コラム「破産するおそれのある会社から事業譲渡を受ける際のリスクとは― 倒産前M&A・事業譲受で必ず押さえるべき法的注意点 ―」

1 はじめに|「安く買える事業」には落とし穴がある

物価高や景気低迷が続く中、資金繰りに苦しむ企業が事業の一部を譲渡するケースは年々増えています。
一方で、譲受側から見れば、

  • 「有望な事業を安価に取得できるのではないか」
  • 「同業他社の顧客・ノウハウを引き継げるのではないか」

と考え、前向きに検討されることも少なくありません。

しかし、譲渡元の会社が破産に近い状態にある場合
事業譲渡そのものが後から覆される、極めて重大なリスクが潜んでいます。

本コラムでは、
破産するおそれのある会社から事業譲渡を受ける際に問題となる主な法的リスクと注意点を、実務・裁判例を踏まえて解説します。


2 破産管財人による「否認権」とは|事業譲渡が無効になるリスク

(1)否認権の概要

譲渡会社が破産した場合、
破産管財人は、破産手続開始前に行われた一定の取引を「否認」する権限を有します(破産法160条以下)。

事業譲渡が否認されると、

  • 譲り受けた事業・資産の返還
  • 返還できない場合は金銭による価額償還

を求められる可能性があります。

つまり、正規の手続きを踏んで契約したとしても、安全とは限らないのです。


(2)事業譲渡で問題となりやすい否認類型

事業譲渡との関係で、特に問題となるのは以下の類型です。

① 詐害行為否認(破産法160条1項1号・2号)

  • 破産者が債権者を害することを知りながら行った行為
  • 支払停止後などに行われ、債権者に不利益を与える行為

👉 譲受会社が「資金繰り悪化」や「破産の危険」を知っていた場合、否認される可能性が高まります。

② 無償否認(破産法160条3項)

  • 無償、または無償と同視できるほど不当に低廉な価格での譲渡

👉 「格安での事業譲受」は、極めて危険です。


(3)裁判例から見る否認リスク

裁判例では、

  • 実質的に無償で取引先関係を移転させた事案につき無償否認を認めた例
  • 事業譲渡について詐害行為否認を認め、価額償還を命じた例

など、譲受会社に厳しい判断が数多く示されています。


3 破産していなくても要注意|債権者の「詐害行為取消権」

(1)民法上の詐害行為取消権

譲渡会社がまだ破産していない場合でも、
債権者は民法424条以下に基づき、事業譲渡の取消しを求めることができます。

  • 債務者が債権者を害することを知ってした行為
  • 譲受人も害意を知っていた場合

には、取消しが認められる可能性があります。

(2)期間制限にも注意

  • 債権者が事実を知ってから2年
  • 行為時から10年

を経過すると行使できなくなりますが、
取引後、長期間リスクが残る点は看過できません。


4 商号続用による責任|社名を引き継ぐリスク

事業譲受後、譲渡会社の商号を引き続き使用する場合
譲受会社が譲渡会社の債務についても責任を負う可能性があります(会社法22条)。

  • Webサイト
  • 商品パッケージ
  • 名刺・看板

などの扱いには、特に注意が必要です。


5 詐害的事業譲渡における譲受会社の責任(会社法23条の2)

譲渡会社が、

  • 債権者を害することを知りながら事業譲渡を行った場合

には、
譲受会社は、承継した財産の価額を限度として責任を負う可能性があります。

もっとも、破産・再生等の法的倒産手続が開始されている場合には、
この責任が否定されるケースもあり、事案ごとの精緻な判断が不可欠です。


6 まとめ|倒産前事業譲渡は「専門家関与」が不可欠

破産するおそれのある会社からの事業譲受は、

  • 否認権
  • 詐害行為取消権
  • 商号続用責任
  • 譲受会社の直接責任

といった複数の重大リスクを伴います。

特に、

  • 不当に安い価格
  • 無償に近い譲渡
  • 譲渡会社の資金繰り悪化を認識している場合

には、後日、事業を失う可能性すらあることを十分理解しておく必要があります。


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