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1 はじめに
物価高騰や景気悪化などにより、人件費の見直しを迫られる企業も増えています。その中で、有期契約の従業員(契約社員・パート・アルバイト等の非正規労働者)を契約期間途中で解雇できるのかというご相談が多く寄せられています。
しかし、有期契約労働者の契約期間中の解雇は、法律上強い制限があり、正社員よりもはるかに厳しい基準で判断される点に注意が必要です。
本コラムでは、企業が知っておくべきポイントを、裁判例も交えながらわかりやすく解説します。
2 有期労働者の「契約期間途中の解雇」は原則認められない
『有期労働契約の途中で労働者を解雇するには、“やむを得ない事由”が必要です。これを欠く解雇は無効となる可能性があります。』
期間の定めのある労働契約(有期契約)は、双方が一定期間働くことを約束するものです。そのため、
契約期間満了前に解雇が認められるのは、極めて例外的なケースに限られます。
(労働契約法17条1項、民法628条)
これは派遣労働者の場合も同様で、派遣先の都合で派遣契約が終了しても、労働者との雇用契約を途中終了させることはできません(プレミアライン事件)。
3 契約期間途中の解雇が認められる「やむを得ない事由」とは
『無期契約(正社員)の解雇よりも厳しい基準で判断されます。』
(1)有期契約期間中の解雇
有期契約の解雇には、
「期間満了まで待てないほどの特別・重大な事情」が必要
と裁判例でされています(大阪運輸振興事件ほか)。
例としては、
- 重大な非違行為
- 重大な経営危機で事業存続が困難
など、極めて深刻なケースが該当します。
なお、途中解雇が無効となった場合でも、その後契約期間が満了した場合は、雇止めの有効性を別途判断することになります(最判令和元年11月7日)。
(2)試用期間中の有期契約労働者の解雇
試用期間中であっても、
- 「客観的合理性・社会通念上の相当性」(三菱樹脂事件)
- 有期契約の「やむを得ない事由」
の双方が必要とされます。
ただし、試用期間の趣旨を考慮して、“やむを得ない事由”の判断はやや緩やかに認められるとした裁判例(東京高判令5・4・5)もあります。
4 裁判例にみる「無効とされた例」「有効とされた例」
▼【期間途中の解雇が無効とされたケース】
- 受注減による人員整理では「やむを得ない事由」に当たらないと判断(東京高決 平21・12・21)
- 塾長の能力不足を理由とした解雇は重大事由とは言えず無効(仙台高 秋田支判 平24・1・25)
- 社員への暴力行為があったが、偶発的で悪質性が低いとして無効(東京地判 平29・5・19)
▼【期間途中の解雇が有効とされたケース】
- 公益法人で収入減が避けられず、業務内容上の事情から給与引下げが不可避と判断され、やむを得ない事由が認められた例(東京高判 平21・11・18)
▼【途中解雇が無効でも、満了時の更新拒否は別途判断される】
- 解雇が無効であっても、契約期間満了による終了について判断すべきとした裁判例(最判 令和元・11・7)
▼【試用期間中の解雇が有効とされたケース】
- 能力不足が著しく、他部署への配置転換も困難で、「やむを得ない事由」を認めた例(東京高判 令5・4・5)
5 途中解雇が有効でも、会社に過失がある場合は損害賠償が必要
『やむを得ない事由の発生について、使用者(会社)に過失があれば損害賠償責任が発生します。』
民法628条により、
- 解雇自体は有効
- しかし、会社の不注意により“やむを得ない事由”が発生した
場合、労働者に対して損害賠償責任を負うことがあります。
人件費削減を目的とした安易な途中解雇は、
解雇無効リスク・損害賠償リスクを抱えるため、慎重な判断が必要です。
6 まとめ(企業が押さえるべきポイント)
- 有期労働者の途中解雇は原則禁止
- 正社員より厳しい「やむを得ない事由」が必要
- 試用期間中でも制限は残る
- 無効とされた裁判例が多数
- 有効な場合でも会社に過失があれば損害賠償
- 雇止めの判断は別途必要
途中解雇は極めてハードルが高く、専門家の判断が不可欠です。
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