な場合)
10か月以内相続税申告・納税(必要な場合)
3年以内(原則)相続登記
その後預貯金・株式・自動車等の名義変更

1 遺言書を確認する

まず確認したいのが、故人が遺言書を残していないかという点です。

遺言書があるかどうかで、その後の手続きは大きく変わります。

例えば、

  • 公正証書遺言
  • 法務局保管の自筆証書遺言
  • 自宅保管の自筆証書遺言

では手続きが異なります。

なお、自宅で見つかった自筆証書遺言は、原則として家庭裁判所で「検認」の手続きが必要です。開封してしまう前に、弁護士へ相談することをおすすめします。

2 相続人を調査する

相続人は戸籍によって確定します。

「配偶者と子だけだから大丈夫」と思っていても、

  • 前婚の子どもがいる
  • 認知した子どもがいる
  • 養子縁組をしている

など、戸籍を調査して初めて分かるケースもあります。

相続人を誤って遺産分割を行うと、後にやり直しが必要になる可能性があります。

3 相続財産を調査する

相続財産はプラスの財産だけではありません。

例えば、

プラスの財産

  • 預貯金
  • 不動産
  • 株式
  • 投資信託
  • 自動車
  • 生命保険金(一定の場合)

マイナスの財産

  • 借金
  • 住宅ローン
  • 保証債務
  • 未払税金

財産を十分に調査せずに相続すると、思わぬ借金を引き継いでしまう可能性があります。

4 相続放棄を検討する

借金が多い場合などには、相続放棄を検討する必要があります。

相続放棄は、

「自己のために相続の開始があったことを知った日から3か月以内」

に家庭裁判所へ申述しなければなりません。

期限を過ぎると、原則として相続放棄が認められなくなるため、早めの判断が重要です。

借金の有無が分からない場合でも、まずは専門家へ相談することをおすすめします。

5 遺産分割協議

遺言書がない場合には、相続人全員で遺産分割協議を行います。

協議では、

  • 誰が何を取得するか
  • 不動産をどうするか
  • 預貯金をどう分けるか

などを決めます。

相続人全員の合意が必要であり、一人でも反対すると成立しません。

6 名義変更

遺産分割がまとまったら、

  • 預金の払戻し
  • 不動産の相続登記
  • 株式の名義変更
  • 自動車の名義変更

などを進めます。 近年は相続登記が義務化されており、正当な理由なく放置すると過料の対象となる場合があります。

7 相続税

すべての相続で相続税がかかるわけではありません。

しかし、

  • 不動産
  • 預貯金
  • 有価証券
  • 生命保険

などを合計すると、申告が必要になるケースがあります。

相続税の申告期限は、原則として死亡を知った日の翌日から10か月以内です。

税理士への相談も視野に入れながら、早めに確認すると安心です。

こんな場合は早めに弁護士へご相談ください

□ 相続人同士でもめている

□ 相続人と連絡が取れない

□ 不動産が複数ある

□ 借金の有無が分からない

□ 相続税が心配

□ 相続人に認知症の方がいる

解決事例(イメージ)

相続人間の話し合いがまとまらず預金の解約も進まなかった事案で、代理人として交渉を行い、遺産分割協議成立後に相続登記・預金解約まで円滑に完了したケースがあります。

※内容を一部変更したイメージ事例です。

相続でよくある質問(Q&A)

Q1 預金はすぐに引き出せますか?

金融機関が死亡を確認すると、口座は凍結されるのが一般的です。

ただし、一定の条件を満たせば、遺産分割前でも預貯金の一部を払い戻すことができる制度があります。


Q2 相続人同士で話し合いがまとまりません。

話し合いで解決できない場合は、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てることができます。

感情的な対立が大きくなる前に、弁護士へ相談することで円満な解決につながる場合があります。


Q3 相続手続きは自分でもできますか?

相続人が少なく、財産も預貯金だけであれば、ご自身で進められる場合もあります。

一方で、

  • 相続人が多い
  • 不動産がある
  • 遺言書がある
  • 相続人と連絡が取れない
  • 相続人同士で意見が対立している

といったケースでは、専門家に依頼した方がスムーズに進むことが少なくありません。

弁護士へ相談するメリット

弁護士へ依頼することで、

  • 相続人調査
  • 財産調査
  • 遺産分割協議
  • 相続放棄
  • 遺産分割調停・審判
  • 他の相続人との交渉

まで、一括してサポートを受けることができます。

また、早い段階で相談することで、不要なトラブルを未然に防げるケースも少なくありません。

まとめ

相続手続きは、期限があるものと期限がないものが混在しており、「後でやろう」と思っているうちに重要な期限を過ぎてしまうこともあります。

特に、相続放棄や相続税申告、相続登記などは期限を意識して進めることが重要です。

「何から始めればよいのかわからない」「相続人同士で話し合いが進まない」「借金があるかもしれない」など、ご不安な点がある場合は、できるだけ早い段階で弁護士へ相談することをおすすめします。

法律と税務をワンストップでサポート

相続では、遺産分割だけでなく相続税への配慮も重要です。結の杜総合法律事務所では、代表弁護士が税理士資格も有し、税理士事務所を併設しています。そのため、法律面だけでなく税務面にも配慮した遺産分割や相続対策をご提案できることが当事務所の強みです。お困りの際はお気軽にご相談ください。

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コラム「離婚したいのに相手が離婚してくれない!離婚を拒否された場合の対処法を弁護士が解説」

2026-06-26

はじめに

「もう夫婦関係は破綻しているのに、相手が離婚に応じてくれない」

「離婚したいと伝えたら、『絶対に離婚しない』と言われた」

「話し合いを続けても平行線のままで、どうすればよいのか分からない」

このようなお悩みを抱えて、当事務所へご相談される方は少なくありません。

離婚は夫婦双方の合意によって成立するのが原則ですが、相手が離婚を拒否している場合でも、法的な手続を進めることで離婚が認められる可能性があります。

また、離婚問題は対応を誤ると、財産分与や親権、養育費などの面で不利な状況に陥ることもあります。

本コラムでは、離婚したいのに相手が離婚に応じない場合の対処法や注意点について、弁護士が分かりやすく解説します。


1 相手が離婚を拒否している場合でも離婚できるのか

結論からいえば、相手が離婚を拒否しているからといって、必ずしも離婚できなくなるわけではありません。

離婚には主に次の3つの方法があります。

(1)協議離婚

夫婦が話し合いを行い、双方が離婚に合意する方法です。

日本の離婚の多くは協議離婚ですが、相手が離婚を拒否している場合には成立しません。

(2)離婚調停

話し合いで解決できない場合には、家庭裁判所へ離婚調停を申し立てます。

調停では、中立的な立場の調停委員が双方の意見を聞きながら解決を目指します。

(3)離婚訴訟

調停でも合意できない場合には、離婚訴訟を提起することになります。

裁判所が離婚を認める判決を出した場合には、相手が反対していても離婚が成立します。


2 裁判で離婚が認められる主なケース

裁判で離婚が認められるためには、法律上の離婚原因(民法770条)が必要です。

(1)不貞行為(浮気・不倫)

配偶者に不貞行為があった場合です。

もっとも、不貞を主張するためには証拠が重要となります。

(2)悪意の遺棄

生活費を渡さない、理由なく家を出て家庭を顧みないなど、夫婦としての義務を果たさない場合です。

(3)3年以上の生死不明

長期間にわたり生死が分からない場合です。

(4)その他婚姻を継続し難い重大な事由

実務上もっとも問題になるのがこの類型です。

例えば、

  • 長期間の別居
  • DV
  • モラルハラスメント
  • 性格の著しい不一致
  • 過度の浪費
  • アルコール依存
  • 家庭内暴力
  • 親族との深刻な対立

などが該当する可能性があります。


3 離婚を拒否されている場合に重要となる「別居」

離婚相談の中で最も多いのが、

「特別な理由はないが、夫婦関係はもう修復できない」

というケースです。

このような場合、裁判所は夫婦関係が実質的に破綻しているかどうかを重視します。

そこで重要になるのが「別居」です。

別居によって、

  • 離婚意思が明確になる
  • 婚姻関係の実態がなくなる
  • 夫婦関係修復の可能性が低いことが明らかになる

といった事情が認められやすくなります。

もっとも、別居期間だけで離婚が認められるわけではなく、

  • 婚姻期間
  • 子どもの有無
  • 別居に至った経緯

なども考慮されます。


4 感情的な対応は避けるべき

離婚問題では感情的な対立が激化しやすく、

  • LINEで暴言を送る
  • SNSで相手を非難する
  • 勝手に預金を引き出す
  • 子どもに相手の悪口を言う

といった行動を取ってしまう方もいます。

しかし、こうした行動は後の調停や裁判で不利に評価される可能性があります。

離婚を考えている場合には、感情的に行動するのではなく、証拠を整理しながら冷静に対応することが重要です。


5 別居前に確認しておきたいポイント

離婚を見据えて別居する場合には、事前準備が非常に重要です。

例えば、

  • 預貯金の資料
  • 給与明細
  • 保険契約の資料
  • 不動産関係資料
  • 住宅ローン関係資料
  • 年金関係資料

などを確認しておくことが望ましいでしょう。

離婚後になってから資料を集めようとしても、思うように収集できないことがあります。

また、別居後には婚姻費用(生活費)を請求できる場合もあります。

別居を考えている段階で弁護士へ相談することで、適切な準備を進めることができます。


6 親権・養育費・財産分与も同時に考える必要があります

離婚は単に夫婦関係を解消するだけではありません。

離婚に伴い、

  • 親権
  • 養育費
  • 財産分与
  • 年金分割
  • 面会交流

などの問題についても決めなければなりません。

離婚だけを急いでしまうと、本来受け取れるはずだった財産分与や養育費について十分な取り決めができないことがあります。

離婚条件についても慎重に検討することが大切です。


7 離婚問題は早めの相談が重要です

離婚問題では、

「もう少し様子を見よう」

「そのうち解決するだろう」

と考えているうちに状況が悪化してしまうことがあります。

例えば、

  • 不貞の証拠が失われる
  • 財産資料を確保できなくなる
  • 不利な内容で合意してしまう
  • 子どもに関する争いが激化する

といったケースがあります。

また、別居の進め方を誤ると、後の手続に影響する場合もあります。

離婚問題は、早い段階で相談するほど選択肢が広がる傾向があります。

不安を抱えたまま一人で悩まず、まずは専門家へ相談することをお勧めします。


Q&A

Q1 相手が離婚届に署名してくれません。離婚できますか?

はい。離婚調停や離婚訴訟によって離婚できる可能性があります。


Q2 別居すれば必ず離婚できますか?

必ず離婚できるわけではありません。

ただし、長期間の別居は夫婦関係の破綻を示す重要な事情になります。


Q3 相手が調停にも出席しない場合はどうなりますか?

調停が不成立となり、離婚訴訟へ移行することが検討されます。


Q4 弁護士に依頼すると何が変わりますか?

相手方との交渉や調停対応を任せることができ、法的な見通しを踏まえた解決を目指すことができます。


解決事例

相手が離婚を拒否していたものの、離婚が成立したケース

40代女性からのご相談でした。

夫との関係は長年悪化しており、離婚を求めていましたが、相手方は

「離婚には絶対に応じない」

との態度を取り続けていました。

そこで弁護士が代理人として介入し、別居後に離婚調停を申し立てました。

調停では合意に至りませんでしたが、

  • 長期間の別居
  • 婚姻関係修復の見込みがないこと
  • 財産関係の整理

などを踏まえて交渉を継続した結果、

  • 離婚成立
  • 適正な財産分与
  • 養育費の取り決め

を実現することができました。

ご相談者からは、

「一人で悩んでいた時は出口が見えませんでしたが、見通しが分かって安心しました」

とのお言葉をいただきました。

※事例は個人情報保護のため内容を修正しています。


まとめ

相手が離婚を拒否している場合でも、

  • 離婚調停
  • 離婚訴訟
  • 別居
  • 証拠収集

などを適切に進めることで、離婚が認められる可能性があります。

もっとも、離婚問題は親権、養育費、財産分与など様々な問題が関係するため、早い段階で適切な見通しを持つことが重要です。

特に、別居前後の対応はその後の結果に大きく影響することがあります。

離婚したいのに相手が応じてくれずお悩みの方は、お一人で抱え込まず、まずは弁護士へご相談ください。


宮城県・仙台市で離婚問題にお悩みの方へ

弁護士法人結の杜総合法律事務所では、

  • 離婚
  • 親権
  • 養育費
  • 財産分与
  • 婚姻費用
  • 面会交流

など、離婚に関する様々なご相談を承っております。

相手が離婚に応じない場合や、離婚後の生活に不安をお持ちの場合にも、状況に応じた解決方法をご提案いたします。

初回相談の段階から、今後の見通しや取るべき対応について丁寧にご説明いたしますので、お気軽にご相談ください。

📌 「離婚・男女問題」のページはこちら

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