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コラム「亡くなった家族の『デジタル遺産』はどう相続する?調査方法と注意点を弁護士が解説」
はじめに
スマートフォンやインターネットサービスの普及により、亡くなった方の財産や契約が、通帳や紙の書類からは分からないケースが増えています。
例えば、次のようなものです。
- インターネット銀行の預金
- ネット証券の株式や投資信託
- 暗号資産
- 電子マネーや各種ポイント
- ネットショップ等の売上金
- クラウド上の写真や文書
- SNS、メール、動画配信サービスのアカウント
- 月額課金のサブスクリプション
- オンラインゲーム内の有償アイテム
これらは一般に「デジタル遺産」や「デジタル遺品」と呼ばれていますが、法律上統一された定義があるわけではありません。
また、預金や暗号資産のように経済的価値を持つものと、SNSアカウントや写真データのように利用規約・プライバシーが問題になるものとでは、取扱いが異なります。
本記事では、デジタル遺産の調査方法、相続手続、相続税申告との関係、相続人が注意すべき点について解説します。
1 デジタル遺産とは
国民生活センターは、デジタル遺品について、故人がインターネット上に保有していた資産のデータや、契約していたサブスクリプションのアカウントなどが含まれるものとして紹介しています。kokusen.go.jp
デジタル遺産は、大きく次の3種類に分けて考えると分かりやすいでしょう。
(1)経済的価値があるもの
- インターネット銀行の預金
- ネット証券の株式、投資信託、債券
- FX取引口座
- 暗号資産
- 電子マネーの残高
- ネットショップやフリマサービスの売上金
- アフィリエイト報酬
- 有償ポイント
- オンライン上の著作物から生じる収益
これらは、原則として相続財産に含まれる可能性があります。
ただし、ポイントやゲーム内アイテムなどは、利用規約上、相続や第三者への移転が認められていないこともあります。
(2)契約上の地位や継続課金
- 動画・音楽配信サービス
- 電子書籍サービス
- オンラインストレージ
- セキュリティソフト
- 有料メールサービス
- レンタルサーバー、ドメイン
- 各種アプリの月額課金
これらは、相続財産としての価値があるとは限りませんが、解約しなければ料金の請求が続く可能性があります。
(3)写真、メール、SNSなどのデータ
- スマートフォン内の写真や動画
- クラウド上の写真・文書
- 電子メール
- SNSの投稿やメッセージ
- ブログ
- 動画投稿サイトのアカウント
- パソコン内のデータ
これらについては、データの内容、著作権、プライバシー、サービスの利用規約などを個別に確認する必要があります。
2 デジタル遺産は相続できるのか
デジタル形式で管理されているというだけで、相続財産から除外されるわけではありません。
例えば、インターネット銀行の預金は、紙の通帳が発行されていなくても預金債権です。ネット証券で保有する株式や投資信託も、通常の金融資産と同様、相続手続の対象になります。
一方、SNSや動画配信サービスなどのアカウントは、利用者本人だけに認められた契約上の地位であり、利用規約によって譲渡や承継が制限されていることがあります。
したがって、「IDとパスワードが分かれば相続人がそのまま利用できる」とは限りません。
デジタル遺産については、次の点を分けて確認する必要があります。
- 財産的価値があるか
- 相続の対象となる権利か
- サービスの利用規約上、承継が認められるか
- データの閲覧や取得が認められるか
- 解約や返金が可能か
3 デジタル遺産を調査する方法
デジタル遺産は、現物が見えにくいことが大きな特徴です。相続人が存在に気付かなければ、遺産分割や相続税申告から漏れるおそれがあります。
(1)郵便物やメールを確認する
金融機関やサービス事業者から、取引報告書、残高のお知らせ、契約更新、請求などの通知が届いていないか確認します。
もっとも、故人のメールに無断でログインする行為は、利用規約やプライバシーとの関係で問題になる可能性があります。まずは端末の状況や事業者の相続手続を確認することが安全です。
(2)預金口座やクレジットカードの明細を確認する
通帳、銀行口座、クレジットカードの利用明細には、次の手掛かりが残っていることがあります。
- 証券会社や暗号資産交換業者への入出金
- サブスクリプション料金
- クラウドサービスの利用料
- アプリストアへの継続的な支払い
- サーバーやドメインの利用料
少額の定期的な支払いであっても、放置すると請求が継続する可能性があります。
(3)スマートフォンやパソコンを確認する
端末に入っているアプリ、ブックマーク、デスクトップ上のショートカットなどから、利用していたサービスが分かる場合があります。
ただし、端末を初期化したり、パスワードを何度も誤入力したりすると、データが消去・ロックされる可能性があります。重要なデータがあると考えられる場合は、むやみに操作しないことが大切です。
(4)確定申告書などを確認する
故人が確定申告をしていた場合、申告書やその添付資料から、株式取引、暗号資産取引、ネット上の事業収入などが判明することがあります。
個人事業主の場合には、ウェブサイト、ネットショップ、クラウド会計、オンライン広告など、事業継続に必要なアカウントも確認する必要があります。
(5)取引事業者へ照会する
利用していた事業者が判明した場合は、死亡の事実と相続人であることを示す書類を準備し、相続手続を問い合わせます。
一般的には、次のような書類を求められることがあります。
- 被相続人の死亡が分かる戸籍
- 相続人であることが分かる戸籍
- 遺言書または遺産分割協議書
- 相続人の本人確認書類
- 印鑑証明書
必要書類や手続は事業者によって異なります。
4 暗号資産の相続で特に注意すべき点
暗号資産は財産的価値を持つため、相続財産となり、相続税の課税対象にもなります。
国税庁は、相続や贈与によって取得した暗号資産について、財産評価基本通達に評価方法の直接の定めがないため、評価方法の定めのない財産として、同通達に定める評価方法に準じて評価するとしています。活発な市場がある暗号資産については、原則として、利用する暗号資産交換業者が公表する相続開始時の取引価格などを基に評価します。nta.go.jp
取引所で管理されている場合
国内の暗号資産交換業者を利用している場合は、その事業者へ相続手続を問い合わせます。
故人のIDやパスワードを使って相続人が売却・送金するのではなく、事業者所定の手続によることが原則です。
個人のウォレットで管理されている場合
個人のウォレットで暗号資産を管理している場合、秘密鍵や復元用フレーズが分からなければ、資産を技術的に移転できない可能性があります。
暗号資産の存在を把握して相続税を申告しなければならない一方、秘密鍵が分からず実際には処分できないという問題も生じ得ます。
秘密鍵や復元用フレーズは、他人に知られると資産を移転される危険があるため、電子メールなどで安易に送信せず、厳重に管理する必要があります。
5 デジタル遺産が遺産分割から漏れた場合
遺産分割協議が成立した後に、新たなネット銀行口座や暗号資産が見つかることがあります。
この場合、既に成立した遺産分割協議が当然にすべて無効になるわけではありません。新たに見つかった財産について、相続人間で追加の遺産分割協議を行う方法が一般的です。
もっとも、新たに見つかった財産が非常に高額であり、その存在を知っていれば当初の分割内容に同意しなかったと考えられる場合や、相続人の一人が意図的に財産を隠していた場合には、当初の協議の効力や損害賠償責任が問題になる可能性があります。
遺産分割協議書には、後から判明した財産の取得者を定める条項を入れることもありますが、財産の価値や相続税への影響によっては、改めて相続人間で調整する必要があります。
6 相続税申告から漏れないように注意する
デジタル遺産であっても、経済的価値があり、相続税法上の財産に当たれば、相続税の課税対象となります。
相続税における財産の価額は、原則として相続開始時の時価によって評価されます。nta.go.jp
特に暗号資産は価格変動が大きいため、現在の価格ではなく、相続開始時点の価額を確認しなければなりません。
デジタル遺産が申告後に判明し、課税遺産総額や税額が増加する場合には、修正申告や追加納税が必要になる可能性があります。
相続税の申告期限は、原則として、相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。デジタル遺産の調査に時間がかかることもあるため、早めに着手することが重要です。
7 故人のID・パスワードを使ってもよいのか
相続人であっても、故人のIDやパスワードを使って自由にアカウントへログインできるとは限りません。
利用規約で本人以外の利用を禁止している場合もあり、アクセスの方法や目的によっては法的問題が生じる可能性があります。
特に、次の行為は慎重に判断する必要があります。
- 故人の名義で取引する
- 暗号資産や売上金を自分の口座へ移す
- 故人としてメッセージを送信する
- メールや非公開メッセージを広範囲に閲覧する
- 他の相続人に知らせずアカウントを解約する
- 写真や文書を削除する
まず、サービス事業者へ死亡後の手続を問い合わせ、必要に応じて相続人間で協議することが適切です。
8 有料サービスを放置しない
デジタル遺産の問題は、財産を受け取る場面だけではありません。
故人が利用していたサブスクリプションを把握できず、死亡後も料金が引き落とされ続けることがあります。国民生活センターも、故人が契約していたサブスクリプションの解約にID・パスワードを求められ、遺族が困った事例を紹介しています。kokusen.go.jp
預金口座やクレジットカードを解約しただけでは、契約そのものが終了せず、未払料金が発生する可能性もあります。
利用していたサービスを特定し、各事業者の規定に従って解約手続を行う必要があります。
9 デジタル遺産を残す側ができる対策
家族が困らないようにするためには、生前から「デジタル終活」を行うことが有効です。
利用サービスの一覧を作る
次の項目を整理しておきます。
- 金融機関・証券会社・暗号資産交換業者の名称
- 有料サービスの名称
- スマートフォンやパソコンの種類
- 重要なデータの保存場所
- 事業用アカウント
- 解約してほしいサービス
- 写真やSNSを残すか削除するか
パスワードを安全に管理する
一覧表にパスワードを直接記載し、誰でも見られる場所に置くことは危険です。
パスワード管理アプリ、施錠できる場所、信頼できる専門家への情報保管などを検討し、家族には「必要な情報がどこにあるか」が分かるようにしておくとよいでしょう。
遺言書との役割を分ける
遺言書には、誰にどの財産を取得させるかを記載できます。
しかし、遺言書に変更の多いパスワードを直接記載することは、更新や情報管理の面で適切とは限りません。
財産の承継は遺言書、アカウント一覧や取扱いの希望は別の文書として管理する方法が考えられます。
10 よくある質問
Q1 スマートフォンのロックを解除できなければ、相続手続はできませんか
必ずしもスマートフォンのロック解除が必要とは限りません。
利用していた銀行、証券会社、暗号資産交換業者などが分かれば、相続関係書類を提出して、各事業者の相続手続を進められることがあります。
まず、郵便物、預金通帳、クレジットカード明細、確定申告書などから利用事業者を調査します。
Q2 ネット銀行の預金も遺産分割の対象ですか
ネット銀行の預金も、通常の銀行預金と同様に相続財産となります。
紙の通帳がなくても、口座がなくなるわけではありません。銀行所定の相続手続を行います。
Q3 電子マネーやポイントも相続できますか
サービスの利用規約によって異なります。
残高の払戻しや承継が認められるものもあれば、利用者の死亡によって資格やポイントが失効するものもあります。各事業者の規約や手続を確認する必要があります。
Q4 暗号資産を相続したことを申告しなければなりませんか
暗号資産は相続税の課税対象となる財産です。
暗号資産を売却していない場合や、相続人がまだ換金できていない場合でも、原則として相続開始時の価額を相続財産に含めて検討する必要があります。
Q5 故人のSNSは家族が引き継げますか
サービスによって異なります。
追悼アカウントへ移行できる場合、遺族から削除を申請できる場合、原則として第三者への承継を認めない場合などがあります。利用規約と事業者所定の手続を確認してください。
Q6 他の相続人に知らせずデジタル資産を移してもよいですか
遺産分割前に、相続人の一人が暗号資産や売上金を自分の口座へ移すことは、他の相続人との紛争につながります。
財産を発見した場合は、その内容と評価額を相続人間で共有し、遺産分割協議の対象とすることが重要です。
まとめ
デジタル遺産には、ネット銀行、ネット証券、暗号資産などの財産だけでなく、サブスクリプション、写真、メール、SNSなども含まれます。
対応のポイントは次のとおりです。
- 郵便物、カード明細、確定申告書などから利用サービスを調査する
- ID・パスワードで安易にログインせず、事業者の相続手続を確認する
- 暗号資産など経済的価値のあるものは遺産分割に含める
- サブスクリプションの解約漏れを確認する
- 相続税申告からデジタル資産を漏らさない
- 生前からアカウント一覧や取扱いの希望を整理する
デジタル遺産は発見しにくく、サービスごとに手続も異なります。調査に時間がかかる間に相続税の申告期限が迫ることもあります。
弁護士法人結の杜総合法律事務所では、仙台・宮城を中心に、遺産調査、遺産分割、遺言書作成、相続人間の紛争など、相続に関するご相談をお受けしています。
当事務所は税理士事務所を併設し、代表弁護士が税理士でもあるため、遺産分割と相続税申告の双方を踏まえた対応が可能です。
「ネット上の財産があるようだが内容が分からない」「暗号資産が見つかった」「遺産分割後にデジタル資産が判明した」といった場合には、早めに当事務所へご相談ください。
※本記事は2026年10月時点の法令・公表資料に基づく一般的な説明です。サービスごとの手続や利用規約は変更されることがあります。
宮城県仙台市に拠点を置く弁護士法人結の杜総合法律事務所は、2012年の開設以来、地域の皆様の法的ニーズに応えてまいりました。代表の髙橋和聖は、地元宮城で生まれ育ち、弁護士・税理士としての資格を持ち、法律と税務の両面からサポートを提供しています。当事務所は、青葉区五橋に本店、泉区泉中央に支店を構え、2022年10月には東京支店も開設しました。これからも、仙台・宮城の皆様に寄り添い、親しみやすい法律事務所として、質の高いサービスを提供してまいります。
コラム「退職者による顧客情報・営業秘密の持ち出しが発覚したら?企業が取るべき対応を弁護士が解説」
はじめに
従業員の退職後、次のような問題が発覚することがあります。
- 退職直前に顧客名簿を大量にダウンロードしていた
- 顧客情報を私用メールやクラウドストレージへ送信していた
- USBメモリに営業資料や技術資料を保存していた
- 退職後、元従業員や転職先から顧客への勧誘が始まった
- 価格表、仕入先情報、見積書などが競合他社で使用されている
- 設計図、製造方法、ソースコードなどが持ち出された
- 会社のデータを生成AIサービスへ入力していた
- 退職者が会社のアカウントへログインし続けていた
顧客情報や技術情報は、会社の重要な財産です。流出すると、顧客の喪失、価格競争力の低下、信用毀損、個人情報保護法上の対応など、重大な問題につながります。
もっとも、会社が保有する情報のすべてが、不正競争防止法上の「営業秘密」として保護されるわけではありません。また、退職者が競合他社へ転職したことや、在職中に得た一般的な知識・経験を利用したことだけで、直ちに違法になるわけでもありません。
本記事では、退職者による顧客情報・営業秘密の持ち出しが発覚した場合に企業が取るべき初動対応、法的措置、平時からの予防策について解説します。
1 持ち出されやすい情報とは
退職時に問題となる情報には、主に次のようなものがあります。
顧客・営業関係の情報
- 顧客名簿
- 顧客の氏名、住所、電話番号、メールアドレス
- 担当者名や決裁権者に関する情報
- 顧客ごとの購入履歴、取引条件、要望
- 商談記録、営業日報
- 見積書、価格表、値引率
- 仕入先、外注先、販売ルート
- 営業戦略、新規事業計画
技術・製造関係の情報
- 設計図、図面
- 製造方法、作業手順
- 実験データ、研究開発情報
- 製品の配合、レシピ
- ソースコード、プログラム
- 不具合情報、改善履歴
- 未公開の製品情報
- 技術上のノウハウ
経営・管理関係の情報
- 事業計画
- 原価や利益率
- 財務情報
- M&Aや業務提携に関する情報
- 人事評価、給与情報
- 採用計画、組織再編計画
- 社内マニュアル
これらの情報が不正競争防止法上の営業秘密に当たるか、個人情報に当たるか、契約上の秘密情報に当たるかによって、企業が取れる法的措置が異なります。
2 顧客名簿は当然に「営業秘密」になるわけではない
不正競争防止法上、「営業秘密」として保護されるためには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。
- 秘密として管理されていること(秘密管理性)
- 事業活動に有用な情報であること(有用性)
- 一般に知られていないこと(非公知性)
経済産業省も、この3要件を満たす情報が不正競争防止法上の営業秘密に当たると説明しています。
(1)秘密管理性
会社が、その情報を秘密として管理していることが必要です。
具体的には、次のような事情が考慮されます。
- ファイルに「社外秘」「秘密」などと表示している
- 情報へアクセスできる従業員を限定している
- IDやパスワードによって管理している
- 閲覧・ダウンロードの権限を役職や業務ごとに設定している
- 秘密保持規程を整備している
- 従業員に秘密情報の範囲を説明している
- 紙資料を施錠できる場所で保管している
- USBメモリや私用クラウドへの保存を制限している
顧客名簿に誰でもアクセスでき、社外への持ち出しも事実上自由だった場合には、秘密管理性が否定される可能性があります。
高度で複雑なセキュリティ対策が常に必要なわけではありませんが、少なくとも従業員から見て「会社が秘密として扱っている情報だ」と分かる状態にしておく必要があります。
(2)有用性
その情報が、会社の営業、技術、経営などの事業活動に役立つ情報であることが必要です。
顧客ごとの取引実績、担当者との関係、価格条件、需要、過去の交渉経過などを整理した顧客情報は、営業活動に有用な情報と評価される可能性があります。
一方、犯罪行為や法令違反を隠すための情報などは、通常、営業秘密として保護されません。
(3)非公知性
一般には知られておらず、容易に入手できない情報であることが必要です。
会社名、所在地、代表電話番号など、ウェブサイトや業界名簿で容易に確認できる情報を集めただけでは、非公知性が否定される可能性があります。
しかし、公開情報を含んでいても、長年の営業活動によって蓄積した取引履歴、担当者の特性、決裁時期、予算、値引条件などが一体となった情報であれば、非公知性が認められる余地があります。
3 営業秘密に当たらなくても保護される場合がある
持ち出された情報が不正競争防止法上の営業秘密に該当しないからといって、企業が一切の請求をできないとは限りません。
次のような法的根拠を検討できます。
- 秘密保持契約違反
- 雇用契約上の秘密保持義務違反
- 就業規則違反
- 退職時の誓約書違反
- 不法行為
- 個人情報保護法違反
- 著作権侵害
- 不正アクセス禁止法違反
- 電子計算機使用詐欺などの犯罪
- 会社所有の資料・記録媒体の返還請求
契約上の「秘密情報」は、不正競争防止法上の営業秘密よりも広く定めることができます。
もっとも、「会社に関する一切の情報を永久に使用してはならない」といった過度に広い条項は、有効性や適用範囲が争われる可能性があります。秘密情報の範囲、利用目的、返還・削除義務などを具体的に定めることが重要です。
4 退職者による競業や顧客への連絡は、すべて違法なのか
退職者には、職業選択の自由があります。そのため、競合会社へ転職したことや、同じ業種で独立したことだけで、直ちに違法になるわけではありません。
また、従業員が在職中に身に付けた一般的な知識、経験、技能、人脈まで、会社が全面的に独占できるものではありません。
問題になるのは、例えば次のような行為です。
- 顧客名簿をコピーして転職先で使用する
- 秘密の価格情報を利用して既存顧客へ安値を提示する
- 退職前から会社の顧客を計画的に転職先へ移す
- 設計図や製造ノウハウを転職先へ開示する
- 会社のシステムへ退職後も不正にアクセスする
- 同僚に秘密情報を持ち出させる
- 会社の資料を削除し、業務を妨害する
退職後の競業避止義務を定める場合には、会社側の正当な利益、退職者の地位、禁止される業務、地域、期間、代償措置などを踏まえ、合理的な範囲に限定する必要があります。
広範囲かつ長期間にわたって一切の競業を禁止する条項は、無効と判断される可能性があります。
5 持ち出しが発覚した直後にすべきこと
情報の持ち出しが疑われる場合、最初の対応が非常に重要です。
(1)関係者を限定する
調査していることが退職者や関係者へ早期に伝わると、データやメッセージが削除される可能性があります。
まず、経営者、法務担当者、情報システム担当者など、必要最小限のメンバーで対応します。社内で憶測や情報が広がらないよう、連絡経路も一本化します。
(2)証拠を保全する
次のような資料を速やかに保全します。
- ファイルサーバーへのアクセスログ
- ダウンロード履歴
- USB機器の接続履歴
- 電子メールの送受信履歴
- クラウドストレージの操作履歴
- 印刷履歴
- パソコンのログイン履歴
- ファイルの作成・コピー・削除履歴
- 社用スマートフォンの通信記録
- 入退室記録、防犯カメラ映像
- 退職前後の顧客との連絡履歴
- 就業規則、情報管理規程
- 雇用契約書、秘密保持誓約書
- 退職時の面談記録や返却確認書
パソコンを通常どおり起動したり、担当者が独自にファイルを開いたりすると、更新日時などの証拠が変化する可能性があります。
重大な事案では、端末を保全し、デジタル・フォレンジックの専門業者に解析を依頼することも検討します。
(3)アカウントとアクセス権限を確認する
退職者が利用していた次のアカウントを確認します。
- 社内ネットワーク
- 電子メール
- 顧客管理システム
- チャットツール
- クラウドストレージ
- VPN
- ソースコード管理システム
- ウェブサービス
- 共有アカウント
退職後もアクセスできる状態であれば、速やかに利用を停止し、パスワードや認証情報を変更します。
ただし、アカウントを削除するとログやメールまで消えるサービスもあります。証拠を保存したうえで、無効化や権限変更を行う必要があります。
(4)持ち出された情報を特定する
「顧客情報が盗まれた」と抽象的に主張するだけでは、差止めなどが認められにくくなります。
次の点をできるだけ具体的に特定します。
- どの情報が持ち出されたか
- どこに保存されていたか
- 誰がアクセスできたか
- いつ、どの方法で持ち出されたか
- どこへ送信・保存されたか
- 転職先や第三者へ提供されたか
- すでに使用されたか
- 会社や顧客にどのような損害が生じるか
営業秘密として保護を求める場合には、対象となる情報を他の一般情報と区別できる程度に特定することが重要です。
(5)退職者への連絡は慎重に行う
証拠を十分に確保する前に退職者を問い詰めると、データを削除されたり、証拠を隠されたりする可能性があります。
また、「顧客情報を盗んだ」などと社内外へ断定的に伝えると、名誉毀損などの別の問題が生じるおそれがあります。
退職者へ通知する前に、証拠の内容、通知の目的、要求事項、法的措置の見通しを整理する必要があります。
6 退職者に対して何を要求できるか
事実関係と証拠を確認したうえで、退職者に対し、次のような要求を行うことが考えられます。
- 情報の使用・開示の中止
- 紙資料、USBメモリ、端末などの返還
- 私用端末やクラウドに保存したデータの削除
- 転職先や第三者への提供状況の説明
- 複製物の作成状況の開示
- 転職先や第三者へ提供した情報の回収
- 顧客への勧誘の停止
- 削除・廃棄を証明する報告書の提出
- 今後使用・開示しない旨の誓約
- 損害賠償
ただし、会社が退職者の私用パソコンやスマートフォンを一方的に操作・回収することはできません。
本人の同意を得て確認するか、証拠保全、仮処分、訴訟上の手続など、適法な方法を検討する必要があります。
7 転職先にも責任を問える場合がある
転職先企業が、持ち出された情報が他社の営業秘密であると知りながら取得・使用した場合や、重大な過失によって知らずに取得・使用した場合には、転職先に対しても差止めや損害賠償を請求できる可能性があります。
例えば、採用したばかりの従業員が、前職の顧客名簿や設計図を大量に持ち込んだにもかかわらず、転職先が出所を確認せずに利用した場合です。
企業が中途採用者を受け入れる際には、前職の秘密情報を持ち込ませないことも重要です。
入社時の誓約書などに、次の事項を記載しておくことが考えられます。
- 前職の秘密情報を持ち込まない
- 前職の資料を会社のシステムへ保存しない
- 前職の秘密情報を業務で使用しない
- 問題が生じた場合は速やかに申告する
自社の情報を守るだけでなく、他社の営業秘密を意図せず侵害しない体制も必要です。
8 企業が取り得る法的措置
(1)警告書・通知書の送付
退職者や転職先に対して、内容証明郵便などで警告書を送付します。
警告書には、持ち出された情報、持ち出し行為、法的根拠、使用・開示の停止、返還・削除、回答期限などを記載します。
もっとも、証拠が不十分な段階で断定的な警告を行うと、相手方に証拠を整理する時間を与えたり、反対に損害賠償を請求されたりする可能性があります。
(2)差止請求
不正競争防止法上の要件を満たす場合には、営業秘密の使用や開示の差止めを請求できます。
また、侵害行為を組成した物の廃棄、侵害行為に使用した設備の除却など、侵害の停止・予防に必要な措置を求められる場合があります。
差止請求では、実際に損害が発生した後だけでなく、営業上の利益を侵害されるおそれがある段階で対応できる可能性があります。
(3)仮処分
情報が使用され続けており、通常の訴訟の判決を待っていては重大な損害が生じる場合には、裁判所へ使用・開示の差止めを求める仮処分を申し立てることがあります。
仮処分では、持ち出された情報が営業秘密に該当すること、相手方が取得・使用したこと、緊急に差し止める必要があることなどを、短期間で立証する必要があります。
そのため、アクセスログ、メール、ファイルの一致、顧客への勧誘状況などの客観的証拠が重要です。
(4)損害賠償請求
情報の不正取得・使用・開示によって損害が生じた場合には、退職者や転職先に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
損害としては、例えば次のものが考えられます。
- 失った売上・利益
- 顧客流出による損害
- 価格低下による損害
- 原因調査やデータ復旧の費用
- 顧客対応や通知の費用
- 信用回復のための費用
もっとも、情報持ち出しと売上減少との因果関係や損害額の立証が問題になります。不正競争防止法には損害額の推定等に関する規定もありますが、証拠収集は不可欠です。
(5)刑事告訴・被害相談
不正の利益を得る目的や会社に損害を加える目的で営業秘密を領得、使用、開示した場合には、不正競争防止法上の営業秘密侵害罪が成立する可能性があります。
また、具体的な行為によっては、不正アクセス禁止法違反、窃盗、背任などが問題になることもあります。
警察への相談や刑事告訴を検討する場合には、対象情報、秘密管理の状況、持ち出し方法、使用状況などを整理した資料が必要です。
刑事手続を交渉上の圧力として安易に利用するのではなく、証拠と事案の重大性を踏まえて慎重に判断する必要があります。
9 顧客の個人情報が含まれている場合の対応
持ち出された顧客情報に、氏名、住所、電話番号、メールアドレス、購入履歴などの個人データが含まれている場合には、個人情報保護法上の対応も必要です。
まず、漏えいまたはそのおそれがある個人データについて、次の事項を調査します。
- 対象となる顧客数
- 情報の項目
- 要配慮個人情報の有無
- クレジットカード情報など財産的被害のおそれ
- 第三者への提供・利用の有無
- 情報の回収・削除可能性
- 二次被害のおそれ
従業者が不正な目的で個人データを持ち出した場合には、人数が少なくても、個人情報保護委員会への報告と本人への通知が必要になる可能性があります。個人情報保護委員会も、従業者による不正な持ち出しを漏えい等の事例として示しています。
報告対象となる場合には、事態を知った後、速やかに速報を行い、その後、調査結果を踏まえて確報を行います。
顧客への通知、公表、警察への相談、取引先への説明については、事案の内容や二次被害のおそれを踏まえて判断する必要があります。
10 退職時に実施すべき対策
情報持ち出しを防ぐためには、退職の申出があってから次の対策を実施することが重要です。
退職前
- アクセス権限を業務上必要な範囲に見直す
- 大量ダウンロードや外部送信の有無を確認する
- USBメモリ等の利用状況を確認する
- 業務の引継ぎを行う
- 秘密保持義務を改めて説明する
- 有給休暇消化中のアクセス権限を検討する
退職時
- パソコン、スマートフォン、USBメモリなどを回収する
- 社員証、鍵、入館証を回収する
- 紙資料の返還を確認する
- 私用端末・クラウドへの保存がないか確認する
- 会社情報を返還・削除した旨の確認書を取得する
- 秘密保持義務を記載した退職時誓約書を取得する
- 退職後の連絡先を確認する
退職後
- アカウントを速やかに停止する
- 共有パスワードを変更する
- メールの転送設定を解除する
- 顧客管理システム等へのログインを確認する
- 不審なアクセスや顧客流出がないか確認する
誓約書への署名を拒否されたからといって、直ちに情報持ち出しがあったと判断することはできません。しかし、拒否の経緯を記録し、アクセス状況等を確認する必要性は高まります。
11 平時から講じるべき情報管理対策
退職後に営業秘密としての保護を求めるには、在職中から秘密として管理していることが重要です。
企業規模や情報の重要度に応じて、次の対策を検討します。
- 重要情報を特定・分類する
- 「社外秘」「秘密」などの表示を行う
- アクセス権限を必要な従業員に限定する
- 退職・異動時に権限を速やかに変更する
- ダウンロード、印刷、外部送信のログを保存する
- USBメモリや私用メールの利用を制限する
- クラウドサービスの利用ルールを定める
- 私用端末を使用する場合の規程を整備する
- 生成AIへ入力してよい情報の基準を定める
- 就業規則、秘密情報管理規程を整備する
- 入社時・退職時に秘密保持誓約書を取得する
- 定期的な研修を行う
- 違反発覚時の報告・調査体制を決めておく
重要なのは、規程を作成するだけでなく、実際の運用と一致させることです。
「秘密情報」と表示していても、全従業員が自由にアクセスし、外部への送信も制限されていない場合には、秘密管理性が争われる可能性があります。
12 よくある質問
Q1 退職者が顧客へ連絡しただけで差し止められますか
顧客へ連絡したという事実だけで、常に差止めが認められるわけではありません。
公開情報や退職者自身の記憶に基づいて連絡したのか、会社の顧客名簿や取引情報を使用したのか、在職中から計画的に顧客を移そうとしていたのかなどを検討します。
競業避止義務や顧客勧誘禁止条項がある場合でも、その内容が合理的な範囲かを確認する必要があります。
Q2 秘密保持誓約書がなければ請求できませんか
誓約書がなくても、不正競争防止法上の営業秘密に該当すれば、差止めや損害賠償を請求できる可能性があります。
また、雇用契約に付随する義務や不法行為を根拠とする請求も考えられます。
ただし、誓約書や情報管理規程があれば、秘密情報の範囲や従業員が義務を認識していたことを立証しやすくなります。
Q3 退職者の私用メールやクラウドを調査できますか
会社が、本人の同意なく私用メールや私用クラウドへログインすることは避けるべきです。
会社側のメール送信記録、アクセスログ、端末記録など、適法に管理している資料から調査します。必要に応じて、本人への開示要求、証拠保全、裁判上の手続を検討します。
Q4 退職者のパソコンを初期化してもよいですか
社用パソコンであっても、初期化すると情報持ち出しを示すログや削除ファイルなどが失われる可能性があります。
問題が疑われる場合には、初期化や他の従業員への再貸与をいったん控え、証拠を保全してから対応を決めることが重要です。
Q5 転職先へ直接連絡してもよいですか
証拠と法的根拠を整理したうえで、転職先に対して情報を使用しないよう通知することは考えられます。
しかし、証拠がないまま「営業秘密を盗んだ人物である」などと伝えると、退職者との新たな紛争を招く可能性があります。連絡前に弁護士へ相談することをおすすめします。
Q6 会社に実害が出ていなくても対応できますか
営業秘密が使用・開示されるおそれがあり、会社の営業上の利益が侵害される可能性がある場合には、実際の売上減少が生じる前でも差止めを検討できることがあります。
早期の証拠保全と事実調査が重要です。
まとめ
退職者による顧客情報や営業秘密の持ち出しが疑われる場合には、まず証拠を保全し、持ち出された情報と持ち出し方法を具体的に特定する必要があります。
対応のポイントは、次のとおりです。
- 関係者を限定し、秘密裏に初期調査を行う
- アクセスログ、メール、端末などの証拠を保全する
- アカウント停止前に必要なログを保存する
- 持ち出された情報を具体的に特定する
- 営業秘密の3要件を満たすか確認する
- 個人情報保護委員会への報告・本人通知の要否を検討する
- 退職者や転職先への通知は証拠保全後に行う
- 必要に応じて差止め、仮処分、損害賠償、刑事対応を検討する
情報持ち出し事件では、対応が遅れるほど、情報が転職先や第三者へ拡散し、証拠が失われるおそれがあります。
弁護士法人結の杜総合法律事務所では、仙台・宮城を中心に、退職者による顧客情報・営業秘密の持ち出し、競業行為、顧客勧誘、秘密保持契約、損害賠償など、企業の情報管理に関するご相談をお受けしています。
「退職直前に大量のデータがダウンロードされている」「元従業員から顧客への勧誘が始まった」「転職先で自社資料が使われている可能性がある」といった場合には、退職者へ連絡する前に、早めに当事務所へご相談ください。
※本記事は令和8年(2026年)9月時点の法令・公表資料に基づく一般的な説明です。個別の事案では、対象情報の内容、管理状況、持ち出し方法、契約条項、証拠などによって適切な対応が異なります。
【参考資料】
- 経済産業省「営業秘密~営業秘密を守り活用する~」
- 経済産業省「営業秘密管理指針」(令和7年3月31日最終改訂)
- 経済産業省「不正競争防止法の概要」
- 個人情報保護委員会「漏えい等報告・本人への通知の義務化について」
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宮城県仙台市に拠点を置く弁護士法人結の杜総合法律事務所は、2012年の開設以来、地域の皆様の法的ニーズに応えてまいりました。代表の髙橋和聖は、地元宮城で生まれ育ち、弁護士・税理士としての資格を持ち、法律と税務の両面からサポートを提供しています。当事務所は、青葉区五橋に本店、泉区泉中央に支店を構え、2022年10月には東京支店も開設しました。これからも、仙台・宮城の皆様に寄り添い、親しみやすい法律事務所として、質の高いサービスを提供してまいります。
コラム「相続人が遺産を使い込んだ場合、取り戻せる?調査方法と返還請求を弁護士が解説」
はじめに
遺産分割のご相談では、次のような問題が少なくありません。
- 親と同居していた相続人が、親の預金を繰り返し引き出していた
- 相続開始後、相続人の一人が預金口座から多額の現金を引き出した
- 葬儀費用として引き出したと言っているが、使途が明らかになっていない
- 被相続人の通帳や印鑑を管理していた相続人が、取引履歴を開示しない
- 被相続人の不動産を売却した代金が、相続人の一人の口座へ入金されている
- 遺産である賃貸不動産の賃料を、一部の相続人が受け取り続けている
このようなケースでは、使い込まれた金銭を取り戻せる可能性があります。
もっとも、預金の引出しが被相続人の生前に行われたのか、相続開始後に行われたのかによって、法律上の扱いや手続が異なります。また、預金が引き出されているからといって、直ちに「使い込み」と認められるわけでもありません。
本記事では、相続人による遺産の使い込みが疑われる場合の調査方法、返還請求の方法、遺産分割での扱いなどについて解説します。
1 遺産の「使い込み」とは
一般に「遺産の使い込み」とは、相続人などが、被相続人の財産を正当な権限なく引き出し、自分のために使用したり、隠したりすることをいいます。
典型的なのは、被相続人の預貯金の無断引出しです。
しかし、問題になる財産は預貯金だけではありません。例えば、次のような行為も問題になることがあります。
- 被相続人の預貯金を無断で引き出す
- 被相続人名義のクレジットカードを私的に利用する
- 被相続人の株式や投資信託を無断で売却する
- 被相続人の不動産を無断で売却する
- 不動産の売却代金を自分の口座へ移す
- 被相続人が受け取るべき賃料を自分で受け取る
- 生命保険の解約返戻金を取得する
- 被相続人の財産を不当に低い価格で取得する
- 相続開始後に遺産を処分し、代金を分配しない
もっとも、被相続人のために支出された医療費、介護費、施設費、生活費などは、通常、使い込みには当たりません。
問題になるのは、被相続人の意思や利益に反して財産が使用され、その使途について合理的な説明ができない場合です。
2 最初に確認すべきは「いつ」使われたか
遺産の使い込みを検討する場合、最初に確認すべきなのは、財産が処分された時期です。
大きく分けると、次の2つがあります。
- 被相続人が亡くなる前の引出し・処分
- 被相続人が亡くなった後の引出し・処分
この違いによって、誰の権利が侵害されたのか、どのような請求ができるのかが変わります。
3 被相続人の生前に預金が引き出されていた場合
(1)本人のための支出かを確認する
被相続人の生前に預金が引き出されていた場合、まず、そのお金が何に使われたのかを確認します。
例えば、次のような支出であれば、金額が相当であり、実際に支払われたことが確認できる限り、使い込みとは評価されないことがあります。
- 医療費や薬代
- 介護施設の利用料
- 介護用品の購入費
- 被相続人の生活費
- 自宅の修繕費
- 税金や公共料金
- 被相続人の希望に基づく旅行や買い物
- 葬儀や納骨の準備費用
同居していた相続人が、被相続人の依頼を受けて預金を引き出し、本人の生活費に充てていたのであれば、通常は返還義務を負いません。
したがって、預金の引出額だけでなく、被相続人の生活状況、健康状態、介護の必要性、通常の生活費なども含めて検討する必要があります。
(2)被相続人の承諾があったか
引き出した相続人が自分のために金銭を使っていたとしても、被相続人が贈与する意思を持って渡していたのであれば、直ちに使い込みとはいえません。
もっとも、贈与であったというためには、被相続人に贈与する意思があり、相続人も贈与として受け取ったことが必要です。
多額の現金が引き出されているにもかかわらず、贈与契約書やメモがなく、被相続人が重度の認知症で財産の内容を理解できない状態だった場合には、贈与の成立や有効性が争われることがあります。
(3)無断で引き出した場合
相続人が、被相続人の承諾を得ずに預金を引き出して自分のために使用していた場合、被相続人は、その相続人に対して不当利得返還請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権を有する可能性があります。
被相続人が亡くなると、これらの権利は相続の対象になります。
そのため、他の相続人は、原則として、自らが相続した割合に応じて、使い込んだ相続人に対する返還請求を検討することになります。
ただし、引出しの事実や無断使用について争いがある場合、家庭裁判所の遺産分割手続だけでは解決できず、地方裁判所または簡易裁判所に返還請求訴訟を提起しなければならないことがあります。
4 相続開始後に遺産が使い込まれた場合
被相続人が亡くなった時点で残っていた預貯金などは、遺産分割の対象になります。
相続人の一人が、遺産分割をしないまま預金を引き出し、自分のために使用した場合、他の相続人は、不当利得返還請求や不法行為に基づく損害賠償請求を検討できます。
また、相続開始後に相続人の一人が遺産を処分した場合には、民法906条の2により、一定の条件の下で、処分された財産が遺産分割時にも存在するものとみなして遺産分割を行うことができます。
原則として共同相続人全員の同意が必要ですが、遺産を処分した相続人については、その同意を得る必要はありません。
例えば、相続開始時に3000万円の預金があったところ、相続人の一人が1000万円を引き出して取得した場合、残りの2000万円だけを分割すると、引き出した相続人が結果的に有利になってしまいます。
このような場合に、引き出された1000万円も遺産に含まれるものとして計算し、遺産分割の公平を図ることが考えられます。
ただし、誰が処分したのか、その金額はいくらか、何のために使ったのかなどについて争いがある場合には、別途、民事訴訟による解決が必要になることがあります。
5 相続人による引出しがすべて使い込みになるわけではない
預金の引出しが確認されたとしても、それだけで不正な使い込みが認められるわけではありません。
引き出した相続人からは、次のような説明がされることがあります。
- 被相続人本人へ現金を渡した
- 被相続人の生活費として使用した
- 入院費や介護費を支払った
- 被相続人から生前贈与を受けた
- 他の相続人も承諾していた
- 葬儀費用や納骨費用を支払った
- 被相続人に代わって立て替えていた費用の精算を受けた
- 被相続人から財産管理を任され、必要な支払いを行った
最終的には、引出しの時期や金額、被相続人の判断能力、生活状況、領収書の有無、引出し後の資金の流れなどから、説明が合理的かどうかを判断します。
特に、毎月の生活費として説明するには不自然な高額の引出しや、死亡直前の集中的な引出しについては、詳しい調査が必要です。
6 使い込みを調べるために必要な資料
(1)預貯金の取引履歴
最も重要な資料は、金融機関の取引履歴です。
通帳が手元になくても、相続人であることを示す戸籍謄本等を提出することにより、金融機関から被相続人名義の口座の取引履歴を取り寄せられる場合があります。
金融機関によって、開示できる期間、必要書類、手数料などが異なります。
取引履歴では、次のような点を確認します。
- 高額な現金の引出し
- ATMでの連続した引出し
- 特定の相続人への振込み
- 証券会社や保険会社への送金
- 定期預金の解約
- 被相続人が入院・入所した後の取引
- 被相続人の死亡直前・直後の取引
(2)払戻請求書やATMの記録
金融機関の窓口で預金が払い戻されている場合には、払戻請求書、委任状、本人確認資料などが残っていることがあります。
これらを確認することにより、誰が窓口で手続をしたのか、筆跡が誰のものかなどが分かる場合があります。
ATMから引き出されている場合には、利用場所や利用時刻が分かることがあります。被相続人が入院中で外出できなかった時期に、遠方のATMで引き出されているような場合には、本人以外が操作した可能性を検討できます。
ただし、資料には保存期間があるため、早めに照会することが重要です。
(3)医療・介護関係の資料
被相続人の判断能力が争点になる場合には、次のような資料が重要です。
- 診療録
- 看護記録
- 介護記録
- 要介護認定に関する資料
- 認知機能検査の結果
- 成年後見開始の申立資料
- 入院・施設入所の記録
認知症であったというだけで、すべての行為が無効になるわけではありません。問題となる取引や贈与が行われた時点で、被相続人にその内容や結果を理解する能力があったかを個別に検討します。
(4)領収書や家計簿
引き出した相続人が「本人のために使った」と説明する場合には、領収書、請求書、家計簿、介護費用の明細などを確認します。
すべての生活費について領収書が残っているとは限りませんが、引出額と被相続人の生活状況が大きくかけ離れていないかを検討する必要があります。
(5)電子メールやメッセージ
相続人間の電子メール、LINEなどのメッセージに、預金の管理や贈与についてのやり取りが残っていることがあります。
重要なメッセージは、相手方が送信を取り消したり、端末の故障によって失われたりする前に、前後のやり取りを含めて保存しておくことが大切です。
7 使い込まれた遺産を取り戻す方法
(1)相続人同士で説明と資料開示を求める
まず、預金を管理していた相続人に対し、取引履歴や領収書を示しながら、引出しの理由と使途について説明を求めます。
この段階で使途が明らかになり、相続人間で合意できれば、使い込まれた金額をその相続人の取得分から差し引くなどして解決できる場合があります。
ただし、口頭だけで話合いをすると、後になって説明内容が変わることがあります。質問事項や回答内容は、できる限り書面などの記録に残すことが重要です。
(2)遺産分割協議で調整する
相続人全員が合意する場合には、使い込みが疑われる金額を考慮して遺産分割を行うことができます。
例えば、遺産を使った相続人の取得分を減らし、他の相続人の取得分を増やす方法です。
もっとも、相手方が使い込み自体を否定している場合には、遺産分割協議だけでの解決は難しくなります。
(3)遺産分割調停を申し立てる
話合いがまとまらない場合には、家庭裁判所へ遺産分割調停を申し立てることが考えられます。
調停では、調停委員を介して、遺産の範囲や分け方について話し合います。
相続開始後に処分された遺産については、民法906条の2によって遺産分割の中で処理できる場合があります。
一方、生前の預金引出しについて、相手方が無断使用を否定している場合には、その返還請求は遺産分割とは別の民事訴訟で解決しなければならないことがあります。
(4)不当利得返還請求をする
法律上の原因なく被相続人や他の相続人の財産を取得した者に対しては、不当利得返還請求を行うことが考えられます。
例えば、被相続人に無断で預金を引き出し、自分の借金返済や生活費に使っていた場合などです。
(5)不法行為に基づく損害賠償を請求する
故意または過失によって被相続人や他の相続人の権利を侵害した場合には、不法行為に基づく損害賠償請求を検討できます。
不当利得返還請求と不法行為に基づく請求のいずれを選択するかは、事実関係、立証可能性、消滅時効などを踏まえて判断します。
(6)仮差押えを検討する
使い込んだ相続人が財産を隠したり処分したりするおそれがある場合には、訴訟を起こす前または訴訟中に、預金や不動産などの仮差押えを検討することがあります。
裁判に勝っても、相手方に財産が残っていなければ、実際に回収できない可能性があるためです。
仮差押えには、保全の必要性を示す資料や、裁判所が定める担保金が必要になるのが一般的です。
8 返還請求には消滅時効がある
遺産の使い込みに対する返還請求は、いつまでも行えるわけではありません。
不当利得返還請求権や不法行為に基づく損害賠償請求権には、それぞれ消滅時効があります。
いつから時効期間が進行するか、どの時効期間が適用されるかは、引出しの時期、使い込みを知った時期、請求の法的構成、改正民法の経過措置などによって異なります。
また、使い込みをした相続人に請求書を送っただけでは、時効の完成を確実に防げない場合があります。
古い引出しが問題になるときは、「まだ相続の話合い中だから大丈夫」と考えず、早期に弁護士へ相談することが重要です。
9 相続放棄をした人が使い込んでいた場合
相続放棄をした人は、法律上、初めから相続人ではなかったものとみなされます。
しかし、相続放棄をすれば、それ以前に行った財産の使い込みについて責任を負わなくなるわけではありません。
被相続人の預金を無断で取得していた場合には、相続放棄をした後であっても、不当利得返還請求や損害賠償請求を受ける可能性があります。
また、被相続人の死亡後に遺産を自分のために費消した場合には、その行為の内容によって、相続放棄の効力や単純承認との関係が問題になることもあります。
10 使い込みと特別受益の違い
被相続人の生前に相続人が財産を受け取っていた場合でも、それが常に違法な使い込みになるわけではありません。
被相続人の意思に基づく贈与であれば、その財産を返還する義務は原則としてありません。ただし、その贈与が婚姻、養子縁組、生計の資本のための贈与に当たる場合には、「特別受益」として遺産分割の際に考慮されることがあります。
つまり、次のように区別する必要があります。
- 被相続人に無断で取得した場合
不当利得返還請求や損害賠償請求の問題 - 被相続人の有効な意思に基づいて贈与された場合
特別受益として遺産分割で考慮するかという問題 - 被相続人の判断能力がなく、贈与が無効である場合
財産の返還請求の問題
「多額のお金を受け取っている」という事実だけでは、使い込みか、贈与か、特別受益かを判断できません。
11 使い込みが相続税申告に影響することもある
被相続人の預金が生前または相続開始後に引き出されていたとしても、本来は被相続人の財産または相続財産として相続税の課税対象になる場合があります。
相続人の一人が財産を隠していたため、当初の相続税申告から漏れていた場合には、修正申告や追加納税が必要になる可能性があります。延滞税や加算税が問題になることもあります。
一方、生前贈与として扱われる場合には、贈与税や相続税の生前贈与加算との関係を検討しなければなりません。
遺産の使い込みが疑われるケースでは、遺産分割や返還請求だけでなく、相続税申告への影響も併せて確認することが重要です。
12 よくある質問
Q1 通帳を持っている相続人が見せてくれません。調査できますか
通帳がなくても、相続人であることを証明する戸籍謄本等を提出することにより、金融機関から被相続人名義の口座の残高証明書や取引履歴を取得できる場合があります。
必要書類や開示可能な期間は金融機関によって異なるため、各金融機関への確認が必要です。
Q2 10年以上前の引出しも調べられますか
金融機関に取引記録が残っていれば調査できる可能性がありますが、保存期間を経過して資料が廃棄されていることもあります。
また、返還請求権の消滅時効も問題になります。古い引出しについては、できるだけ早く調査を始める必要があります。
Q3 相手方が「親からもらった」と主張しています
被相続人から贈与を受けたと主張する場合には、贈与が実際にあったのか、被相続人に贈与する意思と判断能力があったのかを検討します。
贈与契約書の有無だけでなく、引出し当時の被相続人の健康状態、医療記録、金額、資金の使途、他の相続人への説明などが判断材料になります。
有効な贈与であった場合でも、特別受益として遺産分割で考慮される可能性があります。
Q4 葬儀費用として引き出したと言われました
実際に葬儀費用などへ支出され、領収書や明細によって確認できる場合には、直ちに使い込みとはいえません。
ただし、引出額が実際の葬儀費用を大きく上回っている場合や、残金の使途が説明されない場合には、その差額について返還請求を検討することがあります。
なお、葬儀費用を最終的に誰が負担するかは、遺産分割とは別の問題となる場合があります。
Q5 警察に被害届を出せば解決しますか
相続人間の預金引出しについては、民事上の紛争として扱われ、警察が直ちに捜査を開始するとは限りません。
また、親族間の財産犯罪については、犯罪の種類や親族関係によって刑法上の特例が問題になることもあります。
財産を取り戻すことが目的であれば、取引履歴などの証拠を収集し、民事上の返還請求を検討することが基本になります。
Q6 使い込んだ金額を、その相続人の相続分から差し引けますか
相続人全員が合意すれば、その金額を考慮して遺産分割を行うことができます。
相続開始後に処分された遺産については、民法906条の2により、一定の条件の下で遺産分割の対象として扱える場合があります。
一方、生前の引出しについて相手方が使い込みを否定している場合には、当然に相続分から差し引けるとは限らず、別途、返還請求訴訟が必要になることがあります。
13 使い込みを疑ったときにしてはいけないこと
使い込みを疑ったとしても、相手方の自宅へ無断で立ち入ったり、スマートフォンや電子メールを勝手に閲覧したりすることは避けなければなりません。
違法な方法で証拠を集めると、別の紛争が生じるおそれがあります。
また、十分な証拠がない段階で、親族や第三者に対して「遺産を盗んだ」などと断定的に伝えると、名誉毀損等の問題になる可能性もあります。
まずは、金融機関の取引履歴など、適法に取得できる客観的資料を集めることが重要です。
まとめ
相続人による遺産の使い込みが疑われる場合には、預金の引出しが行われた時期、金額、使途、被相続人の承諾や判断能力などを確認する必要があります。
特に重要なのは、次の点です。
- 生前の引出しか、相続開始後の引出しかを区別する
- 金融機関から取引履歴を早めに取得する
- 医療・介護記録、領収書、メッセージなどを保全する
- 使い込みか、生前贈与・特別受益かを区別する
- 遺産分割で処理できるか、別途訴訟が必要かを判断する
- 消滅時効や相手方の財産処分に注意する
- 相続税申告への影響も確認する
使い込みが疑われるケースでは、時間が経過するほど、金融機関の資料が廃棄されたり、関係者の記憶が薄れたりして、立証が難しくなることがあります。
弁護士法人結の杜総合法律事務所では、仙台・宮城を中心に、遺産分割、預貯金の使い込み、生前贈与、特別受益、遺留分など、相続に関するご相談をお受けしています。
当事務所には税理士事務所も併設されているため、遺産分割や返還請求だけでなく、相続税申告への影響も含めて検討することが可能です。
「相続人が通帳を開示してくれない」「死亡前後に多額の預金が引き出されている」「贈与だったと言われているが納得できない」といった場合には、早めに当事務所へご相談ください。
※本記事は令和8年(2026年)9月時点の法令に基づく一般的な説明です。個別の事案では、引出しの時期、相続開始時期、証拠、当事者の関係、消滅時効などによって適切な対応が異なります。
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宮城県仙台市に拠点を置く弁護士法人結の杜総合法律事務所は、2012年の開設以来、地域の皆様の法的ニーズに応えてまいりました。代表の髙橋和聖は、地元宮城で生まれ育ち、弁護士・税理士としての資格を持ち、法律と税務の両面からサポートを提供しています。当事務所は、青葉区五橋に本店、泉区泉中央に支店を構え、2022年10月には東京支店も開設しました。これからも、仙台・宮城の皆様に寄り添い、親しみやすい法律事務所として、質の高いサービスを提供してまいります。
コラム「会社に内容証明郵便が届いたらどうする?放置するリスクと初動対応を弁護士が解説」
はじめに
会社に突然、取引先や従業員、弁護士などから内容証明郵便が届くことがあります。
記載されている内容は、売掛金や損害賠償の請求、契約解除、未払残業代の請求、ハラスメントの申告など、さまざまです。
内容証明郵便には法律用語が多く使われ、「〇日以内に支払わなければ法的措置を講じる」と記載されていることもあるため、慌てて相手方へ連絡してしまうケースがあります。
しかし、事実関係を確認しないまま支払義務を認めたり、感情的な反論をしたりすると、後の交渉や裁判で会社に不利な証拠として利用されるおそれがあります。
一方で、そのまま放置することも適切ではありません。請求内容によっては、訴訟、仮差押え、労働審判などの法的手続に進む可能性があるためです。
本記事では、会社に内容証明郵便が届いた場合に確認すべきこと、してはいけない対応、弁護士へ相談するタイミングについて解説します。
1 内容証明郵便とは
内容証明とは、「いつ、どのような内容の文書を、誰から誰に差し出したか」を日本郵便が証明する制度です。
一般的には、相手方に配達された事実や日付を証明する「配達証明」を付けて利用されます。
内容証明郵便は、次のような場面でよく使用されます。
- 売掛金、貸金、請負代金などの支払請求
- 契約の解除や解約
- 損害賠償請求
- 未払賃金や残業代の請求
- 解雇や雇止めに対する異議
- ハラスメントに関する申告
- 商標権、著作権その他の知的財産権の侵害警告
- 競業避止義務や秘密保持義務の履行請求
- 株主からの要求や通知
- 債権譲渡の通知
- 時効完成を阻止するための催告
内容証明郵便を利用すると、送付した文書の内容と発送日などを後から証明できるため、将来の訴訟を見据えた請求や通知に利用されることが多くあります。
2 内容証明に書かれた主張が正しいと証明されたわけではない
内容証明郵便が届いたからといって、その文書に書かれている事実や請求内容が正しいと認められたわけではありません。
日本郵便が証明するのは、基本的に「その内容の文書が差し出されたこと」です。差出人の主張が事実であることや、法律上の請求権が存在することまで証明するものではありません。
例えば、内容証明郵便に「貴社には500万円の損害賠償義務がある」と記載されていても、それだけで会社に500万円の支払義務が確定するわけではありません。
会社としては、請求の法的根拠、契約内容、実際の取引経過、損害の有無、消滅時効などを確認し、請求が妥当かどうかを検討する必要があります。
3 内容証明郵便を放置するとどうなるか
内容証明郵便そのものは、裁判所の判決や命令ではありません。そのため、内容証明郵便に回答しなかっただけで、直ちに相手方の請求が確定するわけではありません。
しかし、放置してよいという意味ではありません。
(1)訴訟や労働審判に進む可能性がある
差出人がすでに弁護士へ依頼している場合、内容証明郵便は、訴訟や労働審判などを申し立てる前の最終通知として送付されている可能性があります。
会社から何も回答がなければ、「話合いによる解決は困難」と判断され、法的手続に進まれることがあります。
(2)仮差押えを受ける可能性がある
金銭の請求を受けている場合、相手方が会社の預金や売掛金などについて仮差押えを申し立てる可能性もあります。
預金口座が仮差押えを受けると、資金繰りや取引先への支払いに影響が生じることがあります。また、売掛金を仮差押えされれば、取引先に紛争の存在を知られる可能性もあります。
(3)契約解除などの法的効果が発生している場合がある
内容証明郵便には、単なる請求だけでなく、契約解除、相殺、債権譲渡の通知など、相手方への到達によって法律上の効果が生じる意思表示が記載されていることがあります。
回答しなかったとしても、通知の到達によって一定の法的効果が発生している可能性があります。
(4)問題が拡大する可能性がある
従業員からハラスメントや未払残業代について通知を受けた場合には、会社として事実調査や証拠保全を行う必要があります。
これを放置すると、被害の拡大、関係者の退職、労働基準監督署への申告、労働審判、訴訟などに発展する可能性があります。
4 内容証明郵便が届いた直後に行うべきこと
(1)文書と封筒を保管する
届いた内容証明郵便は、文書だけでなく封筒も保管してください。
会社が実際に受領した日や、どの部署・担当者が受け取ったかも記録しておくことが望ましいでしょう。受領日が、回答期限や法的手続の検討において重要になることがあるためです。
内容証明郵便をPDF化し、原本とは別に電子データとして保存しておく方法も有効です。
(2)差出人と代理人を確認する
まず、誰から届いたものかを確認します。
弁護士名で送付されている場合には、法律事務所の名称、所在地、電話番号、弁護士名などを確認します。実在する弁護士か疑わしい場合には、日本弁護士連合会の弁護士検索などで確認することが考えられます。
ただし、文書に記載された連絡先が真正なものとは限りません。振込先の変更や緊急の送金を要求する内容については、詐欺やなりすましの可能性にも注意が必要です。
(3)回答期限を確認する
内容証明郵便には、「本書面到達後7日以内」「〇月〇日まで」などの回答期限が記載されていることがあります。
この期限は、相手方が一方的に設定した期限であり、常に法律上の期限になるわけではありません。
もっとも、期限を無視すれば訴訟などに進まれる可能性があります。期限までに十分な調査ができない場合には、「現在、事実関係を確認中であり、〇日までに回答する予定である」といった連絡を行うことも検討します。
その連絡自体が債務や責任を認めたものと受け取られないよう、表現には注意が必要です。
(4)関係資料を集める
内容証明郵便の記載内容に関係する資料を速やかに集めます。
取引関係の請求であれば、例えば次のような資料が考えられます。
- 契約書、注文書、発注書
- 見積書、請求書、納品書
- 電子メールやチャットの履歴
- 議事録、打合せ記録
- 入出金記録
- 商品や成果物の写真
- 担当者が作成した報告書
- 録音や防犯カメラの映像
労働問題であれば、次のような資料を確認します。
- 雇用契約書、労働条件通知書
- 就業規則、賃金規程
- タイムカード、勤怠管理記録
- 給与明細、賃金台帳
- 業務日報、パソコンのログ
- 電子メールや社内チャット
- 面談記録、指導書、始末書
- ハラスメント相談の記録
電子メールやチャット、映像などは、保存期間の経過や自動消去によって失われることがあります。必要なデータについては、上書きや削除を停止し、早急に保全する必要があります。
(5)社内の関係者から事情を聴く
担当者、上司、経理担当者などから事情を聴き、通知書の内容と実際の経過を照合します。
このとき、会社として結論を決めつけて質問するのではなく、日時、場所、関係者、発言内容、やり取りの経過などを具体的に確認することが重要です。
関係者の記憶が薄れる前に、聴取結果を書面に残しておくことも有効です。
(6)保険の対象にならないか確認する
請求内容によっては、会社が加入している賠償責任保険、役員賠償責任保険、サイバー保険などの対象になる可能性があります。
保険契約には、事故や請求を受けた後、一定期間内に保険会社へ通知しなければならない旨が定められていることがあります。
相手方との示談を先に成立させると、保険金が支払われない可能性もあるため、保険の利用が考えられる場合には、約款を確認したうえで早期に保険会社または代理店へ連絡する必要があります。
5 届いた直後にしてはいけない対応
(1)その場で支払義務や責任を認める
相手方へ電話をかけ、「確かにこちらが悪かった」「支払うので少し待ってほしい」などと話すことは避けるべきです。
電話の内容を録音され、後の裁判で会社が責任を認めた証拠として提出される可能性があります。
また、債務の存在を認めたり、一部を支払ったりすることが、消滅時効に影響する場合もあります。古い請求を受けたときは、返答や支払いをする前に時効の成否を確認する必要があります。
(2)感情的に反論する
請求内容が事実と異なっているとしても、感情的な文面を送ることは適切ではありません。
担当者が個人的な見解をメールやSNSで送信すると、会社の正式な回答として扱われるおそれがあります。相手方への連絡窓口を決め、回答内容を社内で統一することが重要です。
(3)証拠となる資料を廃棄・削除する
不利に見える電子メール、チャット、録音、社内文書などを削除してはいけません。
資料の廃棄や改変が判明すれば、裁判における会社の説明の信用性を大きく損なう可能性があります。会社に有利な資料だけでなく、不利な資料も含めて保存したうえで、対応方針を検討する必要があります。
(4)担当者だけで処理する
内容証明郵便が担当部署に届いたにもかかわらず、経営者や法務担当者に報告されないまま、担当者限りで回答してしまうことがあります。
しかし、内容証明郵便には、訴訟、信用、取引継続、雇用関係など、会社経営に影響する問題が含まれている可能性があります。
会社として受領・報告・検討・回答までの担当者と決裁権限を明確にしておくことが大切です。
6 会社は必ず回答しなければならないのか
原則として、内容証明郵便を受け取っただけで、会社に回答義務が生じるわけではありません。
請求に理由がない場合や、相手方の目的が不明な場合などには、直ちに詳しい回答をしないという選択肢もあります。
ただし、次のような場合には、回答を検討する必要性が高いといえます。
- 請求の全部または一部に理由がある場合
- 継続的な取引先からの通知である場合
- 契約上の回答期限が定められている場合
- 誤解を解けば早期解決できる可能性がある場合
- 放置すると損害が拡大する可能性がある場合
- 相手方が弁護士へ依頼している場合
- 訴訟や仮差押えが予告されている場合
- 従業員から重大な法令違反やハラスメントを指摘された場合
回答する場合でも、相手方の主張に対して、その場で全面的な認否を示す必要があるとは限りません。
事実関係の調査に時間を要する場合には、回答期限の延長を求めたり、請求の根拠資料の開示を求めたりすることも考えられます。
7 回答書を作成するときの注意点
回答書では、相手方の主張を項目ごとに整理し、認める部分、否定する部分、現時点では確認できない部分を区別することが重要です。
一般的には、次のような事項を検討します。
- 通知書を受領したこと
- 会社の基本的な見解
- 請求を認めるか否か
- 事実関係に誤りがある場合の指摘
- 請求の根拠資料の開示要求
- 今後の連絡方法と連絡窓口
- 交渉を行う意思の有無
- 回答内容が暫定的なものである場合の留保
回答書には、必要以上の情報を記載しないことも重要です。
相手方が把握していない事実や、会社に不利な事実を不用意に伝えると、その後の請求や立証に利用される可能性があります。
一方で、単に「請求には応じられない」とだけ回答しても、交渉による解決の機会を失うことがあります。事件の見通し、取引関係、訴訟になった場合の費用や信用への影響なども踏まえて、回答内容を決める必要があります。
8 「内容証明郵便」と「裁判所からの書類」は異なる
特に注意したいのは、相手方や弁護士から届く内容証明郵便と、裁判所から届く訴状や支払督促を混同しないことです。
裁判所から訴状や呼出状が届いた場合、答弁書を提出せず、期日にも出席しなければ、相手方の主張を認めたものとして扱われ、請求どおりの判決が出る可能性があります。
また、支払督促が届いた場合には、原則として、受領後2週間以内に督促異議を申し立てなければ、相手方が仮執行宣言の申立てを行い、強制執行が可能になることがあります。政府広報オンライン「簡易裁判所の『支払督促』手続きをご存じですか?」
裁判所から届いた書類には、法律上の重要な期限が設けられています。「内容証明と同じような請求書だろう」と考えて放置してはいけません。
9 弁護士に相談すべきケース
次のような内容証明郵便が届いた場合には、早期に弁護士へ相談することをおすすめします。
- 請求額が大きい
- 事実関係や契約関係が複雑である
- 相手方に弁護士が付いている
- 訴訟、労働審判、仮差押えなどが予告されている
- 契約解除や取引停止が通知されている
- 元従業員から残業代や損害賠償を請求された
- ハラスメントや不当解雇を主張されている
- 知的財産権の侵害や営業秘密の不正利用を指摘された
- 古い債務について支払いを求められている
- 会社の信用や事業継続に影響する可能性がある
弁護士に早い段階で相談すれば、請求の法的根拠や証拠を検討し、回答すべきかどうか、どこまで回答するかを判断できます。
また、弁護士を会社の窓口とすることにより、担当者が相手方と直接やり取りをして不用意な発言をするリスクを減らすこともできます。
10 日頃から社内の受領体制を整えておく
内容証明郵便は、代表者や法務担当者が不在のときに届くこともあります。
受領した従業員が重要性を理解していなければ、担当者の机に置かれたままになり、回答期限が経過してしまう可能性があります。
会社として、次のような社内ルールを整えておくとよいでしょう。
- 内容証明郵便や裁判所からの郵便は直ちに責任者へ報告する
- 文書と封筒を一緒に保管する
- 受領日、受領者、報告日時を記録する
- 相手方へ担当者限りで回答しない
- 関係資料を削除・廃棄しない
- 顧問弁護士への連絡基準を決めておく
- 責任者不在時の代理報告先を決めておく
初動対応の遅れを防ぐためには、受付担当者を含めた社内周知が重要です。
11 よくある質問
Q1 内容証明郵便を受け取らなければ、請求を避けられますか
受領を拒否しても、紛争自体がなくなるわけではありません。
相手方が普通郵便、特定記録郵便など別の方法で通知したり、訴訟や支払督促を申し立てたりする可能性があります。また、受領を拒否した経過が、後の裁判で問題になることもあります。
受け取らずに済ませようとするのではなく、内容を確認して対応を検討することが重要です。
Q2 相手方が指定した期限までに必ず支払わなければなりませんか
相手方が一方的に記載した期限までに支払わなかったからといって、直ちに相手方の請求が確定するわけではありません。
ただし、契約上の支払期限や法律上の期限がすでに到来している場合には、遅延損害金が発生している可能性があります。また、期限経過後に訴訟等へ進まれることも考えられます。
請求の根拠を確認し、期限までに回答できない場合には、適切な方法で相手方へ連絡することを検討します。
Q3 電話で事情を説明してもよいですか
事実関係を確認する前に、担当者が電話で詳しい説明をすることはおすすめできません。
電話が録音されていた場合、会社の発言が証拠として利用される可能性があります。まず社内資料を確認し、会社としての方針を決めてから、書面など記録に残る方法で回答するのが原則です。
Q4 請求額の一部だけ支払ってもよいですか
一部だけでも支払うと、債務の存在を認めたと評価され、消滅時効などに影響する可能性があります。
特に、古い売掛金や貸金について請求を受けた場合には、一部弁済や支払猶予の依頼をする前に、消滅時効を含めた法的検討が必要です。
Q5 こちらも内容証明郵便で回答すべきですか
必ず内容証明郵便で回答しなければならないわけではありません。
もっとも、いつ、どのような回答をしたかを明確に残す必要がある場合や、契約解除などの重要な意思表示を行う場合には、内容証明郵便や配達証明を利用することがあります。
どの方法が適切かは、通知内容や今後の交渉方針によって異なります。
まとめ
会社に内容証明郵便が届いた場合、最も重要なのは、慌てて責任を認めることでも、無視することでもなく、事実と資料を確認したうえで対応方針を決めることです。
まず、文書と封筒を保管して受領日を記録し、回答期限、差出人、請求内容、法的根拠を確認します。そのうえで関係資料を保全し、社内の関係者から事情を聴き取ります。
内容証明郵便に記載された主張が当然に正しいとは限りません。しかし、対応を誤れば、訴訟や仮差押えに発展したり、不用意な回答が会社に不利な証拠になったりする可能性があります。
弁護士法人結の杜総合法律事務所では、仙台・宮城を中心に、売掛金や請負代金の請求、契約解除、損害賠償、労働問題、取引先との紛争など、企業に関する各種の法律問題を取り扱っています。
会社に内容証明郵便が届き、「回答すべきか分からない」「相手方の請求に納得できない」「訴訟に発展する可能性がある」とお悩みの場合には、不用意な回答をする前に、早めに当事務所へご相談ください。
※本記事は令和8年(2026年)9月時点の法令等に基づく一般的な説明です。個別の事案では、契約内容、通知の記載、証拠、時効その他の事情によって適切な対応が異なります。
宮城県仙台市に拠点を置く弁護士法人結の杜総合法律事務所は、2012年の開設以来、地域の皆様の法的ニーズに応えてまいりました。代表の髙橋和聖は、地元宮城で生まれ育ち、弁護士・税理士としての資格を持ち、法律と税務の両面からサポートを提供しています。当事務所は、青葉区五橋に本店、泉区泉中央に支店を構え、2022年10月には東京支店も開設しました。これからも、仙台・宮城の皆様に寄り添い、親しみやすい法律事務所として、質の高いサービスを提供してまいります。
コラム「民事裁判がオンライン化されました―訴訟手続はどう変わった?弁護士がわかりやすく解説」
はじめに
令和8年(2026年)5月21日、改正民事訴訟法・改正民事訴訟規則が全面施行され、民事訴訟の手続が大きく変わりました。
これまで、裁判所への訴状や準備書面の提出、判決書などの受領、訴訟記録の閲覧は、紙の書面を中心に行われてきました。
今回の改正により、裁判所の「民事裁判書類電子提出システム(mints・ミンツ)」を利用して、訴えの提起や裁判書類の提出・受領などをオンラインで行えるようになりました。
もっとも、「すべての裁判がインターネットだけで完結する」「裁判所へ行く必要が一切なくなる」というわけではありません。また、民事執行、破産、労働審判、離婚などの家事事件は、現時点では今回のオンライン化の対象外です。
本記事では、民事裁判のオンライン化によって何が変わったのか、利用する際にどのような点に注意すべきかについて、弁護士がわかりやすく解説します。
1 民事裁判のオンライン化とは
令和8年5月21日に施行された改正民事訴訟法では、民事訴訟手続について、主に次のようなデジタル化が行われました。
- 訴状や準備書面などのオンライン提出
- 申立手数料などの電子納付
- 判決書などのオンライン送達
- 訴訟記録の電子化とオンライン閲覧
- ウェブ会議による口頭弁論等
- 電子データそのものを対象とする証拠調べ
裁判所への書類の提出や裁判所からの書類の受領には、原則として「mints」と呼ばれるシステムが使用されます。
mintsは、裁判所に対してインターネットで書類を提出したり、裁判所から書類を受け取ったりするためのシステムです。利用に当たっては、事前にアカウントを登録する必要があります。
2 訴状や準備書面をオンラインで提出できる
改正後は、mintsを利用して、オンラインで訴えを提起できるようになりました。
訴状だけでなく、訴訟が始まった後の準備書面、証拠説明書、書証の写しなども、原則としてオンラインで提出できます。
これにより、裁判所の窓口へ直接書類を持参したり、郵送したりする必要が少なくなります。提出期限が迫っている場合でも、一定の時間的負担を軽減できることが期待されます。
ただし、ファイル形式、ファイル容量、提出方法などについて、裁判所が定めるルールを守る必要があります。提出先となる事件を間違えたり、個人情報をマスキングしないままアップロードしたりすることがないよう、十分な注意が必要です。
3 本人は紙でも提出できる
民事裁判がオンライン化されたからといって、一般の方が必ずmintsを利用しなければならないわけではありません。
弁護士等ではない本人が訴訟を行う場合には、従来どおり、紙の訴状や書面を裁判所へ提出することもできます。
一方、当事者から委任を受けた弁護士などの訴訟代理人については、原則として、mintsを利用したオンライン提出が義務付けられています。
したがって、今回の改正によって、本人訴訟ができなくなったり、パソコンを使用できない方が裁判を利用できなくなったりするわけではありません。
4 申立手数料などの納付方法も変わった
これまで、訴えを提起する際の申立手数料は、原則として、訴状に収入印紙を貼って納付していました。また、裁判所が訴状や判決書などを郵送するための費用として、郵便切手をあらかじめ納付する必要がありました。
改正後は、申立手数料と郵便費用に相当する金額を合算し、原則としてペイジーを利用して納付します。
ペイジーによる納付は、インターネットバンキングや対応する金融機関のATMから行うことができます。
また、従来のように、裁判所ごとに異なる郵便切手の組合せを確認して準備する必要は基本的になくなりました。
なお、郵便費用に相当する金額は、書面で訴えを提起する場合とオンラインで提起する場合とで異なることがあります。具体的な手数料額については、訴えを提起する時点で最新の情報を確認する必要があります。
5 裁判所からの書類をオンラインで受け取れる
裁判所のシステムを利用してオンラインで送達を受ける旨を届け出た場合、判決書などの裁判書類をmints上で受け取ることができます。
裁判所書記官が裁判書類をシステムにアップロードすると、登録したメールアドレスに通知が届き、当事者はmintsにサインインして書類を閲覧またはダウンロードします。
注意しなければならないのは、「実際に書類を開かなければ送達されたことにならない」とは限らない点です。
オンライン送達の効力は、原則として、次のうち最も早い時点で生じます。
- システム上で裁判書類を閲覧した時
- 裁判書類をダウンロードした時
- 閲覧またはダウンロードが可能になった旨の通知が発せられた日から1週間が経過した時
メールを見落としたり、mintsへのログインを後回しにしたりしている間に、控訴期間などの重要な期間が進んでしまう可能性があります。
オンライン送達を利用する場合には、登録メールアドレスを定期的に確認するとともに、迷惑メールの設定や担当者不在時の確認体制を整えておく必要があります。
6 訴訟記録をオンラインで確認できる
令和8年5月21日以降に提起された民事訴訟については、訴状、準備書面、証拠、判決書などの訴訟記録が原則として電子化されます。
mintsを利用している当事者は、事件が裁判所に係属している間、基本的にシステム上で訴訟記録を閲覧し、ダウンロードできるようになります。
従来は、記録を詳しく確認するために裁判所へ出向かなければならない場合がありました。オンラインで確認できるようになったことで、当事者や代理人の負担が軽減されると考えられます。
もっとも、令和8年5月20日以前に訴えが提起された事件は、原則として従来どおり紙で記録が作成されるため、今回の制度によるオンライン閲覧の対象にはなりません。
7 裁判期日にウェブ会議で参加できる場合がある
改正後は、裁判所が相当と認める場合など、一定の条件の下で、当事者がウェブ会議を利用して口頭弁論等の期日に参加できるようになりました。
ウェブ会議には、原則としてMicrosoft Teamsが利用されます。参加するためには、インターネットに接続できるパソコン等のほか、カメラ、マイク、スピーカーなどが必要です。
遠方の裁判所に事件が係属している場合には、裁判所への移動時間や交通費を軽減できる可能性があります。
ただし、裁判期日へのウェブ参加が常に認められるわけではありません。事件の内容、手続の種類、証拠調べの必要性などを踏まえ、裁判所が実施方法を判断します。
また、一般の方が裁判を傍聴する場合は、オンラインで傍聴することはできず、これまでどおり裁判所の法廷へ行く必要があります。
8 電子メールや動画なども証拠として扱いやすくなる
現代の民事紛争では、電子メール、チャット、SNSの投稿、録音、写真、動画、電子契約書などのデジタルデータが重要な証拠になることが少なくありません。
改正民事訴訟法では、従来から行われていた紙の契約書等の証拠提出に加え、電磁的記録に保存された情報そのものを証拠調べの対象とする規定が設けられました。
証拠となるデータは、内容に応じて、PDF、MP4、MP3、JPEG、PNGなどの形式で提出します。所定の形式に変換できない場合には、記録媒体に保存して提出することがあります。
もっとも、電子データは、編集や改変が容易であるという特徴があります。
そのため、単に画面のスクリーンショットを保存するだけでなく、送受信日時、送信者、受信者、前後のやり取り、元のファイルなども含めて保存しておくことが重要です。
紛争が発生した場合には、必要なデータが消去されたり上書きされたりする前に、早い段階で証拠を保全する必要があります。
9 すべての裁判手続がオンライン化されたわけではない
今回オンライン化されたのは、主として通常の民事訴訟です。
令和8年5月21日の時点では、次のような手続は、今回の全面的なオンライン申立ての対象外とされています。
- 民事執行
- 破産・民事再生などの倒産手続
- 労働審判
- 民事調停などの非訟手続
- 離婚訴訟などの人事訴訟
- 遺産分割、離婚調停、成年後見などの家事事件
これらについては、遅くとも令和10年(2028年)6月までに、順次オンライン申立て等の対象となる予定です。
例えば、民事訴訟で勝訴判決を取得しても、その後に預金や給与、不動産を差し押さえる民事執行手続は、現時点では原則として書面で申し立てる必要があります。
「裁判がオンライン化されたから、強制執行までオンラインでできる」と誤解しないよう注意が必要です。
10 オンライン化されても裁判の難しさは変わらない
オンライン化によって、書類の提出や受領は便利になりました。
しかし、民事裁判で重要なのは、書類をどのような方法で提出するかだけではありません。
訴訟を行うためには、少なくとも次の点を検討する必要があります。
- 誰に対して、どのような請求をするのか
- どの裁判所に訴えを提起するのか
- 請求の法的根拠は何か
- どのような事実を主張する必要があるか
- その事実を証明する証拠があるか
- 相手方から予想される反論にどう対応するか
- 訴訟前に仮差押えなどの保全処分が必要か
- 勝訴後に相手方の財産から回収できるか
- 和解する場合、どのような条件が妥当か
mintsを利用すれば、誰でもオンラインで訴状を提出できます。しかし、法的な主張が不十分であったり、必要な証拠がそろっていなかったりすれば、期待した結果を得られない可能性があります。
また、請求権には消滅時効があり、裁判所から届いた書類への対応にも期限があります。オンライン化されたからといって、手続上の期限が緩やかになるわけではありません。
11 訴えられた場合も放置してはいけない
相手方から民事裁判を起こされた場合、訴状とともに、答弁書の提出期限や第1回口頭弁論期日が記載された書類が届きます。
「相手の主張に納得できない」「請求内容が事実と違う」と思っていても、裁判所からの書類を放置してはいけません。
答弁書を提出せず、裁判期日にも出席しなければ、相手方の主張を争わないものとして扱われ、相手方の請求どおりの判決が言い渡される可能性があります。
オンラインで書類が届いた場合にも、紙の訴状が届いた場合と同様に、速やかな対応が必要です。
12 よくある質問
Q1 パソコンを持っていないと、民事裁判を起こせませんか
いいえ。弁護士等ではない本人が訴訟を行う場合には、従来どおり、紙の書面で訴えを提起することもできます。
オンライン申立てを利用しないことだけを理由として、裁判を受けられなくなるわけではありません。
Q2 自分でmintsを利用して訴訟を起こせますか
mintsは一般の方もアカウントを登録して利用できます。
ただし、mintsは書類を提出・受領するためのシステムであり、請求内容や法的主張が適切かどうかを判断してくれるものではありません。
請求額が大きい場合、事実関係が複雑な場合、相手方に弁護士が付いている場合などには、訴えを提起する前に弁護士へ相談することをおすすめします。
Q3 裁判所に一度も行かずに判決まで進められますか
事件の内容や裁判所の判断によっては、ウェブ会議を活用して手続を進められる場合があります。
もっとも、本人尋問や証人尋問を行う場合などには、裁判所への出頭が必要になることがあります。すべての事件が完全にオンラインだけで終了するわけではありません。
Q4 離婚調停や遺産分割調停もオンラインで申し立てられますか
令和8年5月21日時点では、離婚調停、遺産分割調停、成年後見などの家事事件は、今回のオンライン申立ての対象外です。
ただし、事件によっては、申立て後の期日にウェブ会議や電話会議を利用できる場合があります。具体的な進行については、担当する裁判所に確認する必要があります。
Q5 民事裁判のオンライン化によって、裁判は早くなりますか
書類の郵送や裁判所への移動に要する時間が減るため、事務処理の効率化は期待できます。
しかし、争点が多い事件、証拠が多数ある事件、証人尋問が必要な事件などでは、解決まで相応の期間を要します。オンライン化によって、すべての民事裁判が短期間で終わるわけではありません。
まとめ
令和8年5月21日から、民事訴訟では、訴状や準備書面のオンライン提出、手数料等の電子納付、裁判書類のオンライン送達、電子化された訴訟記録の閲覧などが可能になりました。
今回の改正は、裁判所への移動や書類の郵送に伴う負担を軽減し、民事裁判をより利用しやすくするものといえます。
一方で、電子送達を見落とした場合のリスク、提出先やファイルを間違えるリスク、個人情報や営業秘密を含む資料を誤って提出するリスクなど、デジタル化に伴う新たな注意点もあります。
また、オンライン化されたのは手続の方法であり、法的な主張・立証や訴訟戦略の難しさがなくなったわけではありません。
弁護士法人結の杜総合法律事務所では、仙台・宮城を中心に、企業間の取引トラブル、売掛金等の債権回収、不動産問題、労働問題、損害賠償請求など、各種の民事事件についてご相談をお受けしています。
「訴訟を起こすべきか判断できない」「裁判所から訴状が届いた」「相手方との交渉が進まない」「判決を取っても回収できるか不安」といった場合には、できるだけ早い段階で当事務所へご相談ください。
※本記事は令和8年(2026年)9月時点の法令・公表資料に基づいて作成しています。個別の事件については、具体的な事情によって必要な手続や対応が異なります。
【参考資料】
宮城県仙台市に拠点を置く弁護士法人結の杜総合法律事務所は、2012年の開設以来、地域の皆様の法的ニーズに応えてまいりました。代表の髙橋和聖は、地元宮城で生まれ育ち、弁護士・税理士としての資格を持ち、法律と税務の両面からサポートを提供しています。当事務所は、青葉区五橋に本店、泉区泉中央に支店を構え、2022年10月には東京支店も開設しました。これからも、仙台・宮城の皆様に寄り添い、親しみやすい法律事務所として、質の高いサービスを提供してまいります。
コラム「住所・氏名変更登記が義務化―不動産所有者が知っておくべき期限・手続・過料を弁護士が解説」
1 はじめに
2026年(令和8年)4月1日から、不動産の所有者について、住所や氏名・名称に変更があった場合の変更登記が義務化されました。
これまでは、引っ越しや結婚などによって住所・氏名が変わっても、変更登記の申請期限や罰則はありませんでした。そのため、登記簿には以前の住所や氏名が記載されたままというケースも少なくありません。
しかし、現在は、原則として変更日から2年以内に住所等の変更登記を申請しなければなりません。正当な理由なく申請を怠った場合には、5万円以下の過料が科される可能性があります。
また、義務化前に住所や氏名が変わっていた場合も対象となります。
本稿では、住所・氏名変更登記の義務化について、誰が対象になるのか、いつまでに申請しなければならないのか、過去の変更を放置している場合はどうすればよいのか、登記を自動で変更してもらえる「スマート変更登記」とは何かについて解説します。
2 住所・氏名変更登記とは
土地や建物の登記簿には、所有者の氏名または名称と住所が記録されています。
その後、引っ越し、結婚、離婚、会社の本店移転、商号変更などによって登記簿上の情報に変更が生じた場合、現在の情報に改める手続が「所有権登記名義人の住所・氏名等の変更登記」です。
対象となるのは、例えば次のような場合です。
- 自宅を購入した後に転居した
- 不動産を所有したまま複数回引っ越した
- 結婚や離婚、養子縁組などにより氏名が変わった
- 住居表示の実施により住所の表示が変わった
- 不動産を所有する会社が本店を移転した
- 不動産を所有する会社が商号を変更した
- 海外へ転居した
- 海外から日本へ帰国した
住民票や戸籍、会社の商業登記を変更しただけで、不動産登記簿上の住所や氏名が必ず自動的に変更されるわけではありません。
ただし、後述する「スマート変更登記」を利用する場合などには、法務局による職権での変更登記を受けられる制度が設けられています。
3 誰が義務化の対象になるのか
対象となるのは、土地や建物について所有権の登記名義人となっている個人または法人です。
具体的には、次のような不動産が対象になります。
- 自宅の土地・建物
- マンション
- アパートや貸家
- 駐車場
- 田畑や山林
- 事業用地
- 店舗・事務所・工場
- 使用していない空き家や土地
- 共有名義の不動産
- 法人名義の不動産
現在、その不動産を使用しているかどうかは関係ありません。
共有不動産の場合には、住所や氏名が変わった共有者ごとに変更登記を行う必要があります。
一方、賃借人や抵当権者など、所有権の登記名義人ではない者については、今回の義務化の対象ではありません。
4 いつまでに登記しなければならないのか
(1)2026年4月1日以降に変更した場合
2026年4月1日以降に住所や氏名・名称が変わった場合には、その変更日から2年以内に変更登記を申請する必要があります。
例えば、2026年9月1日に住所を変更した場合、原則として2028年9月1日までに申請しなければなりません。
(2)2026年4月1日より前に変更している場合
義務化前に住所や氏名が変わっているにもかかわらず、変更登記をしていない場合も対象です。
この場合には、原則として2028年(令和10年)3月31日までに変更登記を申請する必要があります。
したがって、「昔の住所のままだが、変更したのは義務化前なので関係ない」ということにはなりません。
法務省も、義務化前の変更について経過措置の対象となることを明示しています。法務省「住所等変更登記の義務化について」
5 住所を何度も変更している場合はどうなるのか
不動産を取得した後、変更登記をしないまま複数回転居している場合には、登記簿上の住所から現在の住所までのつながりを証明する必要があります。
例えば、登記簿上の住所がA市、その後B市、C市へ転居し、現在はD市に住んでいる場合、A市からD市まで住所が連続して移転したことを確認できる資料が必要です。
一般的には、次のような書類を使用します。
- 住民票の写し
- 住民票の除票
- 戸籍の附票
- 戸籍の附票の除票
- 住居表示実施証明書
- 町名地番変更証明書
保存期間の経過などにより、古い住民票の除票や戸籍の附票を取得できない場合もあります。
その場合には、不在住証明書、不在籍証明書、不動産の権利証や登記識別情報、固定資産税の納税通知書など、別の資料を組み合わせて同一人物であることを説明しなければならないことがあります。
住所変更の回数が多い場合や、登記簿上の住所が非常に古い場合は、早めに必要書類を確認することが重要です。
6 氏名が変わっている場合に必要な手続
結婚、離婚、養子縁組などによって氏名が変わった場合には、氏名変更登記が必要です。
一般的には、変更前後の氏名のつながりを確認できる戸籍謄本や抄本などを用意します。
氏名と住所の両方が変わっている場合には、一つの申請で住所・氏名変更登記を行うこともできます。
ただし、複数回の氏名変更や転居がある場合には、戸籍や戸籍の附票などによって、登記簿上の人物と現在の申請人が同一であることを証明する必要があります。
7 登記申請はどこに、どのように行うのか
住所・氏名変更登記は、対象となる不動産の所在地を管轄する法務局に申請します。
申請方法には、主に次の3つがあります。
- 法務局の窓口へ提出する
- 郵送で申請する
- オンラインで申請する
複数の不動産を所有しており、管轄する法務局が異なる場合には、原則として、それぞれの管轄法務局への申請が必要です。
申請には、一般に次のような書類を使用します。
- 登記申請書
- 住所変更を証明する住民票や戸籍の附票など
- 氏名変更を証明する戸籍謄本等
- 法人の場合には会社法人等番号など
- 委任して申請する場合には委任状
必要書類は、変更内容や住所移転の回数、法人・個人の別などによって異なります。
8 登録免許税はいくらかかるのか
住所・氏名変更登記の登録免許税は、原則として不動産1個につき1,000円です。
ここでいう「不動産1個」は、土地と建物を別々に数えます。
例えば、戸建住宅について土地1筆と建物1棟を所有している場合には、通常、土地と建物の合計2個となり、登録免許税は2,000円です。
敷地が複数の筆に分かれている場合や、マンションの敷地権化されていない土地を共有している場合などには、不動産の個数が増えることがあります。
なお、住居表示の実施や行政区画・町名地番の変更など、所有者の転居によらない住所表示の変更については、証明書を添付することで登録免許税が非課税となる場合があります。
9 申請を怠った場合はどうなるのか
正当な理由なく、期限内に住所・氏名変更登記を申請しなかった場合には、5万円以下の過料が科される可能性があります。
もっとも、期限を一日でも過ぎれば直ちに過料が科されるという仕組みではありません。
法務局が義務違反を把握した場合には、まず登記申請をするよう催告し、催告を受けても正当な理由なく申請しない場合に、裁判所へ通知する運用が想定されています。
また、次のような事情があるときは、「正当な理由」が認められる場合があります。
- 重い病気などにより登記申請が困難である
- DV被害などにより生命・身体に危害が及ぶおそれがある
- 経済的に困窮しており、登記費用を負担する能力がない
- 登記簿上の住所から現在の住所までの経緯を証明する資料の収集に時間を要する
- 所有権の帰属などについて争いがあり、申請できない事情がある
ただし、「忙しかった」「制度を知らなかった」「登記するのを忘れていた」という理由だけで、当然に正当な理由が認められるとは限りません。
法務省の案内では、正当な理由なく義務に違反した場合、5万円以下の過料の対象となることが示されています。法務省「住所等変更登記の義務化特設ページ」
10 登記を放置することによる過料以外のリスク
住所・氏名変更登記を放置することには、過料以外にも次のようなリスクがあります。
- 不動産を売却するときに、先に変更登記が必要になる
- 住宅ローンの借換えや抵当権設定の手続が遅れる
- 相続が発生したときに、相続人による資料収集が難しくなる
- 古い住所から現在の住所までのつながりを証明できなくなる
- 法務局や第三者からの通知が届かない
- 所有者の確認が困難となり、不動産取引に支障が生じる
- 法人の合併、解散、清算などの際に手続が複雑になる
特に、住所変更を長期間放置すると、住民票の除票や戸籍の附票の保存期間が経過し、必要な証明書を取得できなくなることがあります。
将来売却する予定がない不動産であっても、早めに登記簿の記載を確認しておくことをお勧めします。
11 「スマート変更登記」とは
住所・氏名変更登記の義務化に伴い、個人については、法務局が住民基本台帳ネットワークの情報を定期的に照会し、本人の了解を得たうえで、職権で住所等の変更登記を行う仕組みが始まっています。
これが、いわゆる「スマート変更登記」です。
個人がこの仕組みを利用するには、あらかじめ法務局に次のような「検索用情報」を申し出る必要があります。
- 氏名
- 氏名の振り仮名
- 住所
- 生年月日
- メールアドレス
検索用情報の申出を行うと、法務局が住民基本台帳ネットワークを通じて住所等の変更を確認します。変更が確認された場合には、原則として本人に確認したうえで、法務局が職権で変更登記を行います。
自ら変更登記を申請しなくても義務を履行でき、職権登記について登録免許税もかからないというメリットがあります。
検索用情報の申出は、法務局の「かんたん登記申請」などを利用して、オンラインで行うことができます。法務省「スマート変更登記のご利用方法」
12 検索用情報の申出は誰でも必要なのか
2025年(令和7年)4月21日以降、個人が所有権の保存登記や移転登記などを申請する際には、原則として検索用情報も併せて申し出ることになっています。
これより前から不動産を所有している人も、検索用情報だけを申し出ることができます。
ただし、検索用情報を申し出ていないからといって、直ちに過料の対象になるわけではありません。義務となるのは、住所や氏名に変更があった場合の変更登記です。
検索用情報の申出は、将来の住所変更登記等の負担を減らすための制度と位置付けられます。
なお、メールアドレスを持っていない場合なども手続は可能ですが、法務局からの連絡方法が異なることがあります。
13 法人が所有する不動産はどうなるのか
会社や法人が不動産を所有している場合も、本店・主たる事務所の移転や名称変更があれば、住所・名称変更登記の義務化の対象になります。
もっとも、法人については、法務局が商業・法人登記の情報と不動産登記の情報を照合し、変更を確認した場合に職権で不動産の変更登記を行う仕組みがあります。
この仕組みを利用するには、不動産登記に会社法人等番号が記録されていることが必要です。記録されていない場合には、会社法人等番号の申出を検討する必要があります。
注意しなければならないのは、会社の本店移転登記を行えば、不動産登記簿も常に直ちに自動変更されるとは限らないことです。
会社が本店を移転した場合には、次の事項を確認することが重要です。
- 商業・法人登記の本店移転登記が完了しているか
- 所有不動産の登記簿に会社法人等番号が記録されているか
- 不動産登記簿上の本店所在地が現在の所在地と一致しているか
- 法務局による職権登記が行われているか
法務省は、会社法人等番号を利用して、法人の住所・名称変更を職権で不動産登記に反映する仕組みを案内しています。法務省「住所等変更登記の義務化」
14 相続登記の義務化とは別の制度
住所・氏名変更登記の義務化は、2024年(令和6年)4月1日に始まった相続登記の義務化とは別の制度です。
両者の違いは次のとおりです。
| 制度 | 義務が生じる主な場面 | 原則的な期限 | 過料 |
|---|---|---|---|
| 相続登記 | 相続により不動産を取得したことを知った場合 | その日から3年以内 | 10万円以下 |
| 住所・氏名変更登記 | 所有者の住所・氏名等が変わった場合 | 変更日から2年以内 | 5万円以下 |
例えば、親から相続した土地について相続登記をした後、自分が転居した場合には、相続登記だけでなく、その後の住所変更登記も必要になります。
15 よくある質問
Q1 自宅の住所を変更すれば、不動産登記も自動で変わりますか
原則として、住民票の住所を変更しただけでは、不動産登記簿の住所は自動的には変更されません。
もっとも、検索用情報を申し出てスマート変更登記を利用している個人については、法務局による職権登記を受けられる場合があります。
Q2 義務化前に引っ越していますが、登記は必要ですか
必要です。
2026年4月1日より前に住所が変わり、変更登記をしていない場合には、原則として2028年3月31日までに登記する必要があります。
Q3 不動産を売却する予定がなくても必要ですか
必要です。
居住や利用の有無、売却予定の有無にかかわらず、所有権の登記名義人である限り対象になります。
Q4 住所変更登記は自分でもできますか
自分で申請することもできます。
ただし、複数回転居している、必要な住民票の除票が取得できない、氏名と住所の両方が変わっている、共有不動産や多数の不動産があるといった場合には、必要書類や申請内容が複雑になることがあります。
なお、登記申請の代理を業務として行う専門家は司法書士です。弁護士が受任中の事件に付随して登記手続を扱う場合などを除き、通常の登記申請のみを依頼する場合には司法書士への相談が一般的です。
Q5 住宅ローンが残っていても変更登記はできますか
できます。
住宅ローンや抵当権が設定されていても、所有者の住所・氏名変更登記を行うことは可能です。
金融機関にも住所・氏名変更の届出が必要となることがありますので、別途確認しましょう。
Q6 会社の本店移転登記を済ませれば何もしなくてよいですか
必ずしもそうとは限りません。
会社法人等番号が不動産登記に記録され、法務局が変更を確認できる状態になっているかを確認する必要があります。所有不動産の登記事項証明書を取得し、現在の本店所在地と一致しているかを確認するとよいでしょう。
16 今すぐ確認すべきチェックリスト
不動産を所有している個人・法人は、次の事項を確認してみましょう。
- 所有している土地・建物をすべて把握しているか
- 登記事項証明書の住所・氏名等が現在の情報と一致しているか
- 過去に転居した後、変更登記をしているか
- 結婚や離婚などによる氏名変更を登記に反映しているか
- 複数回の住所変更を証明できる書類があるか
- 共有不動産について各共有者の情報が正しいか
- 相続した不動産の相続登記が済んでいるか
- 検索用情報の申出をしているか
- 法人所有の不動産に会社法人等番号が記録されているか
- 2026年4月1日より前の変更について、2028年3月31日の期限を確認したか
所有不動産を正確に把握できていない場合には、2026年2月2日に始まった「所有不動産記録証明制度」の利用も考えられます。
17 まとめ
2026年4月1日から、不動産所有者の住所・氏名等の変更登記が義務化されました。
重要なポイントは、次のとおりです。
- 住所や氏名等の変更日から2年以内に申請する
- 義務化前の変更も対象となる
- 義務化前の変更は、原則として2028年3月31日までに申請する
- 正当な理由なく申請を怠ると、5万円以下の過料の可能性がある
- 個人は検索用情報を申し出ることで、スマート変更登記を利用できる
- 法人は不動産登記への会社法人等番号の記録状況を確認する
- 相続登記の義務化とは別の制度である
長期間変更登記をしていない場合、古い住所から現在の住所までのつながりを証明する資料の収集が難しくなることがあります。
「いつか売却するときに対応すればよい」と考えず、まずは所有不動産の登記事項証明書を取得し、住所・氏名等が現在の情報と一致しているか確認することが大切です。
不動産・相続・法人に関するご相談は当事務所へ
弁護士法人結の杜総合法律事務所では、仙台・宮城を中心に、不動産、相続、会社法務に関するご相談をお受けしています。
住所・氏名変更登記そのものに加え、次のような問題がある場合には、法的関係を含めた総合的な検討が必要です。
- 相続した不動産の名義が先代のままになっている
- 所有者や相続人の所在が分からない
- 共有者の一部と連絡が取れない
- 不動産の所有権や共有持分に争いがある
- 売却や担保設定の前提として登記を整理したい
- 会社の本店移転、組織再編、解散に伴い不動産の整理が必要になった
- 不動産の処分に相続税、譲渡所得税その他の税務問題が関係する
当事務所には税理士事務所が併設されているため、相続不動産や法人所有不動産について、必要に応じて法務と税務の両面から検討することが可能です。
また、仙台の本店に加えて東京支店を設けており、宮城県内の不動産だけでなく、東京・首都圏にある不動産や、複数地域にまたがる相続・法人案件にも対応しています。
登記申請について司法書士による手続が必要な場合には、事案に応じて司法書士と連携しながら対応します。登記簿の住所や名義に問題がある場合には、期限直前まで放置せず、早めにご相談ください。
宮城県仙台市に拠点を置く弁護士法人結の杜総合法律事務所は、2012年の開設以来、地域の皆様の法的ニーズに応えてまいりました。代表の髙橋和聖は、地元宮城で生まれ育ち、弁護士・税理士としての資格を持ち、法律と税務の両面からサポートを提供しています。当事務所は、青葉区五橋に本店、泉区泉中央に支店を構え、2022年10月には東京支店も開設しました。これからも、仙台・宮城の皆様に寄り添い、親しみやすい法律事務所として、質の高いサービスを提供してまいります。
コラム「2026年10月からカスハラ対策が義務化―企業が今すぐ準備すべきことを弁護士が解説」
1 はじめに
2026年(令和8年)10月1日から、改正労働施策総合推進法により、すべての事業主にカスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」を防止するための措置が義務付けられます。
これまでも、従業員の安全や健康に配慮する観点から、企業にはカスハラへの適切な対応が求められていました。今回の改正により、企業の方針の明確化、相談窓口の設置、被害発生後の対応、悪質な顧客への対処などが、法律上の義務として明確に求められることになります。
対象となるのは、飲食店や小売店などの接客業だけではありません。医療機関、介護・福祉施設、学校、不動産会社、建設会社、運送会社、コールセンター、士業、自治体関連業務など、顧客、取引先、施設利用者等と接点のある、ほぼすべての業種に関係します。
しかも、中小企業や個人事業主であっても、労働者を一人でも雇用していれば対象となります。
本稿では、どのような言動がカスハラに当たるのか、正当なクレームとどう区別するのか、企業が2026年10月1日までに何を準備すべきかについて解説します。
2 カスタマーハラスメントとは
改正法におけるカスタマーハラスメントとは、次の3つの要件をすべて満たすものをいいます。
- 顧客等による言動であること
- その言動が、業務の性質その他の事情に照らして、社会通念上許容される範囲を超えていること
- その言動によって労働者の就業環境が害されること
電話、メール、口コミサイトへの投稿、SNS上の言動、オンライン会議なども対象になります。厚生労働省「令和8年10月1日からハラスメント対策が強化されます」
(1)「顧客等」の範囲
「顧客等」には、商品を購入した顧客だけでなく、次のような者も含まれます。
- 取引先や取引の相手方
- 病院、学校、介護施設、公共施設などの利用者
- 商品やサービスを利用しようとする者
- 問い合わせや見積りをした者
- 今後、商品を購入し、またはサービスを利用する可能性がある者
- 事業に関係するその他の利害関係者
したがって、契約締結前の問い合わせや、取引先担当者からの言動であっても、カスハラに該当する可能性があります。
(2)「就業環境が害される」とは
単に従業員が不快に感じたというだけで、直ちにカスハラになるわけではありません。
言動によって従業員が強い恐怖や苦痛を感じ、業務に集中できない、出勤できない、心身に不調を来すなど、その能力を十分に発揮できない程度の支障が生じたかが問題となります。
もっとも、暴行、脅迫、人格を否定するような暴言など、言動の内容が重大な場合には、一度の言動でもカスハラに該当し得ます。
3 どのような言動がカスハラに当たるのか
カスハラに該当し得る言動には、大きく分けて「要求の内容が不当な場合」と「要求を伝える方法・態様が不当な場合」があります。
(1)要求内容が不当なケース
例えば、次のような要求です。
- 商品やサービスに問題がないのに金銭を要求する
- 商品やサービスと全く関係のない要求をする
- 契約内容を著しく超えるサービスを要求する
- 対応することが不可能、または著しく困難な要求を繰り返す
- 根拠のない返金や損害賠償を要求する
- 従業員の解雇や異動を執拗に要求する
- 正当な理由なく特別扱いや優先対応を求める
- 土下座や謝罪文の提出を要求する
(2)言動の手段・態様が不当なケース
要求自体に一定の理由があっても、その伝え方が社会通念上許容される範囲を超えていれば、カスハラに該当する可能性があります。
例えば、次のような言動です。
- 暴行、物を投げる、胸ぐらをつかむ
- 「殺す」「店を潰す」などと脅迫する
- 大声で怒鳴る、机をたたく
- 人格を否定するような暴言や侮辱を繰り返す
- 性別、年齢、出身地、障害などに関する差別的発言をする
- 長時間にわたって電話や対面で従業員を拘束する
- 何度断っても同じ要求を繰り返す
- 店舗や事務所から退去しない
- 従業員の氏名、顔写真、音声などをSNSで公開する
- 「ネットでさらす」「悪い口コミを書き続ける」と脅す
- 従業員個人への連絡や面会を要求する
- 従業員を無断で撮影・録音し、インターネット上で公開する
- 従業員につきまとう、自宅や家族を調べる
4 正当なクレームとの違い
顧客からの苦情や要望のすべてがカスハラになるわけではありません。
商品に不具合があった、説明内容が事実と異なっていた、従業員の接客態度に問題があったなどの場合、顧客が説明、修理、交換、返金などを求めることには正当な理由があります。
企業には、顧客の意見を適切に受け止め、商品やサービスの改善につなげる姿勢も必要です。
カスハラか正当なクレームかを判断する際には、主に次の点を検討します。
- 顧客の要求に根拠があるか
- 商品やサービスの問題と要求内容が釣り合っているか
- 企業がすでに合理的な対応を提示しているか
- 暴言、脅迫、侮辱、差別的発言がないか
- 対応時間や連絡回数が著しく過剰ではないか
- 従業員個人への攻撃になっていないか
- 顧客の言動によって従業員の就業環境が害されているか
カスハラ対策を口実として、正当な苦情まで一律に排除することは適切ではありません。
また、障害のある顧客への対応では、障害者差別解消法に基づく合理的配慮の提供義務にも留意する必要があります。
5 企業に義務付けられる10の措置
2026年10月1日以降、企業には、次のような措置を講じることが義務付けられます。
(1)カスハラに対する会社の方針を明確にする
会社として、カスハラには毅然と対応し、従業員を守るという方針を明確にします。
方針は、就業規則、カスハラ対応規程、社内通知、研修資料などに記載し、従業員に周知する必要があります。
経営者が方針を決めているだけでは足りず、従業員が内容を理解していることが重要です。
(2)カスハラの内容と対応方法を従業員に周知する
どのような言動がカスハラに当たるのかを具体的に示し、発生した場合の対応方法もあらかじめ決めておきます。
例えば、次のようなルールです。
- 一人で対応せず、上司や責任者に引き継ぐ
- 電話対応を打ち切る条件を定める
- 面談は複数名で対応する
- 来訪者を別室に案内する場合のルールを定める
- 暴力や脅迫があれば警察へ通報する
- 本社や経営者へ報告する
- 弁護士に対応を引き継ぐ
(3)相談窓口を設置する
従業員が被害を受けた場合に相談できる窓口をあらかじめ設け、その存在を周知します。
相談窓口は、社内の人事・総務担当者だけでなく、外部の弁護士などに委託することも考えられます。
(4)相談担当者が適切に対応できるようにする
相談窓口を形式的に設けるだけでは十分ではありません。
相談担当者に対し、相談の聴き取り方、緊急性の判断、プライバシーへの配慮、社内での報告方法などを教育しておく必要があります。
(5)事実関係を迅速かつ正確に確認する
カスハラの申告があった場合には、従業員、顧客、同席者などから事情を聴き、録音、メール、防犯カメラ、SNSの投稿などの客観的資料を確認します。
顧客の言動だけでなく、商品やサービスに問題がなかったか、従業員側の対応に改善すべき点がなかったかも確認します。
(6)被害を受けた従業員に配慮する
被害を受けた従業員については、状況に応じて次のような措置を検討します。
- 顧客対応から外す
- 対応担当者を交代する
- 一時的に休ませる
- 医師や産業医等への相談を案内する
- 勤務場所や勤務時間を調整する
- メンタルヘルス相談につなげる
- 顧客から従業員への直接連絡を遮断する
被害を訴えた従業員に、その後も一人で対応させ続けることは避けるべきです。
(7)再発防止措置を講じる
事実確認の結果、カスハラが認められた場合には、同様の被害が起きないよう、事例の共有、マニュアルの改訂、従業員研修、顧客対応記録の整備などを行います。
カスハラに該当するか明確に判断できなかった場合でも、再発防止の観点から必要な対策を検討することが重要です。
(8)悪質なカスハラへの対処方針と体制を整備する
特に悪質なカスハラについて、どの段階で通常対応を終了し、誰が判断し、どのような措置を取るかを決めておきます。
具体的には、次のような対応が考えられます。
- 電話、面談、メール対応を終了する
- 今後の連絡方法を書面に限定する
- 警告書を送付する
- 店舗や施設への立入りを断る
- 商品販売やサービス提供を拒否する
- 弁護士を窓口とする
- 警察へ相談・通報する
- 仮処分や損害賠償請求などの法的手続きを検討する
ただし、契約関係や業種によっては、直ちにサービス提供を拒否できない場合もあります。対応拒否や契約解除を行うときは、法的根拠や手続を慎重に検討する必要があります。
(9)相談者等のプライバシーを保護する
相談した従業員、行為者、目撃者などの個人情報は、事実確認や対応に必要な範囲で取り扱い、社内で不必要に共有しないようにします。
プライバシーを保護するためのルールを定め、従業員に周知することも必要です。
(10)相談したことを理由とする不利益な取扱いを禁止する
従業員がカスハラ被害を相談したことや、事実確認に協力したことを理由として、解雇、雇止め、降格、不利益な配置転換などを行ってはなりません。
会社として、不利益な取扱いをしないことを明確に定め、従業員に周知する必要があります。
6 企業はどこまで顧客対応を拒否できるのか
カスハラが発生した場合でも、企業が直ちにすべての対応を拒否できるとは限りません。
一方で、従業員が暴言や脅迫を受け続けているにもかかわらず、「お客様だから」という理由で対応を続けさせることも適切ではありません。
対応を終了または制限できるかは、次の事情を総合的に検討して判断します。
- 顧客の要求に正当な理由があるか
- 会社が必要な説明や代替案を提示したか
- 暴言、脅迫、侮辱などの有無・程度
- 対応の時間や回数
- 過去にも同様の言動があったか
- 従業員や他の利用者への危険性
- 契約上、継続してサービスを提供する義務があるか
- 医療、介護、公共交通など、サービスの性質
- 警告後も問題行為が続いているか
いきなり対応を拒否するのではなく、原則として、注意、警告、対応方法の限定、責任者への引継ぎ、弁護士対応など、段階的な対応を定めておくとよいでしょう。
ただし、暴行、傷害、脅迫、不退去、器物損壊など、犯罪に当たり得る行為がある場合には、安全確保を優先し、直ちに警察へ通報することも必要です。
7 録音や防犯カメラによる記録はできるのか
カスハラへの対応では、客観的な証拠を確保することが重要です。
電話の録音、メールやSNS投稿の保存、防犯カメラ映像、対応記録、目撃者のメモなどは、事実確認や警察・弁護士への相談に役立ちます。
もっとも、録音データや映像には個人情報が含まれるため、次の点に注意が必要です。
- 利用目的を定める
- 社内で閲覧できる者を限定する
- 安全に保管する
- 保存期間を定める
- 目的外利用や不必要な共有を避ける
- ウェブサイトや店頭表示などによる周知を検討する
現場の従業員が個人のスマートフォンで録音・撮影し、そのデータを私的に保管する運用は、情報管理上の問題が生じやすいため、会社が使用機器や保存方法を定めることが望ましいでしょう。
8 会社が対策をしなかった場合のリスク
会社が必要なカスハラ対策を講じなかった場合、行政から助言、指導、勧告等を受ける可能性があります。
また、カスハラ被害を把握しながら従業員を保護せず、被害を拡大させた場合には、安全配慮義務違反などを理由として、従業員から損害賠償を請求される可能性もあります。
そのほか、次のようなリスクが考えられます。
- 従業員の休職・退職
- 採用難や人材の定着率低下
- 職場の士気や生産性の低下
- 労災申請
- 企業の評判や信用の低下
- 対応の属人化によるトラブル拡大
- 顧客との紛争や訴訟
特に、現場担当者に判断を任せ、管理職や経営者が対応しない状態は避けなければなりません。
9 2026年10月1日までの企業向けチェックリスト
企業は、施行日までに少なくとも次の事項を確認しておく必要があります。
- カスハラに対する会社の基本方針を作成したか
- カスハラの定義と具体例を整理したか
- 正当なクレームとの判断基準を定めたか
- 対応マニュアルを作成したか
- 現場から管理職へ引き継ぐ基準を定めたか
- 電話や面談を終了する基準を定めたか
- 悪質な顧客への警告・対応拒否の手順を定めたか
- 警察や弁護士へ相談する基準を定めたか
- 従業員の相談窓口を設置したか
- 相談担当者への研修を行ったか
- 被害を受けた従業員を保護する方法を定めたか
- 相談者のプライバシー保護を定めたか
- 相談を理由とする不利益取扱いを禁止したか
- 録音・防犯カメラ・対応記録の管理方法を定めたか
- 就業規則や社内規程との整合性を確認したか
- 経営者、管理職、現場従業員への研修を実施したか
厚生労働省は、改正法、指針、パンフレットなどを公表していますが、実際の対応内容は、業種、顧客との契約関係、従業員数、店舗・事業所の体制などに応じて具体化する必要があります。厚生労働省「令和7年労働施策総合推進法等の一部改正について」
10 よくある質問
Q1 小規模な会社や個人事業主も対象になりますか
はい。企業規模や業種を問わず、労働者を雇用するすべての事業主が対象となります。
正社員だけでなく、パート、アルバイト、契約社員などを一人でも雇用していれば、対応が必要です。
Q2 相談窓口は社内に設置しなければなりませんか
必ずしも社内だけに設置する必要はありません。
企業の規模によっては、社内に独立した相談担当者を置くことが難しい場合もあります。外部の弁護士などを相談窓口とする方法も考えられます。
Q3 顧客との会話を無断で録音できますか
当事者として会話を録音することが直ちに違法になるわけではありません。ただし、録音データには個人情報や機密情報が含まれる可能性があるため、録音の目的、管理方法、閲覧権限、保存期間などをあらかじめ定めておくことが重要です。
Q4 「SNSに書く」と言われたらカスハラになりますか
単に顧客が意見や事実をSNSに投稿すると述べただけで、直ちにカスハラになるわけではありません。
もっとも、「要求を受け入れなければ虚偽の投稿をする」「従業員の氏名や写真をさらす」などと告げ、企業や従業員を威迫する場合には、カスハラに該当する可能性があります。
Q5 カスハラをした顧客との契約を解除できますか
契約条項、問題行為の内容・回数、事前の警告、サービスの性質などによって異なります。
契約解除や利用停止を行ったことが、逆に債務不履行などとして争われる場合もあるため、重大な対応を取る前に法的な検討を行うことをお勧めします。
11 まとめ
2026年10月1日から、すべての事業主にカスタマーハラスメント防止措置が義務付けられます。
企業には、単に「カスハラは禁止です」と掲示するだけでなく、次のような実効性のある体制整備が求められます。
- 会社の基本方針を明確にする
- カスハラの判断基準を定める
- 相談窓口を設ける
- 現場の対応手順を定める
- 被害を受けた従業員を保護する
- 悪質な顧客への警告・対応拒否の基準を定める
- 録音や対応記録を適切に管理する
- 管理職や従業員への研修を行う
カスハラは、発生してから対応を考えると、従業員の安全確保と顧客対応の判断が難しくなります。問題が起きる前に、誰が、どの段階で、どのように対応するのかを決めておくことが重要です。
カスハラ対応規程・マニュアルの作成は当事務所にご相談ください
弁護士法人結の杜総合法律事務所では、仙台・宮城の企業を中心に、次のようなカスタマーハラスメント対策のご相談をお受けしています。
- カスハラ対応方針・社内規程の作成
- 業種に応じた対応マニュアルの作成
- 相談窓口や社内報告体制の整備
- 従業員・管理職向け研修
- 警告書や回答書の作成
- 悪質な顧客との交渉窓口
- 警察への相談や法的手続き
- 顧問契約による継続的な企業法務対応
当事務所は、仙台の本店に加えて東京支店を設けており、宮城県内の企業はもちろん、東京に拠点を置く企業や、宮城・首都圏の双方に事業所を展開する企業からのご相談にも対応しています。
また、税理士事務所を併設しているため、カスハラ対策に伴う人員配置、社内制度、各種手当などの見直しが必要となる場合には、必要に応じて法務と税務の両面を踏まえた総合的な検討が可能です。
「どこまでが正当なクレームなのか判断できない」「顧客対応を断ってよいか分からない」「施行日までに規程やマニュアルを整備したい」といった場合には、問題が深刻化する前に、お早めにご相談ください。
▶ コラム「カスタマーハラスメントとは?企業・事業主が取るべき具体的な対応策と予防法を徹底解説」
▶ 労働問題について詳しくはこちら
▶ 顧問弁護士サービスはこちら
宮城県仙台市に拠点を置く弁護士法人結の杜総合法律事務所は、2012年の開設以来、地域の皆様の法的ニーズに応えてまいりました。代表の髙橋和聖は、地元宮城で生まれ育ち、弁護士・税理士としての資格を持ち、法律と税務の両面からサポートを提供しています。当事務所は、青葉区五橋に本店、泉区泉中央に支店を構え、2022年10月には東京支店も開設しました。これからも、仙台・宮城の皆様に寄り添い、親しみやすい法律事務所として、質の高いサービスを提供してまいります。
コラム「2026年10月からパート・契約社員のルールが変わります―企業が見直すべき労働条件通知書と待遇差」
1 はじめに
2026年(令和8年)10月1日から、パートタイム・有期雇用労働者の待遇に関するルールが改正されます。
今回の改正では、主に次の3点が変更されます。
- 労働条件通知書の明示事項の追加
- 「同一労働同一賃金ガイドライン」の改正
- 企業に求められる雇用管理上の措置の見直し
パート従業員や契約社員を雇用している企業は、労働条件通知書のひな形を変更するだけでなく、正社員との間に設けている賞与、退職金、各種手当、休暇、福利厚生などの違いについても、あらためて点検する必要があります。
本稿では、2026年10月から何が変わり、企業がどのような準備を進めるべきかを解説します。
2 「同一労働同一賃金」とは
「同一労働同一賃金」とは、同じ企業で働く正社員と、パートタイム・有期雇用労働者との間に、不合理な待遇差を設けることを禁止する考え方です。
ここでいう待遇には、基本給だけでなく、次のようなものも含まれます。
- 賞与
- 退職手当
- 役職手当
- 通勤手当
- 家族手当
- 住宅手当
- 食事手当
- 休暇
- 休職制度
- 福利厚生施設の利用
- 教育訓練
もっとも、「正社員とパート・契約社員の待遇をすべて同一にしなければならない」という意味ではありません。
職務の内容や責任の程度、人事異動・配置転換の範囲などに違いがあれば、その違いに応じた待遇差が認められる場合があります。
重要なのは、単に「正社員ではないから」「契約期間が決まっているから」という理由だけで待遇を低くするのではなく、個々の待遇の性質や目的に照らし、その違いを合理的に説明できるかという点です。
3 改正点① 労働条件通知書の明示事項が追加される
(1)新たに明示が必要となる内容
現在、企業がパートタイム・有期雇用労働者を雇い入れる際には、一般的な労働条件に加えて、次の事項を明示しなければなりません。
- 昇給の有無
- 賞与の有無
- 退職手当の有無
- 雇用管理の改善等に関する相談窓口
2026年10月1日からは、これに加えて、
正社員との待遇の相違の内容・理由等について、会社に説明を求めることができる旨
を明示しなければならなくなります。
この明示義務は、新たに雇い入れる場合だけでなく、労働契約を更新する場合にも適用されます。
(2)記載例
労働条件通知書には、例えば次のような記載を設けることが考えられます。
正社員との間の待遇の相違の内容および理由、待遇の決定に当たって考慮した事項について、下記の窓口に説明を求めることができます。
相談窓口:総務部人事課 担当〇〇
電話番号:〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇
厚生労働省も改正に対応したモデル労働条件通知書を公表しています。厚生労働省「同一労働同一賃金特集ページ」
(3)違反した場合
この明示義務に違反した場合、10万円以下の過料に処される可能性があります。
したがって、企業は2026年10月1日までに、パート従業員・契約社員向けの労働条件通知書や雇用契約書のひな形を見直しておく必要があります。
4 改正点② 賞与・退職金・各種手当などの考え方が明確になる
今回の改正では、これまでの裁判例などを踏まえ、「同一労働同一賃金ガイドライン」の内容も見直されます。
特に注意が必要なのは、次のような待遇です。
(1)賞与・退職手当
賞与や退職手当には、賃金の後払い、功労報償、長期勤務への動機付けなど、さまざまな目的があります。
その目的がパートタイム・有期雇用労働者にも当てはまるにもかかわらず、正社員との職務内容などの違いに応じた支給を一切行わない場合、不合理な待遇差と判断される可能性があります。
「パートだから賞与は一律ゼロ」「契約社員だから退職金は一切支給しない」という制度については、その理由を説明できるか検討する必要があります。
(2)無事故手当
無事故手当が、安全な運行や事故防止を目的とするものであり、正社員とパート・有期雇用労働者が同じ内容の業務を担当している場合には、同一の手当を支給する必要があるとされています。
雇用形態だけを理由に支給対象から除外することは問題となり得ます。
(3)家族手当
労働契約の更新を繰り返しているなど、相応に継続的な勤務が見込まれるパートタイム・有期雇用労働者については、正社員と同一の家族手当を支給しなければならない場合があります。
「有期契約だから長期雇用を予定していない」という形式的な説明だけでは、十分でないことがあります。
(4)住宅手当
住宅手当が「転居を伴う配置変更の有無」に応じて支給されている場合、正社員と同様に転居を伴う配置変更が予定されているパート・有期雇用労働者には、同一の住宅手当を支給する必要があります。
反対に、正社員にだけ全国転勤が予定され、パート従業員には勤務地の変更がない場合には、その違いが待遇差の合理的な理由になり得ます。
(5)夏季・冬季休暇
正社員に夏季休暇や冬季休暇を与えている場合、パートタイム・有期雇用労働者にも同一の休暇を付与することが求められます。
所定労働日数や契約期間などに違いがある場合は、その違いに応じた取扱いが許される可能性がありますが、雇用形態だけを理由として一律に対象外とすることには注意が必要です。
(6)病気休職中の賃金保障
正社員に病気休職中の賃金保障を行っている場合、契約更新を繰り返し、相応に継続的な勤務が見込まれる有期雇用労働者にも、同様の保障が必要となる場合があります。
(7)福利厚生施設
社員食堂、休憩室、更衣室などの施設だけでなく、施設の利用料金や割引率などについても、不合理な待遇差を設けることはできません。
5 「正社員の人材確保のため」という説明だけでは足りない
企業からは、
正社員には長く働いてもらう必要があるため、パートや契約社員より待遇を手厚くしている
という説明がされることがあります。
しかし、今回の改正では、「正社員の人材を確保・定着させるため」という目的だけで、直ちに待遇差が合理的になるわけではないことが明確にされています。
例えば、通勤費、無事故手当、食事手当、休暇などは、その待遇の具体的な目的に照らして判断されます。
「正社員用の制度だから」というだけではなく、次の点を具体的に説明できるようにしておく必要があります。
- その手当や制度は何を目的としているのか
- 正社員とパート・契約社員で職務や責任がどのように違うのか
- 配置転換や転勤の範囲にどのような違いがあるのか
- その違いが待遇差にどのように反映されているのか
6 定年後再雇用者の待遇差にも注意が必要
定年後に有期契約で再雇用された労働者についても、「定年後の再雇用者だから」という理由だけで待遇差が当然に許されるわけではありません。
待遇差が不合理かどうかは、基本給、賞与、各種手当など、それぞれの性質や目的に照らして個別に判断されます。
定年前と同じ仕事を担当し、責任の程度もほとんど変わらないにもかかわらず、賃金や手当が大幅に減額されている場合には、トラブルになる可能性があります。
7 改正点③ 会社は具体的な資料を用いて説明する必要がある
パートタイム・有期雇用労働者は、正社員との待遇差の内容や理由について、会社に説明を求めることができます。
今回の改正後、会社が説明する場合には、原則として次のいずれかの方法によることが求められます。
- 資料を示したうえで、口頭で説明する
- 説明すべき事項をすべて記載した、分かりやすい資料を交付する
「会社の規程で決まっている」「正社員と契約社員では雇用区分が違う」といった抽象的な回答だけでは、十分な説明とはいえません。
企業としては、賃金表、職務記述書、人事評価基準、手当の支給基準などを整理し、待遇差の根拠を具体的に説明できる状態にしておく必要があります。
なお、労働者が待遇差について説明を求めたことを理由として、解雇、雇止め、降格などの不利益な取扱いをすることは禁止されています。
8 企業が2026年10月までに準備すべきこと
パート従業員や契約社員を雇用している企業は、少なくとも次の事項を確認しておくことをお勧めします。
チェックリスト
- パート・有期雇用労働者向けの労働条件通知書を改定する
- 契約更新時にも改定後の書式を使用する
- 待遇差に関する説明窓口を決める
- 正社員とパート・契約社員の待遇を一覧にする
- 基本給、賞与、退職金の決定基準を確認する
- 家族手当、住宅手当、通勤手当などの支給基準を確認する
- 夏季休暇、病気休職、福利厚生の利用条件を確認する
- 職務内容、責任、転勤・配置転換の範囲を整理する
- 待遇差について説明するための資料を作成する
- 就業規則、賃金規程、雇用契約書の内容を整合させる
- 管理職や人事担当者に改正内容を周知する
待遇差を解消するために正社員の待遇を引き下げる場合には、労働条件の不利益変更という別の問題が生じます。単に正社員の手当を廃止すればよいわけではないため、慎重な検討が必要です。
9 労働者が確認すべきポイント
パートタイム・有期雇用労働者の方は、正社員との間に待遇差があるからといって、直ちに違法になるわけではないことに注意が必要です。
まずは、次の点を確認しましょう。
- 正社員と実際に同じ仕事をしているか
- 業務上の責任の重さは同じか
- 転勤や配置転換の範囲は同じか
- 問題となっている手当や制度の目的は何か
- 会社から待遇差について具体的な説明を受けたか
会社の説明に納得できない場合や、待遇差に合理的な理由がないと思われる場合には、資料を整理したうえで弁護士などに相談することが考えられます。
10 よくある質問
Q1 パート従業員の賃金を正社員と同じにしなければなりませんか
必ずしも、すべて同じにする必要はありません。
職務内容、責任の程度、配置変更の範囲などに違いがあれば、その違いに応じた待遇差が認められる場合があります。ただし、それぞれの待遇について、差を設ける理由を合理的に説明できなければなりません。
Q2 既存のパート従業員にも新しい労働条件通知書を渡す必要がありますか
2026年10月1日以降に新たに雇い入れる場合だけでなく、労働契約を更新する場合にも、新しい明示ルールが適用されます。
既存の従業員についても、次回の契約更新までに書式を改定しておく必要があります。
Q3 賞与をパート従業員に支給していない場合、直ちに違法になりますか
直ちに違法になるわけではありません。
ただし、賞与の目的や正社員との職務内容等の違いを検討し、その目的がパート従業員にも当てはまる場合には、職務内容等の違いに応じた支給を検討する必要があります。
Q4 労働条件通知書だけ変更すれば対応は終わりますか
通知書の変更だけでは十分ではありません。
実際の待遇差が不合理でないかを確認し、労働者から説明を求められた際に、客観的な資料を用いて説明できる体制を整える必要があります。
11 まとめ
2026年10月1日から、パートタイム・有期雇用労働者を雇い入れ、または労働契約を更新する際には、正社員との待遇差について説明を求めることができる旨を、新たに明示しなければなりません。
また、賞与、退職手当、家族手当、住宅手当、休暇、福利厚生などについても、正社員との違いに合理的な理由があるかを点検する必要があります。
対応を後回しにすると、改正後に労働条件通知書の不備を指摘されたり、従業員から待遇差の説明や是正を求められたりする可能性があります。
パート従業員や契約社員を雇用している企業は、施行前に、労働条件通知書、雇用契約書、就業規則、賃金規程などを一体的に見直すことが重要です。
労働条件通知書・賃金制度の見直しは当事務所にご相談ください
弁護士法人結の杜総合法律事務所では、仙台・宮城の企業を中心に、労働条件通知書や雇用契約書の改定、就業規則・賃金規程の見直し、同一労働同一賃金への対応など、企業の労務問題に関するご相談をお受けしています。
同一労働同一賃金への対応では、法律上の問題だけでなく、賞与、退職金、各種手当などを含む賃金制度全体への影響を検討することが重要です。当事務所には税理士事務所が併設されているため、必要に応じて、法務と税務の双方を踏まえた総合的な対応をご提案することができます。
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宮城県仙台市に拠点を置く弁護士法人結の杜総合法律事務所は、2012年の開設以来、地域の皆様の法的ニーズに応えてまいりました。代表の髙橋和聖は、地元宮城で生まれ育ち、弁護士・税理士としての資格を持ち、法律と税務の両面からサポートを提供しています。当事務所は、青葉区五橋に本店、泉区泉中央に支店を構え、2022年10月には東京支店も開設しました。これからも、仙台・宮城の皆様に寄り添い、親しみやすい法律事務所として、質の高いサービスを提供してまいります。
コラム「【保存版】AI時代だからこそ顧問弁護士が企業に必要な理由とは?生成AIでは代替できない弁護士の役割を解説(第5回・最終回)」
はじめに
ここまで4回にわたり、生成AIを活用した契約書作成や、そのメリット・リスク、企業が整備すべきAI利用ルールについて解説してきました。
AIは、契約書の作成や文章の要約、情報整理など、多くの業務を効率化できる非常に優れたツールです。
その一方で、
「AIがここまで進化したのだから、顧問弁護士は必要なくなるのではないか。」
と考える方もいらっしゃるかもしれません。
しかし、私たちが日々企業からご相談を受ける中で感じるのは、AIが普及した現在だからこそ、弁護士に求められる役割はむしろ大きくなっているということです。
本コラムでは、AIにはできないこと、そしてAI時代における顧問弁護士の役割について解説します。
AIは「答え」を示せても、「経営判断」はできない
生成AIは、大量の情報をもとに回答を作成できます。
例えば、
- 契約書のひな型を作る
- 法律の概要を説明する
- メール文を作成する
- 会議の議事録を要約する
といった作業は非常に得意です。
しかし、企業経営では、
- この契約を締結すべきか
- 相手方の要求を受け入れるべきか
- どこまで譲歩できるか
- 今回は裁判より交渉を優先すべきか
といった「経営判断」が日々求められます。
これらは、法律だけでは答えが出ません。
会社の規模、資金繰り、取引先との関係、将来の事業戦略など、多くの事情を総合的に考慮して判断する必要があります。
このような判断は、現在のAIでは代替できません。
顧問弁護士は「問題が起きてから相談する相手」ではない
「弁護士はトラブルになってから相談するもの」と思われがちです。
しかし、企業法務において最も重要なのは、トラブルが起こる前にリスクを減らすことです。
例えば、
- 契約締結前の確認
- 新しいサービスの法的チェック
- 社内規程の整備
- 労務トラブルの予防
- クレーム対応のアドバイス
など、日常的な相談を通じて、紛争そのものを防ぐことができます。
これは「予防法務」と呼ばれ、企業経営において非常に重要な役割を果たします。
AIが普及すると、法的リスクも増える
AIは便利ですが、利用が広がるほど、新しいリスクも生まれます。
例えば、
- 社員が顧客情報をAIへ入力した
- AIが誤った内容を顧客へ回答した
- AIで作成した広告が他社の権利を侵害した
- AIが作成した契約書をそのまま利用してトラブルになった
これらは、今後ますます増えていくことが予想されます。
つまり、AIを導入する企業ほど、法的なリスク管理が重要になるのです。
AIと顧問弁護士は「競争相手」ではなく「最良のパートナー」
「AIか、弁護士か」という二者択一ではありません。
実際には、それぞれ得意分野が異なります。
| AIが得意なこと | 顧問弁護士が得意なこと |
|---|---|
| 契約書のたたき台作成 | 自社に合わせた契約内容への修正 |
| 法律情報の整理 | 最新の法令・裁判例を踏まえた助言 |
| 文書の要約 | 紛争を見据えたリスク分析 |
| 定型業務の効率化 | 交渉・紛争対応・経営判断のサポート |
| アイデア出し | 会社の実情に応じた最適な解決策の提案 |
AIが得意な業務はAIに任せ、人でなければできない判断を弁護士が担う。
この役割分担こそが、AI時代の企業法務の理想的な姿です。
顧問弁護士がいる企業のメリット
顧問契約というと、「大企業だけのもの」と考えられることがあります。
しかし、近年では中小企業やスタートアップでも、継続的に法務相談ができる体制を整える企業が増えています。
顧問弁護士がいることで、
- 小さな疑問を早めに相談できる
- トラブルが大きくなる前に対応できる
- 契約書を安心して締結できる
- 労務や取引先対応について継続的な助言を受けられる
- 経営判断の法的な裏付けを得られる
といったメリットがあります。
「問題が起きたら相談する」のではなく、「問題を起こさないために相談する」という考え方が重要です。
AI時代だからこそ求められる「相談しやすい顧問弁護士」
AIは、気軽に質問できる便利なツールです。
だからこそ、顧問弁護士にも「相談しやすさ」がより求められる時代になっています。
「こんなことを聞いてもよいのだろうか。」
「まだトラブルではないけれど相談したい。」
そのような段階で相談できることが、結果として大きなトラブルの予防につながります。
顧問弁護士は、法律だけでなく、企業の事業内容や経営方針を理解したうえで、継続的なパートナーとして助言を行います。
結の杜総合法律事務所が目指す企業法務
結の杜総合法律事務所では、契約書の作成・レビューや労務問題への対応はもちろん、AI時代に対応した企業法務にも力を入れています。
生成AIの活用が進む中で、
- AIを利用した契約書のレビュー
- AI利用ガイドラインの整備
- 情報管理体制の構築
- 新しいサービスの法的チェック
- 日常的な企業法務相談
など、企業の実情に応じたサポートを行っています。
また、代表弁護士は税理士資格を有し、税理士事務所を併設しているため、契約内容だけでなく、税務や事業全体を見据えた総合的なアドバイスが可能です。
法律だけでなく、経営全体を見据えた支援を行えることが、当事務所の強みの一つです。
まとめ
生成AIは、企業活動を大きく変える可能性を持つ非常に優れたツールです。
しかし、AIはあくまで「業務を支援するツール」であり、企業ごとの事情を踏まえた経営判断や、紛争を予防するための法的判断まで代替することはできません。
AIを上手に活用しながら、重要な契約や経営判断については顧問弁護士と連携することが、これからの企業経営においてますます重要になるでしょう。
シリーズをお読みいただいた皆さまへ
本シリーズでは、AIと契約書、AI利用ルール、企業法務について5回にわたり解説してきました。
AIは、企業にとって非常に有用なツールですが、その力を最大限に活かすためには、法的リスクを正しく理解し、適切に管理することが欠かせません。
結の杜総合法律事務所では、AIを積極的に活用する企業を、法務・税務の両面から支援しています。
「AIを安心して業務に取り入れたい」「契約書や社内ルールを見直したい」「日常的に相談できる顧問弁護士を探している」という企業の皆さまは、ぜひお気軽にご相談ください。
AI時代だからこそ、人にしかできない判断と経験を活かし、企業の持続的な成長をサポートいたします。
【全シリーズ】
コラム「【保存版】AIで作成した契約書はそのまま使って大丈夫?弁護士が徹底解説|企業が知るべきリスク・チェックポイント・安全な活用方法(第1回)」
コラム「【保存版】AIで作成した契約書に潜む落とし穴とは?実際に起こり得るトラブル事例と企業が整備すべきAI利用ルール(第2回)」
コラム「【保存版】AIが作成した契約書を弁護士はどこまでチェックする?企業を守る「契約書レビュー」のポイントを解説(第3回)」
コラム「【保存版】中小企業もAI利用ルールは必要?ChatGPT時代に企業が整備しておきたいAI利用規程とは(第4回)」
宮城県仙台市に拠点を置く弁護士法人結の杜総合法律事務所は、2012年の開設以来、地域の皆様の法的ニーズに応えてまいりました。代表の髙橋和聖は、地元宮城で生まれ育ち、弁護士・税理士としての資格を持ち、法律と税務の両面からサポートを提供しています。当事務所は、青葉区五橋に本店、泉区泉中央に支店を構え、2022年10月には東京支店も開設しました。これからも、仙台・宮城の皆様に寄り添い、親しみやすい法律事務所として、質の高いサービスを提供してまいります。
コラム「【2026年開始】亡くなった親の不動産を調べる方法|所有不動産記録証明制度を弁護士が解説」
親が亡くなって相続手続を始めようとしても、「親がどこに、どのような不動産を所有していたのか分からない」ということがあります。
自宅の土地・建物だけでなく、遠方の山林や農地、先代から相続した土地、わずかな共有持分などが残されていることも珍しくありません。
これまでは、固定資産税の納税通知書や市区町村の名寄帳などを手掛かりに、一つずつ不動産を調査する必要がありました。しかし、名寄帳は原則として市区町村ごとに取得しなければならず、相続人が把握していない地域にある不動産を発見することは容易ではありませんでした。
そこで、2026年(令和8年)2月2日から、新たに「所有不動産記録証明制度」が始まりました。
この制度を利用すると、亡くなった方が登記簿上の所有者として記録されている不動産を、全国の登記情報から一覧的に調べることができます。
本記事では、所有不動産記録証明制度の内容、請求できる人、手続方法、利用する際の注意点について、弁護士が解説します。
1 所有不動産記録証明制度とは
所有不動産記録証明制度とは、特定の人が所有権の登記名義人として記録されている不動産を、登記情報から検索し、一覧にした「所有不動産記録証明書」の交付を受けられる制度です。
例えば、父親が亡くなった場合、相続人が父親の氏名や住所などを検索条件として請求することで、父親名義で登記されている土地や建物を一覧的に確認できます。
所有不動産記録証明書には、主に次のような情報が記載されます。
- 不動産番号
- 土地の所在・地番
- 建物の所在・家屋番号
- 登記名義人の氏名・住所
- 所有権の持分
- 検索に使用した氏名・住所などの条件
これまでのように、不動産がありそうな市区町村を一つずつ推測して調査する必要がなくなるため、相続財産調査の負担を大きく軽減できる可能性があります。
2 なぜこの制度が作られたのか
所有不動産記録証明制度が設けられた背景には、相続した不動産が把握されないまま放置され、所有者不明土地が増加してきたという問題があります。
被相続人が複数の地域に不動産を所有している場合、相続人がそのすべてを把握できるとは限りません。
特に、次のような不動産は見落とされやすい傾向があります。
- 遠方にある山林や農地
- 固定資産税が課税されていない土地
- 評価額が低い土地
- 私道や墓地などの共有持分
- 祖父母やさらに前の世代から引き継いだ土地
- 被相続人が若い頃に取得した土地
- 所有権の一部の持分だけを有する不動産
相続人が存在を知らなければ、遺産分割協議の対象にもならず、相続登記も行われません。
そこで、登記名義人の氏名・住所などを手掛かりに、全国の不動産を一覧的に検索できる仕組みが導入されました。
3 誰が請求できるのか
所有不動産記録証明書を請求できるのは、主に次の人です。
(1)不動産の登記名義人本人
自分が所有権の登記名義人として記録されている不動産について、証明書を請求できます。
例えば、「自分が昔取得した土地を含め、どのような不動産を所有しているのか確認したい」という場合にも利用できます。
(2)登記名義人の相続人
登記名義人が亡くなっている場合、その相続人は、亡くなった方の所有不動産について証明書を請求できます。
配偶者や子だけでなく、相続関係によっては、親、兄弟姉妹、甥・姪などが請求できる場合もあります。
もっとも、相続人として請求する場合は、戸籍謄本などによって、被相続人が死亡したことや、請求者が相続人であることを証明する必要があります。
(3)代理人
本人や相続人から委任を受けた代理人も請求できます。
その場合には、原則として委任状などが必要です。
なお、所有不動産記録証明書は、通常の登記事項証明書とは異なり、誰でも自由に請求できるものではありません。個人の財産に関する情報であるため、請求できる人が限定されています。
4 どのように不動産を検索するのか
所有不動産記録証明制度では、登記簿に記録されている所有者の氏名・住所などを検索条件として不動産を調べます。
ここで重要なのは、検索条件として入力した氏名・住所と、登記簿に記録されている氏名・住所が一致しなければ、不動産が検索結果に表示されない可能性があるという点です。
例えば、被相続人が生前に何度も転居しているにもかかわらず、不動産登記上の住所変更をしていなかった場合には、現在の住所だけで検索しても、古い住所で登記された不動産が見つからないことがあります。
そのため、被相続人について、次の情報をできる限り確認しておく必要があります。
- 死亡時の氏名・住所
- 旧姓
- 過去の住所
- 氏名の旧字体・異体字
- 住居表示実施前の住所
- 海外居住歴がある場合の住所や氏名表記
過去の住所は、戸籍の附票や住民票の除票などから確認できる場合があります。
複数の氏名・住所を検索条件とする場合には、その氏名や住所を証明する戸籍、戸籍の附票、住民票の除票などが必要になることがあります。
5 請求に必要な書類
相続人が、亡くなった方の所有不動産記録証明書を請求する場合、一般的には次のような書類が必要になります。
- 所有不動産記録証明書交付請求書
- 被相続人の死亡が分かる戸籍・除籍謄本
- 請求者が相続人であることを証明する戸籍謄本
- 被相続人の住所を確認できる住民票の除票または戸籍の附票
- 請求者の本人確認書類
- 過去の氏名・住所を検索する場合、それを証明する書類
- 代理人が請求する場合は委任状
- 郵送請求の場合は返信用封筒・切手
ただし、相続関係や検索条件によって必要書類は異なります。
法定相続情報一覧図の写しを取得している場合には、戸籍一式に代えて利用できることがあります。
6 請求方法と手数料
所有不動産記録証明書は、次の方法で請求できます。
(1)法務局の窓口で書面請求する方法
所定の交付請求書と必要書類を法務局に提出します。
書面請求の手数料は、検索条件1件につき、証明書1通当たり1,600円です。手数料は収入印紙で納付します。
(2)法務局へ郵送で請求する方法
請求書、必要書類、収入印紙、返信用封筒・切手などを郵送して請求することもできます。
窓口に出向く必要がないため、遠方に住んでいる相続人でも利用できます。
(3)オンラインで請求する方法
登記・供託オンライン申請システムの申請用総合ソフトを利用して、オンラインで請求する方法もあります。
オンライン請求の手数料は、交付方法によって次のとおりです。
- 郵送で受け取る場合:1,500円
- 法務局の窓口で受け取る場合:1,470円
オンライン請求の手数料は、インターネットバンキングやペイジー対応ATMなどによる電子納付となります。
なお、手数料は証明書全体で一律ではなく、原則として「検索条件ごと」にかかります。
例えば、被相続人について4種類の氏名・住所を検索条件として書面請求する場合、1,600円×4件で6,400円となる場合があります。
7 所有不動産記録証明書を取得すれば、すべての不動産が判明するのか
所有不動産記録証明制度は非常に便利ですが、証明書を取得すれば、被相続人に関係するすべての不動産が必ず判明するとは限りません。
特に、次のような場合には注意が必要です。
(1)登記簿上の住所と検索条件が一致しない場合
被相続人が住所変更登記をしていなかった場合、死亡時の住所だけで検索しても、古い住所で登記されている不動産が表示されない可能性があります。
過去の住所が複数ある場合には、それぞれを検索条件とすることを検討する必要があります。
(2)氏名の表記が異なる場合
旧姓、旧字体、異体字などにより、検索条件と登記簿上の氏名が一致しないことがあります。
例えば、「髙」と「高」、「﨑」と「崎」など、文字の違いにも注意が必要です。
(3)登記されていない建物など
所有不動産記録証明制度は、登記情報を検索する制度です。
そのため、そもそも登記されていない建物などは、原則として検索結果に表示されません。
(4)被相続人以外の名義になっている場合
実際には被相続人が代金を支払った不動産でも、登記名義が別人であれば、被相続人の氏名・住所による検索結果には表示されません。
反対に、登記名義は被相続人であるものの、実質的な所有者について争いがある場合には、別途法的な検討が必要です。
(5)証明書だけでは権利関係の詳細が分からない場合
所有不動産記録証明書は、不動産を一覧的に把握するための資料です。
抵当権の有無、差押えの有無、共有者の詳細など、すべての登記事項が記載されるわけではありません。
不動産が判明した後は、各不動産の登記事項証明書を取得し、詳しい権利関係を確認する必要があります。
8 名寄帳との違い
不動産調査の方法としては、市区町村が発行する「名寄帳」もあります。
両者の主な違いは、次のとおりです。
| 項目 | 所有不動産記録証明書 | 名寄帳 |
|---|---|---|
| 情報の基礎 | 法務局の登記情報 | 市区町村の固定資産課税情報 |
| 調査範囲 | 全国の登記情報 | 原則として各市区町村内 |
| 主な目的 | 登記名義人の不動産を一覧的に確認する | 固定資産税の課税対象を確認する |
| 未登記建物 | 原則として把握できない | 課税されていれば掲載される可能性がある |
| 住所・氏名の不一致 | 検索されない可能性がある | 課税情報の内容による |
両方の制度にはそれぞれ長所と限界があります。
そのため、相続財産をできる限り漏れなく調査するには、所有不動産記録証明書だけに頼らず、次の資料も併せて確認することが重要です。
- 固定資産税の納税通知書
- 市区町村の名寄帳
- 登記事項証明書
- 権利証・登記識別情報通知
- 売買契約書
- 預金通帳の固定資産税引落履歴
- 被相続人宛ての郵便物
- 自治体や土地改良区からの通知
- 火災保険・地震保険の契約書類
9 不動産が見つかった後に必要な手続
所有不動産記録証明書を取得しただけでは、相続手続が完了するわけではありません。
不動産が判明した後は、通常、次のような手続が必要になります。
- 各不動産の登記事項証明書を取得する
- 固定資産評価証明書などを取得して評価額を確認する
- 遺言書の有無を確認する
- 相続人と相続財産を確定する
- 相続人間で遺産分割協議を行う
- 遺産分割協議書を作成する
- 相続登記を申請する
- 必要に応じて相続税を申告する
相続人間で話合いがまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることも検討します。
また、不動産を誰が取得するかによって、相続税だけでなく、将来売却した場合の譲渡所得税や、他の相続人に支払う代償金などにも違いが生じます。
遺産分割の方法を決める際には、法律面と税務面の両方から検討することが重要です。
10 相続登記には期限がある
2024年(令和6年)4月1日から、相続登記の申請が義務化されています。
相続によって不動産を取得した相続人は、原則として、相続によって所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記を申請しなければなりません。
正当な理由なく期限内に申請しなかった場合には、10万円以下の過料が科される可能性があります。
また、相続登記の義務化前に発生した相続も対象です。過去の相続について相続登記をしていない場合には、原則として2027年(令和9年)3月31日までに対応する必要があります。
遺産分割がまとまらず、期限内に通常の相続登記ができない場合には、「相続人申告登記」を利用して、ひとまず申請義務を履行する方法もあります。
ただし、相続人申告登記をしただけでは、遺産分割や最終的な相続登記が完了するわけではありません。遺産分割成立後には、改めてその内容に沿った登記が必要です。
11 よくある質問
Q1 父が不動産を持っていなかった場合も証明書は発行されますか
請求した検索条件に該当する不動産がない場合には、その旨を示す証明書が交付されます。
ただし、「該当する不動産がない」という結果であっても、別の住所や旧姓で登記された不動産、未登記建物などが存在しないことまで証明するものではありません。
Q2 兄弟の一人だけで請求できますか
共同相続人全員で請求する必要はなく、相続人の一人から請求できます。
ただし、被相続人との相続関係を戸籍などで証明する必要があります。
Q3 遺産分割協議の前でも請求できますか
請求できます。
むしろ、遺産分割協議を始める前に取得し、対象となる不動産をできる限り把握しておくことが重要です。
遺産の一部を見落としたまま協議すると、後から不動産が判明し、追加の遺産分割協議が必要になることがあります。
Q4 所有不動産記録証明書があれば、そのまま相続登記できますか
所有不動産記録証明書だけで相続登記ができるわけではありません。
相続登記には、戸籍関係書類、住民票、遺言書または遺産分割協議書、固定資産評価証明書などが必要になります。
Q5 相続人同士で不動産の分け方が決まらない場合はどうすればよいですか
まずは、不動産の評価額や利用状況、売却可能性などを確認したうえで協議します。
話合いがまとまらない場合には、家庭裁判所の遺産分割調停を利用します。
不動産の分け方には、一人が取得して他の相続人に代償金を支払う「代償分割」、不動産を売却して代金を分ける「換価分割」などがあります。安易に共有名義にすると、将来の売却や管理をめぐって新たな紛争が生じることがあるため、慎重な検討が必要です。
12 まとめ
2026年2月2日に始まった所有不動産記録証明制度により、亡くなった方が登記名義人となっている不動産を、全国の登記情報から一覧的に調べられるようになりました。
これまで把握が難しかった遠方の山林、農地、共有持分などを発見できる可能性があり、相続財産調査において非常に有用な制度です。
もっとも、検索条件となる氏名・住所と登記簿上の記録が一致しなければ、不動産が検索結果に表示されない可能性があります。また、未登記建物などは対象になりません。
相続財産を漏れなく調査するには、所有不動産記録証明書だけでなく、戸籍の附票、名寄帳、固定資産税の納税通知書、登記事項証明書なども併せて確認することが重要です。
不動産が判明した後には、遺産分割協議、相続登記、相続税申告などの手続が必要になります。
弁護士法人結の杜総合法律事務所では、相続財産の調査、遺産分割協議、遺産分割調停、相続登記に向けた手続などについてご相談をお受けしています。
当事務所には税理士事務所も併設しているため、不動産の分け方だけでなく、相続税や不動産売却時の税金なども含め、法律・税務の両面から検討することが可能です。
「亡くなった親の不動産がどこにあるか分からない」「不動産の分け方について相続人同士で話がまとまらない」といった場合には、お早めにご相談ください。
宮城県仙台市に拠点を置く弁護士法人結の杜総合法律事務所は、2012年の開設以来、地域の皆様の法的ニーズに応えてまいりました。代表の髙橋和聖は、地元宮城で生まれ育ち、弁護士・税理士としての資格を持ち、法律と税務の両面からサポートを提供しています。当事務所は、青葉区五橋に本店、泉区泉中央に支店を構え、2022年10月には東京支店も開設しました。これからも、仙台・宮城の皆様に寄り添い、親しみやすい法律事務所として、質の高いサービスを提供してまいります。
