コラム「離婚原因と離婚が認められる基準(許否基準)をわかりやすく解説」

1 はじめに|不貞をした夫から離婚請求された…応じる必要はある?

ご相談例
「夫は、私の暴言に耐えられないと言って突然家を出ましたが、実際には女性と同棲するためだったことが判明しました。私は不貞をした夫から離婚を求められる理由はないと思いますし、応じる気持ちもありません。このような場合でも離婚しなければならないのでしょうか。」

回答のポイント(結論)
・協議離婚や調停で話し合いが整わない場合、離婚訴訟に進みます。
・裁判所が離婚を認めるのは、「民法770条の離婚原因」がある場合に限られます。
・不貞をした側(有責配偶者)からの離婚請求は、一定の条件を満たさなければ認められないことがあります。

離婚原因の有無、有責配偶者からの離婚請求が認められるかどうかが大きなポイントになります。


2 離婚までの手続の流れ|協議→調停→(審判)→訴訟

夫婦の離婚方法は次の4つです。

  1. 協議離婚(民763)
  2. 調停離婚(家事244・268①)
  3. 審判離婚(家事284①〜③)
  4. 裁判上の離婚(民770)

協議でまとまらなければ、基本的には、家庭裁判所の調停 → 訴訟の順で進みます(審判離婚は比較的少数)。


3 離婚原因とは|民法770条の5つの類型

(1)離婚の訴えができるケース

民法770条1項で定める離婚原因は次の5つです。

  1. 不貞行為(配偶者以外との性的関係)
  2. 悪意の遺棄(正当理由なく同居・扶助義務を放棄)
  3. 3年以上の生死不明
  4. 強度の精神病で回復の見込みがないもの
  5. 婚姻を継続し難い重大な事由

①〜④は「具体的離婚原因」、⑤は「抽象的離婚原因」と呼ばれます。
また、①②は有責的離婚原因、③④は非有責的離婚原因、⑤はいずれも該当し得ます。

裁判所は、①〜④の事由があっても、夫婦関係の全事情を考慮し「婚姻を継続すべき相当性」があれば離婚を認めないことがあります(770条2項)。

(2)不貞行為

・自由意思に基づき配偶者以外と性的関係を結ぶこと。
・性的行為類似行為も、夫婦共同生活の平和を侵害する程度によって不貞と評価されることがある(東京地判令3・2・16)。
・同性間の性的行為も「婚姻を継続し難い重大な事由」とされた例があります。

(3)悪意の遺棄

正当な理由なく同居・協力・扶助義務(民752)に反すること。
やむを得ない事情がある場合は悪意の遺棄とは言えません。

(4)3年以上の生死不明

「最後に生存が確認できた時点」から起算します。

(5)強度の精神病

・婚姻生活が維持できないほどの精神疾患
・長期間の治療でも回復のめどが立たないこと
・療養環境の確保が図られているかにより判断が変わる(最判昭33・7・25、昭45・11・24)

(6)婚姻を継続し難い重大な事由の具体例

代表的なもの(裁判例ベース):

  1. 暴行・虐待
  2. 暴言・侮辱
  3. 家庭の放置
  4. 働く意欲の欠如
  5. 過度の浪費・借金
  6. 飲酒・薬物問題
  7. 背信行為
  8. 長期間の別居
  9. 親族との不和
  10. 訴訟・告訴
  11. 過度な宗教活動
  12. 同性愛
  13. 性生活の異常
  14. 病気・障害
  15. 性格の不一致・価値観の相違
  16. 愛情の喪失 ほか

特に「長期別居」(例:4年10か月で破綻と判断した例あり)は、重要な判断材料となりますが、
別居7年でも「破綻といえない」とされた例もあり、事情次第で結論が変わります。

離婚原因の有無は、客観的な事実を丁寧に主張・立証できるかが極めて重要です。


4 有責配偶者からの離婚請求|不貞をした側でも離婚できるのか?

従来、有責配偶者(不貞・暴力など夫婦関係破綻の原因を作った側)からの離婚請求は原則認められませんでした(最判昭27・2・19)。

しかし最高裁は大きく考え方を転換し、
一定の要件を満たせば、有責配偶者からの離婚請求も認められると判断しています。

【最高裁(昭62・9・2)による要件】

以下のすべてに該当する場合、離婚が認められ得ます。

  1. 長期間の別居(例:別居36年)
  2. 夫婦に未成熟子がいないこと
  3. 離婚しても相手が極めて苛酷な状態に陥らないこと(生活・精神・社会的側面)

その後の裁判例では、
・別居8年でも有責配偶者からの離婚請求を認めたもの
・未成熟子がいても事情により認められたもの
など、社会情勢を踏まえ柔軟な判断がされています。


5 最後に|離婚原因の有無・離婚が認められるかはケースごとに大きく異なります

離婚原因の判断は、判例・事実関係・婚姻生活の状況を踏まえた総合判断となり、専門的な知識が必要です。

結の杜総合法律事務所では、以下の点を丁寧にご説明します。

  • 離婚原因が認められるか
  • 有責配偶者からの離婚請求に応じるべきか
  • 調停・訴訟へ進むべきか
  • 必要な証拠や主張整理
  • 弁護士費用・解決までの流れ

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